子育て・教育のほとりで
子どもが一般の学校ではないオルタナティブスクールに通うようになってから、子育てや教育に興味を持ち、学ぶようになりました。学校外の「多様な学び」や「不登校問題」「海外の教育事情」など、子育て・教育まわりのさまざまな話題を取り上げて紹介していきたいと思います。

褒めない、叱らない

2020年06月03日

褒めることの功罪

「子どもは褒めて育てよ」という人がいます。なるほど、子どもに限らず人間は誰しも褒められると気分がよくなるものです。私自身もそうです。他人から否定されるよりも肯定された方が嬉しいし、褒められればやる気も出ます。(SNSも「いいね」がいっぱい欲しい)。だから、必ずしも「褒めて育てよ」ということに異論があるわけではありません。ただ、それを承知のうえで、あえてわが家に限っていえば、「褒めて育てる」ことはやってきませんでした。
理由はふたつあります。ひとつは、褒めようと思った瞬間に「親子の対等関係」が崩れてしまうからです。「褒める」という行為の背後には、自分の方が優位に立っているという感覚があります。たとえば、社員が社長を「褒める」とはいいませんよね。それは「社長の方が上」という感覚があるからです。親子も同じ。親が子を褒めるのは、自分の方が上にいると考えているから。だから、「親子の対等関係」を大切にしてきたわが家では、あえて「褒めて育てる」ことを控えました。それは暗に子どもを見下すことにつながるからです。
もうひとつの理由は、褒められることは癖になるからです。褒められるのは嬉しいし、気持ちがいい。だから、もっと褒められたくなる。そうなると承認欲求ばかりが強くなり、かえって自己肯定感が下がると思います。勉強も自分が好きでやるのはいいのですが、褒められたくてやるのは本末転倒。褒めるという行為は、一見して子どものやる気を引き出すように見えますが、その実、内発的なモチベーションの妨げになることもあるのです。

叱るより、伝える

赤信号で子どもが道に飛び出す。親は慌てて制止する。そんなとき親の口を突いて出るのは、「何やってんの。信号が赤のときは止まりなさいといったでしょ。何度いえば分かるの!」といった言葉です。親にとって子どもの命はとても大事。何も分からない子が信号を無視して道に飛び出すのは危険です。だから、半ば怒りを交えて、強く子どもを叱りたくなります。でも、よく考えると、口に出したこの言葉の中には余分なワードが混じっています。ひとつは「何やってんの」で、もうひとつは「何度いえば分かるの!」です。伝えるべきは、信号が赤のときは渡るなという事実であり、それ以外は感情から出てしまった言葉です。
確かに、子どもは一度いったぐらいでは聞いてくれません。それでつい叱りたくなります。でも、叱ったからといって聞いてくれるわけでもありません。大切なのは怒りをぶつけることではなく、伝えたいことをきちんと「理解」してもらうことです。
子どもに何かを伝えるのはとても根気の要る作業。粘り強く何度も繰りかえさなければなりません。叱ったり怒ったりする方がよほど簡単かもしれません。でも、「叱られるからやらない」というのでは、意味がありません。本当に伝えたいことを理解してもらうためには、「何度いったらわかるの!」ではなく、何度でも同じことを伝えることが大切だと思います。

子どもの自立のために

「褒める」も「叱る」も、親の立場が子どもより上にあることから生まれる行為です。私自身は「親子はフラットな関係であるべきだ」と考えているので、子育てをする際に褒めたり叱ったりはあまりしませんでした。しかし、ここで疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。なぜそこまでして「親子の対等関係」にこだわるのかと。これについては以前のブログ「親子の対等な関係性」でも書きましたが、第一には子どもとの信頼関係を築くためです。一方的に命令されたり支配されたりすれば、誰だって相手を信頼しなくなります。子どもを未熟な存在と決めつけず、相手の言い分に耳を傾けることで、相互の信頼は深まると思います。
二番目の理由は、褒めたり叱ったりすることが、子どもの自立を妨げると思うからです。自立とは自ら考え、自らの意志で行動できるようになること。「褒められるから」「叱られるから」という理由で動くのでは、いつまでたっても自立は望めません。子どもが自らの内なる動機で動くようになるためには、相手の考えや行動を尊重し、干渉しないことがいちばんなのです。

もちろん今回、ここで書いたことが、そのまますべてのご家庭に当てはまるとは思いません。あくまでもわが家に限ったことであり、個々のご家庭には、それぞれの教育方針があると思います。子どもの個性や性質、兄弟の有無などによっても違ってくるので、子育てに「これ」といった正解はありません。そこがまた子育ての難しいところなのでしょう。
褒めない、叱らない子育て。あなたはどのように感じましたか?

(イラスト:中田晢夫)

  • プロフィール くらしの良品研究所スタッフ。18歳の子どもの父親。一般財団法人東京サドベリースクール評議員。

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