MUJIキャラバン

地域のためのデザイン

2012年10月18日

先日のブログでご紹介した、
福岡県の小石原COCCIOプロジェクト

このプロジェクトに関わるデザイナーの城谷耕生さんのスタジオが、
長崎県雲仙市小浜町にあると聞いて訪れました。

するとそこは、眼下に橘湾が広がる海沿いのスタジオ。

スタジオ横の緑地では、レモングラスほかを栽培するなど、
自然と触れ合いながら仕事ができる環境です。

小石原をはじめとした焼き物の産地では、昔から「半農半陶」といって、
ある時は農業、ある時は陶器を作りながら生活していましたが、
デザイナーでもこうした生活スタイルを実践している人がいるとは。

「都心で家賃のために稼ぐような働き方はしたくなくってね。
こうした地方の開放的な空間に身を置くべきだと考えたんです」

爽やかな笑みを浮かべながら、
城谷さんは開放的なオフィスの奥から現れました。

かつて無印良品の家具も手掛けた
イタリア人デザイナー、ENZO MARI(エンツォ・マリ)氏と
イタリアでともに仕事をしていた城谷さんは33歳の時、帰国。

帰国当初は都市部のリノベーションの仕事に多く携われたようですが、
デザインの力を地域のために活かしたいと、
故郷であるこの地にスタジオを構えられました。

そして、近年の城谷さんの仕事は、
先述のCOCCIOプロジェクトに代表されるように、
伝統工芸の技術を、現代の需要に活かしてものづくりを行う
というものが多いそう。

例えば、この「FARO」というコーヒードリッパー&カップ。

これは長崎県の波佐見焼で作られたもので、
コーヒーの粉さえあればオフィスでも簡単に
美味しいコーヒーが入れられるようにとデザインされたものです。

上段には環境に配慮してステンレスフィルターが使われ、
蓋はその上段部分の受け皿にもなります。

シンプルでいて高機能とは、まさにこのこと。

また、同じ波佐見焼では、こんなものも。

波佐見焼というと、昨日のブログでも取り上げたように、
少し青みがかった白色の磁器が一般的なのですが、
あえて釉薬にグレーを使用しています。

これは、陶磁器づくりでは付き物の「鉄粉」という小さい黒点を、
デザインとして取り入れるための工夫でした。

焼き物ではこの「鉄粉」が付いてしまうと、
一般的に不良品扱いされるのですが、あえてデザインとすることで、
ものづくりの過程における無駄をなくしたのです。

城谷さんが意識しているのは、
地域の労働者のためのデザイン。

「1日の終わりに、今日も楽しく仕事ができたと、
作っている人に思ってもらえるようなデザインをしたいんです」

そう話す城谷さんは、
必ず作っている人と顔が見える関係であることが重要といいます。

「自分がデザインしたものが、海外の知らない人たちに作られて、
というのは自分の求めるスタイルじゃないので。
自分の仕事に血が通っているか。そこは大切にしています」

今では、日本各地のみならず、韓国でも仕事を手掛ける城谷さんは、
毎月、現地へと足を運んでいます。

日本ほど伝統工芸が残っていない韓国では、
新たな伝統工芸を作り出すプロジェクトを進めているそう。

「伝統には、無意識に引き継がれてきたものと、
あえて作り出されてきたものの2通りがあるんです。
新たに作り出す方が明らかに大変ですが、ワクワクしますよね」

そのために現地の学生たちとともに、
韓国の衣食住について徹底的にリサーチして、それを基に、
未来の陶磁器がどうあるべきかを話し合っているんだとか。

COCCIOにしてもそうでしたが、
この徹底したリサーチと議論の過程を踏むのが、
城谷さんの仕事の真骨頂と言えるかもしれません。

一体、どんなものが生まれるのか楽しみです。

「利益追求のためのデザインをするのか。
それとも地方の資源を活かすために、デザインの力を使うのか。
それはデザイナー次第」

そんな城谷さんの言葉が脳裏に焼き付いています。

こうした城谷さんのような動きが活発化していくと、
地域はもっと面白くなっていきますね。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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