各国・各地で「千葉・鴨川 ─里山という「いのちの彫刻」─」
棚田の村へ入ると、まるで時計の針を戻していくように過去へとタイムトラベルしていきます。しかし、ここでの暮らしから見えるのは、過去を突き抜けた「未来の風景」です。

世界平和を棚田から

2017年05月17日

ゴールデンウィークの真ん中、5月3日水曜日に「釜沼北棚田オーナー制度」の田植えを行いました。僕は「鴨川里山トラスト」の他に、集落の長老たちと「釜沼北棚田オーナー制度」も運営しています。オーナー制度もトラスト制度も、棚田及び里山保全が目的なので基本的に主旨は同じなのですが、オーナー制度は年会費30,000円を支払って棚田オーナーとなり、オーナーは田植えから稲刈りまでお米づくりに通い、稲刈り後に収穫されたお米を均等にオーナーへ分配するシステムです。釜沼北棚田では、毎年45~48キロくらいのお米をお渡ししていますが、あくまでも保全が目的なので、収量の保証はしていません。しかし、オーナーはその主旨を理解してくださり、25口のオーナーは9割がリピーターで、まさに「地縁血縁を超えたふるさと」になっています。

今年の参加者は、なんとスタッフ含め国際色豊かな130名となり、長老たちや地元のおばあちゃんたちと数日前から準備を行い、棚田に鯉のぼりと万国旗を上げ、里山で掘った沢山の竹の子を大きな釜で煮て、みんなが来るのを楽しみに待っていました。
当日の田植えには、僕が1月に千葉大学国際教養学部の授業で講義をした時に受講してくれたポーランドやインド、ロシアの留学生を含む大学生のグループ、そして鴨川に移住しているアメリカ、カナダ、フランス、メキシコなど多国籍なITエンジニアやクリエイターたちのグループ「ハッカーファーム」、普段は都会で暮らす小さな子供連れのファミリー、環境NGO「ナマケモノ倶楽部」のグループ、親子3世代の大家族グループ、少年サッカーチームの親子グループ等々が集まり、それはもうお祭りのような賑わいです。 さすがに、130名の田植えは壮観でした。

都会と田舎のお見合い

鴨川市の新市長の亀田市長も駆けつけてくださり、オーナーのみなさんに挨拶をしてくれました。
「鴨川の棚田を大切に思ってくださるみなさん、本当にありがとうございます。みなさんがいるからこそ、鴨川の土地が守られているのです。これからも、お知恵とお力を貸してください。そして、地元のみなさんと、移住者のみなさんと、都会のみなさんと一緒に鴨川を盛り上げていきましょう。」
人口33000人の鴨川市は、毎年300人ずつ人口が減少しています。
しかし、この棚田オーナーや里山トラストで都会から通って交流することで、都会の人は農村の文化や風習を理解し、農村の人は都会の文化や感覚を理解し、お互いが歩み寄り、結果的に「都会と田舎のお見合い」になり、2地域居住や移住へとつながっています。
数年前から棚田オーナーに参加していたIT関係の仕事をしているフランス系カナダ人のサミュエルはとうとう今年の春、奥さんと幼い子供を連れて東京から鴨川へ移住してきました。
どうして鴨川が気に入ったの? とサミュエルに尋ねたら、彼はこう言いました。
「僕らは移民の国だろ、こういう伝統がないんだよね。そして、この美しい田園風景、素晴らしい自然環境で、家族で暮らし、子育てをしたいんだ。また、ここには価値観の同じ気の合う人たちが沢山いるコミュニティがあるからね。」

里山は食といのちのワンダーランド

田植え終了後は、地元のおばあちゃんたちと棚田オーナーの奥さんたちが協力して作ってくれた竹の子ごはんとゼンマイの味噌汁を、人で溢れかえる古民家ゆうぎつかで、美味しくいただきました。みんなスゴイ食欲で、見事に完売しました!

そして、昼食後はみんなで竹の子掘りをしました。
地元の人はもう飽きるほど食べた竹の子は、この時期は困るほど続々と生えてきます。そんな困り者の竹の子も、都会の人にとっては楽しいレジャーになるのでありがたいことです。
スコップを手にした子供たちは我が家の竹林に入ると、大喜びで掘ってくれました。目を輝かして竹の子を掘る子供たちの姿を見ていると、里山は食といのちのワンダーランドなんだってつくづく思いました。

万国旗に込められた願い

棚田オーナーの田植えでは毎年、鯉のぼりと一緒に万国旗も上げています。
第2次世界大戦を経験した長老たちにとって、アメリカ人とお米づくりをすることは、特別な意味を持っています。
以前、アメリカ人の友人のクリスが棚田オーナーとなって、はじめて一緒にお米づくりをした時、長老はとても感動し、目を丸くしてこう言ったのを今でも鮮明に憶えています。
「林さん、まさか俺が生きているうちに、アメリカ人と一緒に田んぼをやるとは夢にも思わなかったよ。」

ここ房総半島は、戦後アメリカ軍が本土上陸した最初の土地であり、釜沼北集落はアメリカ軍の戦闘機に銃撃され、長老たちは手掘りの防空壕へ隠れた経験があるそうです。
そして戦後70年が経った今、敵国だったアメリカ人と棚田で楽しくお米づくりをすることは、長老たちにとって奇跡のような出来事なのです。
世界では、今日もどこかで悲惨なテロや戦争が起きています。
だからこそ、この棚田に多くの外国人に来てもらいたいと、僕は長老たちと良く話しています。
そして、言語を超え、文化を超え、国を超え、世界中の個人と親しくお付き合いし、お互いを理解し合い、世界がより平和になることを願っています。
僕たちにとって、この里山の棚田は世界平和のための国際交流の場でもあるのです。

Photo by Yoshiki Hayashi

イベント情報

天水棚田でつくる「有機米の会」(NPOうず・無印良品共催)第2回「田の草取りとすがい縄づくり」

「有機米の会」は、無農薬栽培のため除草剤を使いませんので、草取りを行います。
午前中は、稲わらを使って簡単なわら細工のすがい縄をつくります。すがい縄とは稲刈りの時に、刈り取った稲を束ねるために使う伝統的な縄です。

開催日:2017年6月10日(土)
開催時間:10:30~15:30(予定)
開催場所:千葉県鴨川市
詳しくはこちら

「鴨川里山トラスト」今後のスケジュール
有機米の会

2017年5月13日(土)第1回「田植え」
2017年6月10日(土)第2回「田の草取り」
2017年7月8日(土)第3回「田の草取りとすがい縄づくり」
2017年9月9日(土)第4回「稲刈り」
2017年10月14日(土)第5回「収穫祭」
2017年12月23日(土)第6回「注連縄づくりとみかん狩り」

手づくり味噌・醤油の会

(年会費:3,000円:できあがった味噌1kg、麦醤油500ml、米醤油500mlをお渡し)

2017年7月22日(土)第1回「大豆種まき」
2017年12月16日(土)第2回「大豆収穫」
2018年1月20日(土)第3回「大豆脱穀・選別」
2018年2月17日(土)第4回「味噌仕込み」
2018年3月17日(土)第5回「醤油しぼり」

自然酒の会

(年会費:10.000円:できあがった自然酒720mlX4本をお渡し)

2017年5月20日(土)第1回「田植え」
2017年6月17日(土)第2回「田の草取りとすがい縄づくり」
2017年7月15日(土)第3回「田の草取り・陶芸体験」
2017年9月16日(土)第4回「稲刈り」
2017年11月18日(土)第5回「収穫祭」
2018年2月4日(日)第6回「寺田本家蔵見学」

※天候不良などによる予備日はすべてありません。

  • プロフィール 林良樹
    千葉・鴨川の里山に暮らし、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っています。
    NPO法人うず 理事長
    T&T研究所 研究員

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