子育て・教育のほとりで
子どもが一般の学校ではないオルタナティブスクールに通うようになってから、子育てや教育に興味を持ち、学ぶようになりました。学校外の「多様な学び」や「不登校問題」「海外の教育事情」など、子育て・教育まわりのさまざまな話題を取り上げて紹介していきたいと思います。

子どもの力を信じよう!(最終回)

2022年02月09日

子どもにもっと自由を!

2018年4月に始まったブログ「子育て・教育のほとりで」ですが、今回で最終回となります。ここまで読んできてくださったみなさま、ありがとうございました。この4年ほどの間に、私はこの場を借りて、自分が学んだり気づいたりしたことをとりとめもなく書いてきました。日本の学校教育や不登校の問題、サドベリー教育やシュタイナー教育、イエナプランなどのオルタナティブ教育、そして教育先進国であるフィンランドの取り組みなどについてです。
そんな中で私が深く感じたのは、日本の大人は「もっと子どもの力を信じていいのではないか」ということでした。学校でも家庭でも子どもたちは日々、「あれをしなさい」「これはしちゃだめ」と、指示や命令を浴びるようにして過ごしています。自由な遊びは制限され、大人に干渉されない場所や時間がどんどん減ってきています。そういう環境で子どもが育つとどうなるか? 当然のことながら個性は削られ、自主性はしぼみ、まわりに同調して行動するようになります。つまり、自己主張をしない"いい子"に育っていきます。そんな子が大きくなって社会に出て、「いまの子は自主性がない」「覇気がない」などと非難されるのですから、たまったものではありません。子どもが望んでそうなったのではなく、私たち大人がそうさせてきてしまったのですから。

子どもは独立した一人の人間

フィンランドの公立校には制服がなく、生徒は自分の好きなスタイルで登校してきます。中には髪を派手な色に染めたり、ピアスを開けたりする子も。見学に行った日本人の元教員が「服装の決まりはないのですか?」と先生に尋ねると、不思議そうな顔で、「それはパーソナルな問題なので、こっちの言うことではないでしょう」と言われたそうです。服装やスタイルは個人の自由だと。そこには子どもを指導すべき対象として見るのではなく、大人と対等の独立した一個の人間として見なす文化があるのです。
そう、日本の大人は総じて、必要以上に子どもを"子ども扱い"する傾向にあります。この背景には、長年この国で続いてきた、上下関係を重んじる封建的な気質があるのではないでしょうか。戦後、新しい憲法のもとに生まれ変わった日本では、基本的人権や表現の自由、男女平等が認められたにもかかわらず、社会の中に戦前から続く"封建気質"が残ってしまいました。学校での先輩・後輩の関係、会社での上司・部下の関係、厳しすぎる体育会系の気質など、年齢の低い者は未熟で、経験豊富な年長者の指示に従わなければならない。こういう一時代前の古い社会通念が、家庭にも学校にも企業の中にも残り、さまざまな弊害となって現れてきているのです。

子どもの力を信じる

このような"封建気質"は、世の中が固定化され、新しい物事が起きない時代には有効だったと思います。知識や経験の豊富な年長者に従うことで、世の中がうまく回っていたからです。しかし、いまのような技術革新が目まぐるしく起きる時代はどうでしょう。1990年代からインターネットが普及し、電話がスマホに変わり、オンラインショッピングが台頭し、AIやロボットまでが登場するようになりました。たった30年あまりで、世の中は大きく様変わりしてきたのです。子どもに聞かなければアプリの使い方もままならない親や、ネットのことを部下に教えてもらう上司が、どんどん増えてきています。封建制度の社会では、確かに知識や経験を持つ目上の人が尊敬されてきました。しかし、いまや立場は逆転し、デジタルネイティブの子どもたちの方が、はるかに先端の知識を有しているのです。このような変化の激しい時代には、若い世代の伸びやかな発想や行動力こそが必要なのです。
その変化に気づかずに、日本の社会は旧態依然とした考え方で、子どもを"子ども扱い"して才能を奪っています。子どもは、大人が思っているほど子どもではありませんし、未熟でもありません。体は小さいかもしれないけれど、その澄んだ瞳で世の中のことをよく見て、さまざまなことを深く考えています。実際、スポーツや勝負の世界を見ると、子どもと呼ばれる年齢から活躍する人は少なくありません。いや、むしろ人間の能力のピークは10代から20代半ばに来るのではないでしょうか。そんな人生の全盛期にいる子どもたちを未熟者として扱うのは、あまりにももったいない。それは個々人の問題だけではなく、社会にとっての大きな損失にもなっていると思います。
子どもにもっと自由を与えましょう。のびのびと好きなことをさせましょう。学校でも、家庭でも、大切なのは「大人が子どもの力を信じること」。経験少ない子どもたちは失敗するかもしれませんが、そのチャレンジを温かく見守り、サポートしてあげることが、大人の務めではないでしょうか。世の中が変わってきたのだから、それに合わせて、私たちの子どもに対する意識も変えていくべきだと思います。

当ブログは今回で終了いたします。長い間ありがとうございました。以下に私自身のブログと著書をご紹介しておきますので、よかったら参照してみてください。

参考図書:
「もう不登校で悩まない! おはなしワクチン/蓑田雅之」(びーんずネット)
「『とりあえずビール。』で、不登校を解決する/蓑田雅之」(びーんずネット)

参考ブログ:
「おはなしワクチン」

(イラスト:中田晢夫)

  • プロフィール くらしの良品研究所スタッフ。一児の父親。一般財団法人東京サドベリースクール評議員。

最新の記事一覧