子育て・教育のほとりで
子どもが一般の学校ではないオルタナティブスクールに通うようになってから、子育てや教育に興味を持ち、学ぶようになりました。学校外の「多様な学び」や「不登校問題」「海外の教育事情」など、子育て・教育まわりのさまざまな話題を取り上げて紹介していきたいと思います。

シュタイナー教育

2021年03月24日

人智学に基づく教育

前回のこのブログでは、シュタイナー教育の「エポック授業」のことを紹介しました。今回は、「シュタイナー教育」ってそもそも何なのかということについて書きたいと思います。
「シュタイナー教育」という呼び名は、創始者であるルドルフ・シュタイナーに由来しています。1861年、オーストリア帝国のクラリュベクという町に生まれたシュタイナーは、人智学(アントロポゾフィー)という哲学思想を打ち立て、この考えに基づいた独自の教育法を提唱し、自ら実践していきました。
はじめてのシュタイナー学校は、ドイツのシュツットガルトという町に1919年に誕生します。ヴァルドルフ・アストリア煙草工場を経営していたエミール・モルトという人が、シュタイナーの教育理念に共鳴し、工場の一角に労働者の子どものための学校を設立したのがはじまりで、その学校は工場の名前を冠して「自由ヴァルドルフ学校」と呼ばれました。以後この名前にちなみ、シュタイナー教育は「ヴァルドルフ教育」とも呼ばれるようになりました。
シュタイナー教育の最大の特徴は、人間の内なる霊性を重んじる「人智学」に基づいているところ。芸術性や神秘性、身体性などをとても大切にしています。私の子も一時期シュタイナーの幼児教室に通っていましたが、窓を生成りの布で覆って薄暗くした部屋で、静かに歌を歌ったり、車座になってお遊びをしたりと、独特の神秘的な雰囲気がありました。

体・心・頭のバランスを重視

シュタイナーの深い人間観察に基づくこの教育では、「体と心と頭」のバランスを重要視しています。この3つを調和させて育むために、シュタイナー学校では人間の成長期を7年ごとに分けて、それぞれの時期にふさわしい教育を授けていきます。
0~7歳は「体の基礎を作る時期」、7才~14歳は「感情を豊かに育む時期」、14才~21歳は「抽象的・論理的思考を養う時期」。淡い夢の中にいるような幼少期の世界から、理性の光に照らされた明るい大人の世界へと、人間の発達段階に合わせてカリキュラムが組まれています。幼児期から算数や読み書きを教えこむ英才教育などとは正反対のところにある教育ですね。
他にも、「フォルメン線描」という体の動きから直線や曲線などの形が生まれることを体感する授業や、音楽と言語を体の動きによって表現する「オイリュトミー」、独特の色彩感覚と雰囲気を持つ水彩のにじみ絵や、粘土や木を使った美術・工芸、編みもの、刺繍、人形づくりといった手仕事など、シュタイナー教育ならではのユニークな授業がいっぱいあります。
もうひとつシュタイナー教育には大きな特色があって、それはゲームやテレビ、スマホなどの電子機器を子どもから遠ざけていること。特に0~7歳までの幼少期は、体の発達を大切にするため、学校ではもちろん、家庭においてもテレビやゲームを避けるように言われます。椅子に座りっぱなしになることや、大量の情報を浴びて頭がビジーになることを防ぐ目的があるようです。

世界ではメジャーな教育

現在、シュタイナー教育は60カ国以上に広がり、学校は1000校以上あるといわれています。世界ではかなりメジャーな教育として認知され、シュタイナー教育を採用している義務教育の学校も少なくありません。ところが、日本を見ると全日制のシュタイナーの学校は全国でわずか7校しかありません。そのうち文科省から認可されている学校法人は、わずか2校のみ。他の5校は国から助成を受けられないNPO法人のオルタナティブスクールとして運営しています。
なぜ日本ではシュタイナー教育が普及しないのでしょうか。その理由は簡単で、学校法人としての認可を得るのが難しいからです。障壁となっているのは、教育方針やカリキュラムではありません。国が決めた「小学校設置基準」があり、その基準をクリアすることがとてつもなく大変なのです。たとえば小学校の場合だと、1~40名の生徒がいる学校を作るには、校舎の面積500m²以上、運動場の面積2700m²以上が必要で、保健室や図書室、体育館なども設置しなくてはなりません。日本でオルタナティブ教育の学校法人を設立するのには、途方もない財力が必要なのですね。

100年以上も前に誕生したシュタイナー教育ですが、いまなお古くならずに現代人の心を捉えるのは、この教育が人間の本質に根ざしたところから生まれてきたものだからでしょう。
21世紀に入ってから、台湾などのアジアの国でも、シュタイナー教育を公教育に採り入れる動きが広がっています。多様な人材を育てるためには、教育にも多様性が必要であるとの認識からでしょう。日本もそろそろ画一的な公教育に終止符を打ち、オルタナティブな教育に門戸を開く時期に来ているのかもしれません。そのためにはぜひとも、厳しすぎる学校設置の基準を緩和して、個性豊かな学校の設立を促し、義務教育の中で自由に選べるようにしてほしいと思います。

(イラスト:中田晢夫)

  • プロフィール くらしの良品研究所スタッフ。18歳の子どもの父親。一般財団法人東京サドベリースクール評議員。

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