MUJIキャラバン

有田焼の挑戦

2012年10月03日

「日本の伝統産業は変わらなくてはいけない」

1647年(正保4年)より有田の地で焼物を手がける、
(株)百田陶園の社長、百田憲由さんはそう切り出しました。

「1616年から磁器の生産が始まった有田焼は、
日本で最初に栄えた産業といっても過言ではありません。
今一度、有田焼が良かった時代に戻るためには、変わるしかない」

百田さんの言葉からは、並々ならぬ覚悟が感じられました。

もともと鍋島藩の御用達の窯元として、
窯焼きの仕事に従事していた百田陶園。

今は有田焼の総合商社として、
お客様に喜ばれる商品の提供に尽力されてきましたが、
リーマンショック以降、その業績にも陰りが見えてきたそうです。

「それまではなんとか新商品を企画すれば売れていました。
ただ、リーマンショック以降は何をやっても駄目。参りましたね」

そんな時、百田さんのもとへ、一件のオファーが入ります。

それは今年5月、東京・丸の内にオープンした、
パレスホテル東京のホテルアーケードへの出店でした。

「正直、悩みました。このオファーを断れば、他が入ってしまう。
ただ、やるなら徹底的にやらなくては、と」

百田さんは腹をくくります。
そして、コンタクトを取ったのが、
プロダクト・空間デザイナー、柳原照弘さんでした。

ショップの空間のみならず、プロダクトもゼロから作り上げたいという、
百田さんの想いの表れでした。

はじめは断るつもりだったという柳原さんも、
百田さんの想いに共感。

ここから有田焼・百田陶園の挑戦が始まります。

柳原さんは有田の地まで足を運び、
有田焼の現状を一通り把握し、こうつぶやいたそうです。

「有田は先人に飯を食わせてもらっていますね」

当時のことを百田さんはこう振り返ります。

「さすがにその時は悔しかったですね(笑)
ただ、その後に発した"50年後にも美術館に置かれるものを創りましょう"
のひと言で、気持ちは固まりました」

明確な目標を見据え、改革に向けて歩み始めた百田陶園は、
柳原さんの紹介で、今やminiクーパーのデザインも手掛ける
オランダ人デザイナーのショルテン&パーイングスとも手を組みます。

日本のマーケットを見据えたとしても、
これだけ食生活が多国籍化してきている昨今、
海外の食生活を熟知したうえでの感性が必要と考えたためです。

ここから先、血のにじむような努力の毎日が始まります。

原料、成型、釉薬…、
焼物の基本のすべてを見直すべく、
有田焼の各工程のスペシャリストを招聘するも、
なかなか理解してもらえません。

「新しいものを創るということは、過去の概念を捨てるということ」

職人にそう言い聞かせながら、
百田さんは自分自身を鼓舞していたそうです。

こうして血のにじむような努力の結果生まれたのが、
「1616 / Arita Japan」。

今までにない有田焼の誕生です。

柳原照弘さんデザインのシリーズ1616 / TY "Standard"では、
昔の有田焼をモチーフにしたライトグレーの器が誕生。

釉薬を使わずに焼きしめ、最後に研磨の工程を加えることで、
独特の質感が実現されています。

また、ショルテン&パーイングスデザインの
1616 / S&B "Colour Porcelain"では、
淡く、はかない色合いの器が生まれました。

驚かされたのが、
両シリーズともに、高台が付いていないこと。

高台には、焼成による収縮やゆがみのリスクヘッジ
の意味合いもあるようですが、これをなくすというのは、
それだけ難易度が高くなることを意味するそうです。

努力を重ねたという薄さも、上品さを醸し出しています。

さらに驚かされたのが、その価格帯。

これだけ手がこんでいながら、
なんと500円からラインナップが充実しており、
一般的にも求めやすい値段になっているんです。

「いいね、で終わっては意味がないと思っているので。
日常使いしてもらえる器のために頑張りました」

百田さんは、その価格帯を実現したことに胸を張ります。

事実、今年4月に出展したイタリアの見本市、
ミラノ・サローネではNY Timesを筆頭に各社が大絶賛。

今では、海外の代理店とも契約を結び、
着実に海外展開の一歩を歩み始めています。

「このシリーズで、かつて世界を席巻した有田焼を、
今一度、世界に見せつけたい」

「正直、内心はまだ不安だらけですけどね(笑)」

と照れながら話す百田さんには、
有田焼の未来が託されているようにすら感じました。

きっと50年後、その先も世界中の家庭で
有田焼が使われているのではないでしょうか?

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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