各国・各地で「千葉・鴨川 ─里山という「いのちの彫刻」─」

農の新しい姿 ~伝統と革新~

2016年10月19日

10月1日土曜日は、「鴨川里山トラスト 有機米の会」の収穫祭が行われました。
3人の長老が日本酒を持って、お祝いに駆けつけてくれました。

古民家ゆうぎつかの庭には、諸国良品でも販売しているFUSABUSAのすべての素材を地元にこだわった「たまちちぷりん」と「たまちちしろぷりん」の出店や、自然酒の会でお酒を仕込んで頂いている寺田本家の自然酒やオーガニックビールなどの販売もあり、今回は農作業がないので朝からのんびりムードです。すでに、長老たちは朝から乾杯です!

午前中は、古民家の土間で今年1年間のお米づくりのスライドショーを流しながら、この活動の意義を僕からお話しさせて頂きました。
人口減少社会で今後、山間部の農地や集落はドンドン消えていくと言われています。
僕の暮らす地域も車で走っていると、あ〜ここもまた耕作放棄地になってしまったな〜、あーあそこもだ!というふうに毎年のように耕作放棄地が増えている現状で、こうして都会の人々がお米づくりに通い、さらに良品計画という企業が応援してくれることで、山間部の棚田を保全できることは本当にありがたいことです。このような取り組みが微力ながらも失われゆく日本の農と文化と自然を守ることにつながると思っています。

エシカルビジネスと大地の文化運動

良品計画からも、釜沼北集落に移築される「棚田オフィス」や鴨川に開設された「鴨川サテライトオフィス」について説明して頂きました。

『「鴨川里山トラスト」での棚田保全活動に加え、「棚田オフィス」を中心に里山の整備と地域課題の解決を進めていきます。』

『インターネットが発達し日本中どこでも仕事が出来るようになりました。さらに都市で行っていた仕事だけでなく、農村にオフィスを構えることで、地域の課題の解決を住民と共に考え、廃校の利用や未利用資源の活用等、「課題を仕事に」つなげる取り組みを無印良品は始めます。』

今までの企業のCSRや公的機関の補助金や助成金による社会活動へのサポートは、資金援助だけでしたので、その資金が途切れると同時にその活動も停止してしまうことも多々ありましたが、今回の良品計画の関わりはそれとは異なります。
社員が鴨川へ移住し、地域と共に考え、課題を仕事につなげ、ビジネスを創り、地域にお金を落とし、商いを通して持続可能に地域を応援することを目指しています。
今年は、良品計画の声掛けで、試験的に地元の酒蔵さんの協力のもと、新しく販売するお酒の原料のお米に釜沼北集落のお米が使われます。釜沼北集落の現役でお米をつくっている農家6名から、地元の酒蔵さんに地元の標準価格より少し高い価格で買い取ってもらい、製品化をして、地元の酒蔵さんと無印良品の一部店舗などで販売します。
これは地域の農家にも、地元の酒蔵さんにも、良品計画にも、関わる人たちすべてに利益があり、農地と環境を守ることにもつながるまさに近江商人の三方良しです。
また、南房総市の廃校をリノベーションした新型コミュニティセンター「シラハマ校舎」の校庭に菜園付の無印良品の小屋が約20棟、販売の予定となっています。
その他の取り組みとして無印良品は地方のお店を拠点に、地域と密着した様々なイベントを始めています。
さらに、岐阜県と山梨県で棚田保全の活動も始まり、鴨川や有楽町店で行っている年末恒例のしめ縄飾りのワークショップも全国の大型店舗で今年から開催されます。
釜沼北集落で取り組まれている小さな事例が、日本中に広がることは僕にとっても嬉しいことです。
どこの地方の農山漁村も同じ状況で、疲弊しています。
だからこそ僕は、この鴨川モデルを日本全国の地方へ広げたいというビジョンがあります。
東京と鴨川で出来たことは、名古屋でも、大阪でも、福岡でも、札幌でも、日本中の地方都市で出来る可能性があります。そして、それは都市化が進む全世界にも言えることです。
こういう取り組みが出来るのは、国内に直営店が321店舗あり、さらに海外にも344店舗(2016年10月現在)ある良品計画だからこそ出来るエシカルビジネスであり、大地に根ざした文化運動だと思います。
水と空気と大地と食を支えているのはローカルなのですから、ローカルの自然と文化とコミュニティが守られ自立し、都会と田舎の共存共栄が成り立たなければ、長期的に見ればお互い共倒れになってしまうでしょう。

究極のごちそう

その後は、今年のお米づくりに参加してくれた方へ、トラストした棚田で収穫した新米をお渡ししました。
今年の長雨と台風の影響は千葉県のみならず、日本全域で同じように稲刈りに苦労していると聞きますが、トラストしている棚田には多くの人が来てくださり、大変でしたが無事にお米を収穫することが出来ました。通ってくれたみなさんに、僕は一人ひとりに感謝の気持ちを伝え、新米を手渡しました。
本当にありがとうございました!

昼食は「こころ」の木村夫妻にお願いしました。
今回は、参加者のみなさんと新米のおにぎりを結びました。
おにぎりはシンプルに塩むすびと新しょうがと大葉のおにぎりです。

田植えから稲刈りまで自分で育てた新米を、自分の手でにぎったおにぎりを食べることほど、美味しい食べものはありません。それは、ある意味で究極のごちそうです。

おかずと汁は、南瓜の豆乳コロッケ、栗の醤油煮ともろみ粕のクラッカー、いちじくと玉ねぎのかき揚げ、キノコと菊花和え、赤ピーマンとオレンジ、緑ピーマンのナムル、落花生、芋の蜜煮、イワシのだんご汁と、今回も木村夫妻は房総半島の秋の食材を使って、素晴らしい料理をつくってくれました。

幽玄の神楽

午後からは、野外へと会場が移りました。
古民家ゆうぎつかの外へ出ると金木犀の甘い香りが、クラクラするほどあたり一面に充満しています。

今回の収穫祭に向けて、トラストしている棚田の一番上に棚田全体を見下ろす絶景のテラス(これは仮設ですが棚田オフィス移築に合わせて完成します)が設置されました。

このテラスで収穫祭のお祝いに地元の大山地区金束集落の神楽の奉納があるのですが、午前中は小雨がぱらつき開催が危ぶまれました。
しかし、ありがたいことに午後には雨も止み、なんとか出来ることになりました。
ここぞ!という時には、いつもなんとかなるものです。

ピーヒャラ、ピーヒャラ、ドンドンドンとお囃子が聞こえ始めると、みんな吸い込まれるように急ぎ足で棚田へむかって歩いて行きます。そして棚田を登って行くと、棚田テラスの上でお囃子を奏でる金束芸能保存会の勇姿が見えてきました。
それは、もう黒澤明監督の映画のように絵になる美しさです。
お祭り男の血が騒ぐ長老のじいたさんとこんぴらさんも、「よし、俺らも久々にやるか!」と言って、テラスに上がってバチを取り、いぶし銀の太古を披露してくれました。

横笛の調べが里山に染み入り、お囃子の太古が棚田に響き、棚田テラスで時に優雅に、時にひょうきんに、時に激しく舞う獅子の姿は、まさに幽玄の美です。

里山に囲まれた棚田はすり鉢状になっているので、ギリシャの円形劇場のように音が良く響きます。僕は常々、棚田は天然の芸術劇場やコンサートホールのようだと思っていましたので、棚田テラスで舞う神楽には本当に感動しました。

本来のカルチャーへ

釜沼北集落の天水棚田はお米をつくる場だけでなく、文化・芸術・教育・レジャー・健康・スポーツ・観光・信仰・祭り・国際交流・都会人の小さな自給と働く場であり、現代社会にとって価値のある多目的空間となったのです。
これは、農の新しい姿です。いや、それこそ本来の姿なのです。

「農業」は、英語ではAguricuture(アグリカルチャー)で、語源はラテン語のAguri(アグリ/畑)とCulture(カルチャー/耕す)の合成語です。そしてCulture(カルチャー)とは「文化」でもあります。
大地から離れてしまった現代人の僕らは、もう一度本来のカルチャーを取り戻し始めたのです。

でも、それは過去に戻るのではなく、新たなデザインが加わることで、伝統と革新が融合し、再創造されていきます。
もし、同時代に宮沢賢治が生きていたら、僕は彼と一緒にこの棚田テラスでポエトリーリーディングやチェロのコンサートをやり、農業と芸術について語り合いたいと夢想しました。

Photo by Hirono Masuda

  • プロフィール 林良樹
    千葉・鴨川の里山に暮らし、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っています。
    NPO法人うず 理事長
    T&T研究所 研究員

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