MUJIキャラバン

鳥取砂丘らっきょう

2013年12月18日

鳥取県といって、想像する方も多いであろう「鳥取砂丘」。

東西16km、南北2km、起伏は日本最大の47mにも及ぶもので、
昔も今も多くの観光客を魅了してやみません。

この鳥取砂丘に代表されるように、
鳥取県内には砂地の土壌が多く存在します。

砂地というと水はけが良く痩せた土壌のため、
植物が育ちにくい印象がありますが、
鳥取には、その環境を逆手にとった特産品がありました。

「砂丘らっきょう」です。

らっきょうは、砂地や荒廃地などの痩せた土壌でも育つという特性を持っており、
鳥取砂丘の東部の福部町には、120ヘクタールに及ぶ
砂地のらっきょう畑が広がっています。

夏場には砂地の表面温度は60~70℃にまで上昇し、
冬場には雪に覆われることのある過酷な環境下でも、
らっきょうはたくましく育つそう。

かつて「不毛の地」と呼ばれた砂丘地での農業は、水の確保が最大の課題でした。
浜井戸から桶で水を汲み、炎天下のなか天秤をかついで畑に何度も水を撒く作業は
「嫁殺し」と呼ばれるほど過酷なものだったとか。

この環境を改善しようと戦後、鳥取では日本初のスプリンクラーを導入するなど、
様々な技術開発が進み、不毛の地は特産品が生産される優良農地へと生まれ変わったのです。

そんななか、オーガニックで
らっきょう栽培に取り組まれる方がいると聞いて、訪ねました。

鳥取市気高町(けたかちょう)で
「鳥取らっきょう本舗」を営む田中正貢さん。

「健康食品ともいわれるらっきょうなんですから、
オーガニックの方がいいでしょ」

そう、健康そうな表情で話す田中さんは、
今から6年ほど前にサラリーマンから農家へと転身されました。

もともと農薬を売る仕事もしていた田中さんでしたが、
口から入れるものが体を作っているという意識が高まっていき、
食べる人のことを考えた野菜づくりをしたいと考えるように。

無農薬での収穫量は、農薬を使った時の1/10ほどだそうですが、
はじめから無農薬栽培を手掛ける田中さんの畑では、
徐々に収穫量も高まってきているそうです。

田中さんのらっきょう畑にお邪魔すると、
そこにはらっきょうと雑草が共存する光景が広がっていました。

「雑草の根が水分を蓄え、微生物がはびこる。そして、その周囲に栄養分が溜まる。
この雑草こそが、おいしいらっきょうを育てる鍵なんです」

一見、分かりにくいのですが、実はこの畑も砂地。
水はけの良い砂地で水分を蓄えるために、雑草は重要な役割を担うのだそうです。

「よかったら少し持って帰りませんか?」

そう言いながら、田中さんが掘ってくださったオーガニックらっきょうは、
しっかりと根を張りながら育った、生命力にあふれるものでした。

「収穫のたび、この大地からの恵みに喜びを感じるんです。
これを枯渇させることなく、限りなく自然の状態で、
後世に引き継いでいくことが、私たちの責任だと思うんです」

今では、土よりも砂地の方が作業しやすいと話す田中さんは、
らっきょうのみならず、様々な在来種の栽培にまで着手。

そして、こうした動きを個人的なものにとどめるのではなく、
この夏「鳥取オーガニックマーケット」を立ち上げ、
地域ぐるみの取り組みを始めていました。

高知のオーガニックマーケットにヒントを得たというこのマーケットは、
7月からの毎週土曜日開催で延べ2300人が訪れるほど、
定番化しつつあるそうです。

「自分で作ったものを、自分で売る。
自分が欲しいものを、作った人から買う。
このシンプルで無駄のない行為のなかに、
なんともいえない安心感と充実感を覚えるんですよ」

「まぁ昔に戻っているだけなんですけどね」

と、田中さんは優しく微笑みました。

砂丘地帯という不毛な土地を、優良な農地へと変革した
鳥取の乾燥地における農業技術。
それらに感謝し、後世につないでいこうと努力を惜しまない人たちの姿。

与えられた環境を、より良くしようと耕す姿勢を、
鳥取からは教えられているようです。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

最新の記事一覧

カテゴリー