MUJIキャラバン

作り手のぬくもり

2012年11月26日

その器でコーヒーを飲んだとき、
どこか温かみを感じ、ほんわかとした気持ちになれたのは、
作り手の雰囲気が器に表れていたからかもしれません。

鳥取県岩美町にある「延興寺窯(えんごうじがま)」。

父・山下清志さんと娘・裕代さんの父娘で作陶に励む窯元です。

お二人ともとても柔和で優しい雰囲気をお持ちで、
その空気感がそのまま焼物にも伝わっているようでした。

しかし、ひとたび工房に入れば、父娘から師弟の関係に。

ゆったりとした空気と、ほどよい緊張感に包まれた自宅内の工房は、
まさに、父の背中を見て育つといった環境でした。

父・清志さんがこの地で開窯されたのは今から33年前。

もともとコンピューター制御の仕事で会社勤めしていた清志さんは、
丹波立杭焼で修業していた兄の誘いもあって、生田和孝氏に師事。

故郷の鳥取に戻り、兄とともに磁器による浦富焼を再興し、
その後、陶器の土を求め、1979年にこの延興寺の地にたどり着きました。

「陶工は土を求めて回る。昔の民陶のスタイルはみんなそうでした」

あくまでも焼物の原点を追求する清志さんの案内のもと、
自宅近くの土の採取現場へ。

採取した土はしばらくの期間、天日干しで乾燥され、

自らの手によって生成されていきます。

「こうして大地の恵みに触れていると、謙虚な気持ちになれるんです」

そう話す清志さんが使う釉薬も、もちろん地元で採れるもの。

白釉のためのもみ殻は、地元の農家の方から、
黒釉のための黒石は、近くの河原で採れるそうですが、
そこには推定1600万年前の成分が含まれているそうです。

「私たちは地球の資源に生かされていることを実感しますよね」

清志さんによって成型される器が、
裕代さんに渡り、削りが加えられていきます。

裕代さんは、沖縄県の読谷村焼・北窯で約3年間の修業後、
8年前に帰郷し、父のもとで作陶をはじめられました。

「毎日の仕事を大事にしています」

と話す裕代さんの手仕事も、とても優しく丁寧なもの。
こうして父娘の協働による器が生み出されています。

思わず手に取ってみたくなるような温かみを感じます。

装飾のしのぎや藁描き、櫛描きといった技法は、
清志さんの恩師、生田さんからの直伝です。

師から弟子に継承された技術は今、
父から娘へと伝承されていっています。

最後に清志さんは、自然いっぱいに囲まれる環境で、
ものづくりに対する想いを語ってくださいました。

「普遍的であるがままの世界のなかで、
決して無理をせずに、美しいものを作っていきたい」

作り手のぬくもりを感じる器は、
大地の恵みと父娘の愛情がたっぷりと詰まっているものでした。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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