子育て・教育のほとりで
子どもが一般の学校ではないオルタナティブスクールに通うようになってから、子育てや教育に興味を持ち、学ぶようになりました。学校外の「多様な学び」や「不登校問題」「海外の教育事情」など、子育て・教育まわりのさまざまな話題を取り上げて紹介していきたいと思います。

病気じゃない。それは個性

2020年09月23日

誰にでもある特性

「ADHD」という言葉をご存じですか。「Attention deficit hyperactivity disorder」の略で、日本語に訳すと「注意欠陥多動性障害」となります。不注意(集中力のなさ)、多動性(落ち着きのなさ)、衝動性(順番待ちができない)などの特性をともなう「発達障害」の一種といわれています。
「障害」というと病気のように聞こえますが、こういった特性は程度の差こそあれ、誰もが持ちあわせているものだと思います。私自身も子どもの頃から落ち着きがなく、小学校ではよく注意されました。いまだにじっとしていることが苦手で、順番待ちも嫌いなので、行列のできる店には滅多に行きません。浦安にあるテーマパークも行列が多いので、自ら進んで行くことはありません。診断を受けたことはないので分かりませんが、厳密にいえばADHD傾向にあるのではないかと自分では思っています。
ただ、こういう特性を持ちながらも、私の場合は先生に怒られたり注意されたりしながらも学校に通い、社会に出て仕事を持つことができました。まぁ、組織などに属するのは苦手なのでフリーでやってきましたが、こうして文章を書いてなんとか生きてこられたので、私に限っていえば、この特性はさしたる「障害」にはなりませんでした。
でも、いまの時代、これが障害になってしまう場所があります。それが学校です。落ち着きがない、忘れ物をする、指示に従えない、こういった特性は学校の集団行動の妨げになります。それゆえに先生からは叱られ、問題児扱いされ、学級崩壊を招くような場合には周囲の保護者からも白い目で見られます。ただの特性では済まされず、ADHDという病名が与えられてしまいます。

ある振付師のエピソード

サー・ケン・ロビンソンさんは、イギリスのウォーリック大学教育学部で12年間教授を務めた後、同大学の名誉教授として、企業や教育界が取り組むべき創造的挑戦についての講演活動を行ってきました。そのケン・ロビンソンさんが2006年に行った有名なTEDプレゼンテーションの動画があります。タイトルは「学校は創造性を殺してしまっている」。このTEDの中で、彼はあるひとりの女性についてのエピソードを紹介しています。それはニューヨークのブロードウェイで「キャッツ」や「オペラ座の怪人」などの振り付けをした振付師、ジリアン・リンさんです。
ロビンソンさんがインタビューで「どうしてあなたはダンサーになったの」と尋ねると、意外な答えが返ってきました。ジリアンは小学生時代、まったく絶望的な状態にあったというのです。集中力がなく、いつもそわそわ。学校は彼女のことを問題児扱いしていました。そこで両親とジリアンは専門家のもとに相談に行きました。医者は母親からジリアンについてのさまざまな問題を聞き出しました。彼女はいつも遅れて宿題を出したり、他の学生の学習に支障をきたしたりする存在だったのです。するとその医者はジリアンのもとに来て、こう言いました。「ジリアン、お母さんと2人きりで話がしたいので、少しここで待ってて」と。そうしてジリアンを一人残し、医者と母親は部屋を出ていきました。その際、医者はラジオのスイッチを入れていきました。
部屋の外に出た医者は母親に「ここでジリアンを見ていてください」と伝えました。するとジリアンは元気そうに、ラジオの音楽に合わせて体を動かしはじめました。しばらくその様子を見守った後、医者は母親にこう言いました。「お母さん、ジリアンは病気なんかじゃありません。ダンサーですよ。ダンススクールに通わせてあげなさい」。その医者のひと言が、後の高名な振付師、ジリアン・リンを生み出したのです。

学びの場は、学校だけじゃない

ロビンソンさんがその後のことをジリアンに尋ねると、こう言ったそうです。「母親はダンススクールに行かせてくれたわ。どんなに楽しかったか言葉じゃ表せない」。そして彼女はこうも付け加えました。「ダンススクールには私みたいな子ばかりいた。みんなじっとしていられないの」。
もちろん、すべてのケースがこのエピソードのようにうまく行くとは限りません。ADHDの症状はさまざまで、時には医師の処方が必要になる場合もあります。ただ、この話から学べるのは、環境によってその人の特性は「個性」にもなれば「障害」にもなりうるということ。ADHDのような特性を持った子は、いまの学校でも問題児扱いされ、不登校になるケースが多いのです。そういう場合は、集団行動を強いる学校に戻そうとするよりも、もっと自由で個性を大切にしてくれるオルタナティブスクールやフリースクールに通うとか、あるいはジリアンのようにダンスをやったり、スポーツ、音楽、調理やデザインなど、自分の「好き」を活かせる場に身を置くこともひとつの方策だと思います。
「水を得た魚」という言葉があるように、環境を変えるだけでイキイキしはじめる子どもはたくさんいます。「学校だけが学びの場」という先入観を捨てることで、輝き出す個性があるのです。

参考資料:
Sir Ken Robinson|TED2006「学校教育は創造性を殺してしまっている」

(イラスト:中田晢夫)

  • プロフィール くらしの良品研究所スタッフ。18歳の子どもの父親。一般財団法人東京サドベリースクール評議員。

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