子育て・教育のほとりで
子どもが一般の学校ではないオルタナティブスクールに通うようになってから、子育てや教育に興味を持ち、学ぶようになりました。学校外の「多様な学び」や「不登校問題」「海外の教育事情」など、子育て・教育まわりのさまざまな話題を取り上げて紹介していきたいと思います。

自分なりの子育て

2020年04月15日

きっかけは息子の夜泣き

当たり前のことですが、人間は一人ひとり違っていて、同じ人は二人といません。なぜ、あえてこんな当たり前のことを言うかというと、子育てをしていると、ときどきこの当たり前の事実を忘れてしまうことがあるからです。私たち夫婦がそれを痛感したのは、息子の夜泣きを通してでした。
敏感な性質なのか、息子は生まれたときからよく泣きました。妻の腕の中でようやく眠りに落ちたかと思いきや、ベッドの上にそろりと置くと目を覚まし、ふたたび火が付いたように泣き始めるのです。「おー、よしよし」と抱いて何度なだめたことか。今となってはよき思い出ですが、当時はけっこうたいへんで、「うちの子はよく眠るのよー」なんていう他のママさんの話を羨ましく聞いた覚えがあります。
さて、この夜泣きですが、もちろん私たちは対処法を調べました。育児書を買ってきて読んだり、先輩ママのアドバイスを仰いでみたり。ところが、困ったことに専門家の間でも意見がさまざまで、何が正しいのか分からないのです。「抱き癖がつくから放っておきなさい」という人がいれば、「泣きやむまで抱っこした方がいい」という意見もありました。で、結果として私たちが参考にしたのは、「シアーズ博士夫妻のベビーブック」という子育て本。小児科医であり8人の子を育てたウィリアム・シアーズ博士と、妻のマーサさんの共著で、この中に「感受性の強い赤ちゃんの育て方」という章があったのです。それを読むと、まさに驚くほど我が子にぴったりのことが書いてありました。博士のアドバイスを参考に、私たちは毎晩のように夜泣きする子を放置することなく、泣きやむまで抱っこをして、ありったけの愛情を注いで育てることにしました。

ベビーブックから学んだこと

私たち夫婦がシアーズ博士から学んだのは、夜泣きへの対処法だけではありません。最も大きな気づきは、子どもは一人ひとり違うという当たり前のことでした。どれとして同じ子はいないのだから、その子の特性に合った子育てが必要ではないか…。8人ものお子さんを育ててきたシアーズ夫妻ならではの視点からもらった気づきです。
でも、大多数の人のアドバイスは、専門家も含めて違っていました。「子どもはこう育てるべき」という、一般化された「子ども」というものを対象に語られるものが多かったのです。たとえば、「子どもにはスポーツをさせなさい」とか「子どもは自然に触れあうべき」とか。「子どもは薄着で育てろ」とか「子どもは甘やかしてはいけない」とか。どれもが"もっとも"と思えるアドバイスなのですが、でも、こういうときの「子ども」って一体誰のことだろうという疑問が残りました。子どもが100人いたら100通りの子がいて、ひとくちに「子どもは〇〇だ」などと言えないのではないか。そう気づいたときから、私たちの子育ての方針は固まりました。専門家がどう言おうが、先輩ママがどう言おうが、鵜呑みにするのはやめにして、「うちの子にとってはどうなんだろう?」と、自分なりの視点を大切にするようになったのです。

子どもをよく観る

"自分なりの子育て"をするためには、当然のことながら"自分の子をよく知る"必要があります。そのために私たちは、自分の子がどんな特質を持っていて、何が得意で何が不得意かとか、何が好きで何が苦手かを注意して観るようになりました。でも、これはそんなに難しいことではありません。親は毎日子どもと接しているわけで、他の誰よりも子どもと過ごす時間が長い。だから、誰よりも子どものことを熟知する存在になりうるのです。そして、誰よりも子どもを知っているという自覚が持てれば、他人の意見にそう簡単に左右されることはなくなります。たとえそれが専門家の知見であっても、鵜呑みにする必要はない。まずは自分の頭で考え、咀嚼して、腑に落ちてから、人の意見を取り入れるようになったのです。
そうなると不思議なことに、世間の常識や固定観念に囚われることもなくなりました。周囲の人からどう思われようが、何を言われようが、あまり気にならなくなったのです。我が道をゆく子育てというか、息子にとってよいと思うことを躊躇なく選択できるようになりました。

当たり前のことですが、「子ども」という子どもはいません。一人ひとりが違う子どもです。かけがえのないユニークな存在です。その子どもの個性を生かし、伸ばすために何をすればいいか、それを考えることが私たち夫婦の子育ての基準になりました。世間の逆風を受けながら、公立の学校を辞め、オルタナティブスクールに通うことを選択できたのも、世の中の基準より自分の中にある基準を信じられたからだと思います。
子どもは一人ひとり違うのだから、子育てに「これ」といった正解はありません。子どもをよく観察し、悩み考えて、その子のでこぼこに合った自分なりの子育てを模索していくほかないのだと思います。

(イラスト:中田晢夫)

  • プロフィール くらしの良品研究所スタッフ。18歳の子どもの父親。一般財団法人東京サドベリースクール評議員。

最新の記事一覧