MUJIキャラバン

その土地に根ざして生きる、ということ

2012年05月23日

日本初の世界農業遺産として認定された、「能登の里山里海」。

1004枚あるという能登の白米千枚田では、
実際に今でも米づくりが営まれています。

能登ではこうした美しい自然との出会いだけでなく、
とても印象に残る人たちとの出会いもありました。

まずは、能登半島の北部、珠洲(すず)市で出会った、
伝統的な塩づくりを守り続ける角花さん親子。

揚げ浜式製塩法という、この辺りだけに残っている塩づくりの方法は、
塩田に汲み上げた海水を打桶で霧のように撒き、天日で蒸発させ、
乾いた砂に海水をかけてろ過し、さらに平釜で焚くという製法です。

雪の降りしきる冬や、雨の日にはつくることができません。

海水を原料に、浜辺の砂、廃材の薪を使ってすべて手作業で作られるこの製法は、
今でこそエコともいわれますが、塩の専売制が敷かれている時代にも、
角花家では代々、守り継がれてきました。

「この家に生まれたからには、この揚げ浜式の塩づくりを
守っていきたいと思っています」

そう語る6代目の洋さんは、伝統製法を守りながらも、
新しい試みにも取り組み始めています。

洋さんの開発した「塩のジェラート」。

甘さの中にも、海の香りがいっぱいに広がる味でした。

そんな洋さんが、ふらっと訪れるという能登のレストランが、
民宿兼レストランの「民宿ふらっと」。

かつて日本三大民宿に数えられた「さんなみ」の後を継ぎ、
今は娘の智香子さんご夫妻が、新しい民宿を運営しています。

夫のベンさんはオーストラリア人で、イタリア料理のシェフ。
智香子さんがオーストラリア滞在中に知り合い、
能登にまで仕事を辞めて追いかけてきたんだそう!

そんなお二人のレストランでは、
能登の食材をふんだんに使ったイタリア料理が味わえます。

大吟醸粕を使ったこちらのスープ、

うまみを引き出すために、能登の調味料「いしり」(魚醤)が入っています。

また、毎朝手打ちしてつくるというパスタには、

山菜「こごみ」と能登の保存食「こんかいわし」が使われていました。

「この場所だからできるイタリア料理をつくりたい。
ここで採れる食材を使って、能登テクニック(=発酵)でね」

こうした料理からも、能登に見事になじんでいるように見えるベンさんですが、
実際、日本文化や能登の生活に慣れるのは大変だったのではないかと伺うと、

「ベンさんは、文化を受け入れるんではなくって、文化に入っていったんです。
お盆は率先してお墓の掃除をしてくれたり。
今では、近所のおばさんに能登の郷土料理のつくり方を聞かれるんですよ」

お二人によって、能登に新しい風が吹いているのは間違いありません。

外からの視点で、能登を活気づけている人たちといえば、
この方たちのこと抜きに語れません。

先日お邪魔した、高澤ろうそくさんからも、
「能登を知るのに欠かせない人がいる」
とご紹介いただいて、お会いしたのが萩野ご夫妻。

萩野さんご一家は、8年前に東京から
能登半島の三井町市ノ坂(みいまちいちのさか)
という集落に移住してきました。

新しい土地に暮らすなかで、自然の豊かさから学ぶことはもちろん、
毎日出会う農家のおじいちゃんやおばあちゃんから、
里山くらしの知恵を教わったといいます。

そして、自分たちの学びをもっと多くの人と共有したいと、
里山にある豊かさを「食、農、自然、伝統、教育、健康、福祉、アート」
などの切り口で楽しみながら学ぶ、参加型のワークショップ、
"まるやま組"を企画・運営しています。

例えば、奥能登に古くから伝わる「アエノコト」という行事。

目に見えない田んぼの神様をお迎えして、
1年の感謝や豊作の祈願をする農耕儀礼です。

毎年、収穫の終わった12月に、各農家が神様を自宅に迎え入れ、
お風呂にご案内したり、ご馳走を振る舞ったりするそう。

まるやま組では、各農家のアエノコトを見学させてもらい、
自分たちでもオリジナルのアエノコトを行いました。

老若男女、様々なバックグラウンドを持った人々が一緒に集い、
アエノコトのご馳走をつくって食べて。

「当たり前に口にしている食べ物が、どこで、誰によって、
どのようにつくられているのかが見えにくい時代。
つくる人と食べる人、里山で暮らす人と街の人、
小さな人と人とのつながりが、
大きな何かを変えていく時かもしれません。

本来、家単位で行ってきた農耕儀礼ですが、
ワークショップに参加した人のつながりたいと思う気持ちが、
人と人に家族のような絆をつくり、
そのことが里山と新しい形で向き合うきっかけになって欲しいと思います」

そう、萩野さんは語ってくださいました。

伝統的な塩の製法を守り続けながらも、
その延長線上で新しい試みに挑む角花さん親子。

民宿という親の遺伝子を引き継ぎながらも、
能登の伝統食材とイタリア料理を掛け合わせ、新しい風を吹かせる智香子さんご夫妻。

外からの視点だからこそ感じる能登の魅力を、
今に伝えるための活動に取り組む萩野さんご夫妻。

皆さんに共通していえることは、
それぞれの立場で、能登に根ざして活動しているということ。

その土地に根ざして生きるというのは、
必ずしもその土地生まれじゃなくても、
心の持ち方、視点の捉え方次第でできる、ということを知りました。

キャラバンに対しても、多くのヒントを得た気がします。

能登には、必ずまた戻ってきたいです。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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