MUJIキャラバン

生活に溶け込む盛岡の伝統

2012年08月08日

南部鉄器に、

紫紺染、

明治26年から続く駄菓子屋さん(関口屋)から、

160年続く長沢屋の黄精飴(おうせいあめ)、など。

盛岡には、古くから伝わる技術を活かしたものづくり・食づくりが、
今でも数多く残っていました。

市内を北上川・雫石川・中津川などが流れ、
比較的戦災の被害の少なかった盛岡には、明治・大正期の建造物も多く残っています。

現代の県庁所在地としての機能を備えながらも、
かつて南部藩の城下町として栄えた情緒を残しながら発展していく様は、
どこか懐かしさと心地よさの両面を感じさせてくれます。

そんな盛岡を象徴するようなプロダクトに出会いました。

これ、何だか分かりますか?

手前から、岩手の南部鉄器に、秋田の樺細工…、
そう、各地の伝統工芸の技術などを使ったペーパーウェイトなんです。

企画しているのは、「Holz Furniture and interior」の平山さん。
爽やかな笑顔で迎えてくださいました。

彼は、盛岡市内で、機能性とデザイン性に優れた生活用品を扱う
インテリアショップを運営しています。

以前、秋田の「WAPPA Project」で取材した
「casane tsumugu」の田宮さんにご紹介いただいた方です。

店名の「Holz」とは、ドイツ語で「木・木材」を意味し、
生活に密着した必要不可欠なもの、という想いも込められているそう。

平山さんは、東京のインテリアショップで働いていた際、
そこに自然と南部鉄器が陳列されていたことをきっかけに、
地元の工芸品を違った目で見るようになったといいます。

その後、偶然フリーマーケットで見つけた
鉄のペーパーウェイトと南部鉄器が頭の中でクロス。

構想から5年かかりながらも、
南部鉄器を使ったペーパーウェイト「イエモノ」が完成しました。

なぜ家型か?

「家の形って、なんだかホッとすると思うんです。
ある意味、普遍的でしょ」

左の初代作は、屋根部分にあえて磨きをかけることで、
使い込んでいくうちに酸化していく仕立てになっています。

まるで、家の屋根に味わいが出てくるように。

こうして生まれた「イエモノ」シリーズは、
日本最大産地の岩手産漆を使ったものまで、計14種類にも及んでいます。

「伝統工芸だから守りたい、とかじゃなくって、
単純にかっこいいと感じるかどうか。
そんな感覚が大事だと思うんです」

目の前にある物を「心地良い」とか「素敵だ」と感じとる
人間の中にあるセンサー。
私たちは物事を論理で考えるよりも先に、
誰にでも備わっているこのセンサーに素直に向き合うことが
大切なのではないでしょうか?

盛岡で生きる意味

「盛岡を知っているといえば、この人の右に出る者はいないよ」

平山さんに紹介いただいてお会いしたのは、
まちの編集室の編集デスク&アートディレクターの
木村敦子さん。

すらっとしたモデルのような姿が印象的な木村さんは、
盛岡の「ふだん」を綴る本『てくり』を手掛ける方です。

この本、盛岡に入ってからというもの、
あらゆる本屋さんやカフェなどで見かけました。

世帯当たりの雑誌・週刊誌支出が1位というお土地柄からなのか、
盛岡には、数々のミニコミ誌が存在します。

なかでも、この『てくり』は、
盛岡で活動する人たちの素顔や想いに焦点が当たっていて、
そこから醸し出されている空気感がとても素敵なんです。

本の中でも、ひと際目を引いたコピー。

「東京ではなく、富良野のでもない。
盛岡で働き、暮らす理由。
あなたはなぜ、ここにいるのですか?」

そのインタビュー記事が創刊以来9年間続いているのですが、
この疑問こそが、木村さんがこの雑誌を始めた理由なんだそうです。

福島を除く東北5県を転々としてきた木村さんが、
故郷、盛岡に戻ってきたのが10年前。

現存しているものもあるとはいえ、
取り壊されつつある古き街並みを何かの形で残していきたい。

そして、純粋に盛岡で活動し続ける人への興味。
この想いが『てくり』を創刊するきっかけとなったそうです。

この視点が、地域の方たちからの支持を集め、
当初1000部の予定だった発行部数は、4000部に増刷。

こうして創刊してから9年、
今年の春で15号目を発行することになりました。

ここまで取材してきて、
盛岡で生きることの意味について分かってきたことはありますか?

と尋ねると、少し間があいて、

「まだです。いつかはまとめていきたいと思いますが…」

と木村さん。

その回答は、まだ解はまとめずに、
もう少し取材を楽しんでいきたいんです、
というようなニュアンスにも聞こえました。

今では、
取材したモノや本を扱うShop「ひめくり」の運営や、

ラヂオもりおかで「ほにほにラジオ」まで手掛けています。

「取材でそのモノ・人のことを知ると、
それを誰かに伝えなきゃって思うんです。
モノだったら、その目で見てもらいたいし、
人だったら、その声を聞いてもらいたい」

それを言葉では表現できなくとも、
何かとても"大切なモノ"を受け取った時、
返礼を相手に贈り返したり
より多くの他者にそれを"贈りたい""伝えたい"と思うのは、
交換の本質であり、文明の起源に関わる行為と言われます。

そしてもちろん、私たちがこうして毎日ブログを綴るのも、
同じ想いからであることは言うまでもありません。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

最新の記事一覧

カテゴリー