各国・各地で「千葉・鴨川 ─里山という「いのちの彫刻」─」
棚田の村へ入ると、まるで時計の針を戻していくように過去へとタイムトラベルしていきます。しかし、ここでの暮らしから見えるのは、過去を突き抜けた「未来の風景」です。

センス・オブ・ワンダーの発芽

2017年07月26日

7月の鴨川里山トラスト「有機米の会」では「田の草取りと太巻き祭り寿司づくり」、「自然酒の会」では「田の草取りとぐい呑み陶芸体験」を行い、どちらの会も農作業の他にお米とつながりのあるワークショップを組み合わせました。
7月8日(土)の「有機米の会」は、集落の料理上手なおばあちゃんの「しろうべえ」さんと「こへいだ」さんに講師を依頼し、房総半島の郷土料理である太巻き祭り寿司づくりを行いました。
季節の野菜だけでつくられる太巻き祭り寿司は、かつて肉や魚が手に入りにくかった山間部の農村において、ハレの日のご馳走でした。一昔前は、夏祭りや秋祭りにつくられていたそうですが、高齢化の進む今では手間のかかる太巻き祭り寿司もつくられなくなり、お祭りの料理は仕出しが多くなってしまいました。 江戸時代から続いていたと言われる太巻き祭り寿司は、共同体が元気だったからこそ、つくられていた郷土料理なのですね。

食卓に咲く花

古民家ゆうぎつかの土間のテーブルに、「しろうべえ」さんが用意してくれた材料を並べて、太巻き祭り寿司づくりは始まりました。

「しろうべえ」さんに教わるとおりに、まきすだれの上に玉子焼きをのせ、ご飯を広げて、海苔やかんぴょう、ゴボウ、紅しょうが、ほうれん草などの野菜を並べていきます。

この段階では、一体どんな祭り寿司ができるのか想像もつかず、みなさん不安そうな面持ちです。しかし、最後にそれらをクルリと丸めて包丁で切ると、なんと断面図に椿の花があらわれたのです。

「おお~!」
「きれい!」
「かわいい!」

華やかな祭り寿司に驚きの声が上がり、みんなの顔に笑みがこぼれました。
今回のお昼ごはんは、この自分で作った太巻き祭り寿司です。

やっぱり自分でつくるって楽しいですね。
食卓の上には、祭り寿司の花が満開となりました。

偉大なる土

翌週末の15日(土)の「自然酒の会」は、館山市在住の陶芸家西山光太さんの指導による「ぐい呑み陶芸体験」を行いました。
釜沼集落の棚田の土を掘り、その土で器を焼く「あわ焼き」は、南房総で初の試みです。地元の土での陶芸は難しいと言われてきましたが、研究熱心な西山さんは見事に成功させ、それを「あわ焼き」と命名しました。

この春、知人の紹介で釜沼集落へやって来た西山さんは、棚田を掘ってブルーグレーの重粘土質の土に触ると「これはスゴイ!」と、まるでゴールドラッシュで金脈を探し当てた採掘者のように目を輝かせたのでした。

その後、色々と試行錯誤した結果、西山さんは焼き上がった素朴な美しい作品を持ってきてくれました。それを見た時に、僕は棚田の土で焼いたぐい呑みで自然酒を乾杯しようとひらめき、西山さんに「ぐい呑み陶芸体験」の講師を依頼したのでした。

陶芸体験の日、みなさんは無心となって作陶し、古民家は静寂に包まれました。
焼き上がったぐい呑みに自然酒を注ぐことをイメージすると、今から収穫祭が楽しみです。

同じ田んぼの土から、お米とお酒と器が生まれました。分断された現代社会において衣食住、自分の暮らしが自然とつながり、自分の手から生まれる感覚は、なんて豊かなことだろうと思います。

土がなければ、人間も、文化も、社会も成り立ちません。
やはり、土は偉大です。

センス・オブ・ワンダー

「有機米の会」も「自然酒の会」も、午後からは田の草取りです。
両日快晴で、蝉の大合唱が響く里山らしい初夏の日でしたが、農作業にはきびしい暑さで、みなさんかなりバテました。

子供たちも頑張ってくれましたが、途中飽きてしまった子供たちは棚田オフィスへ行って涼んだり、ウッドデッキで走り回ったり、虫を探したり、里山で遊んでいました。

でも、これでいいのです。
子供たちは無理に農作業をせずに、虫や草花と戯れ、里山を駆けまわっていれば、自然にセンス・オブ・ワンダー(自然の神秘さや不思議さに目を見張る感性)が育まれるのですから。

足元の再発見

鴨川里山トラストのイベントが終わったある日、大学生の女性から電話がありました。
「はじめまして。私は現在大学生のYと申します。地域の活性化をしている林さんのお話しを聞かせてもらいたいので、お時間のある時に伺っても良いですか。」
その後、Yさんが友人と訪ねて来てお話していると、なんと隣の集落出身だというのです。
子供の頃は、自分の田舎が閉鎖的で何もなく、嫌で嫌で早くここから出たいと思っていたそうです。

しかし、東京に暮らし、大学で色々と地域について学び、また海外への旅を経験していくうちに、地元の素晴らしさを気づくようになったといいます。
僕は彼女たちに鴨川里山トラストのフィールドを案内しました。
「わぁ~、手入れがされていてキレイですね。実家のまわりは、ドンドン耕作放棄地になってしまいました。」と言って、棚田を見つめながらこうつぶやきました。
「でも、まだ間に合うかな・・・。わたしにできることを探してみよう・・・。」
Yさんにとって何もないと思い、大嫌いだった田舎が、外に出たことで"価値ある大切な場所"へ180度変化したのです。

この夏、YさんはNGOと連携して日本の大学生と海外からの留学生と合同で、鴨川で合宿をして地域活性化のお手伝いをするそうです。
子供の頃、Yさんの心に育まれたセンス・オブ・ワンダーの種は、外に出て大人になった時に、自然と発芽したのです。

鴨川里山トラストへ来てくれる子供たちも、将来のいつかセンス・オブ・ワンダーが発芽する時が来るかもしれません。

Photo by Nahoko Hayashi・Yoshiki Hayashi

  • プロフィール 林良樹
    千葉・鴨川の里山に暮らし、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っています。
    NPO法人うず 理事長
    T&T研究所 研究員

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