MUJIキャラバン

割り箸も、ジビエも

2012年06月14日

世界一周の旅を終えて、帰りの飛行機の中から久しぶりに日本列島を見たとき、
「日本はこんなに緑の豊かな国だったのか」
と二人で話したことを思い出しました。

現在の日本は有史以来最大となる森林面積を誇り、
国土の約3分の2を森林が占めています。
この国は先進国の中では有数の森林大国と言えるのです。

ただ、その多くが30年から40年前に植林され育てられた人工林。
外材解禁に加えて燃料革命の進んだ現在、国民の関心が山から離れ、
せっかく戦後に造林して育てられた人工林が放置されている現状です。

「林業は変わらなくてはならない」

そう話すのは、岐阜県郡上市で10年前から林業に従事されている小森さん。

「一度、手を加えてしまった森は、ケアし続けなくてはいけません。
日本の多くの森は木が多すぎるままに放置されてしまっている。
ある程度、木を間引いてあげないと、新しい木が育たないんです」

小森さんによると、木々が密集しすぎている森には
日光が下部に十分に行き届かないため、立ち枯れを起こしたり、
地表部分に草が生えないため、雨による土壌流出が起きる可能性さえあるそうです。

これが実際に間伐した状態の森ですが、
日光が地表まで届き、森全体が明るい印象です。

林業を活性化し、森林の管理を持続させる為の取り組みとして、
小森さんは"郡上わりばしプロジェクト"と題し、
地元産のスギ材を使った割り箸を製造し、流通を始めました。

現在の市場に流通している白くきれいな割り箸は、
漂白剤や防腐剤の使用された安価な海外産のものがほとんどですが、
あえて市場価値の低い芯の黒いスギ材を使用することで、
化学薬品を一切使用していない安全な箸であることを表現。

さらに箸は料理の邪魔をしないためにも無臭であることが求められてきましたが、
この箸はスギ材の香りをそのままに流通させています。

「この取り組みで、山や森の問題がすべて解決されるわけではありません。
ただ、割り箸という身近な存在を通じて、少しでも多くの人に、
自然と人の関わりを見つめ直すきっかけになればよいと考えています」

と小森さんは語ってくれました。

これまで私たちも、無駄に森林を伐採することに繋がる為、
割り箸を使うことはエコではないというイメージを抱いていましたが、
今回お話を伺ったことで、本当の森の実態を初めて知りました。

割り箸は木材全体に比べれば消費量も算出額も小さな需要です。
しかし間伐材を利用した割り箸を利用することで、少しずつでも日本の林業が活性化すれば、
地域経済の復興に繋がり、また新しい森を育て管理していく未来に繋がるんですね。

20世紀初頭のドイツの林学者であり、森林監督官でもあったアルフレート・メーラーは、
「もっとも美しき森は、またもっとも収穫多き森である」
という言葉を残したそうです。
"人と自然が共に生きること"の意味を教えてくれる名言です。

もう一つ、山から人が離れた為に起きている問題があります。

猟師の減少にともなって、森で増加した猪や鹿が、
餌を求めて農村部の田畑を荒らす事件が増えているのです。

この問題に取り組もうと立ち上がったのが、自然体験インストラクターとして活動している
「特定非営利活動法人 メタセコイアの森の仲間たち」によって組織された
「猪鹿庁(いのしかちょう)」。

高齢化でごく僅かとなった猟師から狩猟のノウハウを教わりながら、
里山の保全を行う、若手による新鋭組織です。

「まずは、猟師のイメージを改善したいんです」

そう話す彼らによって生み出されたのが「猪鹿ジャーキー」。
携帯するジビエ、だそうです。

牛肉などと比べても、低カロリー、高タンパク、低脂肪なんだとか。
東京ミッドタウンにあるTHE COVER NIPPONでも、2012年7月末まで
期間限定販売されているそうです。

加工が難しく、これまでは捨てられることの多かった猪や鹿。
割り箸と同じように、少しずつでも山に関心を持つ人が増えれば、
という願いが込められています。

このように、岐阜県郡上市では、ふたたび
「自然と共に生きる」ための取り組みが始まっています。

自然は慈母であると同時に厳父であると言われます。
人間にとって自然が故郷であるならば、離れて想うだけでなく、
近くで触れることが何より大事なのだと気づきました。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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