MUJIキャラバン

オケクラフトセンターと秋岡芳夫さんのこと

2012年07月27日

2011年に目黒区美術館(東京)で開催され、
多くの来館者を呼び話題となった「DOMA秋岡芳夫展」。
その巡回展が、8月11日(土)から9月9日(日)まで、
北海道常呂郡置戸町(おけとちょう)の中央公民館で開催されます。
(一部の内容は変更されます。)
[Facebookページ]DOMA 秋岡芳夫 北海道置戸展

置戸町は、女満別空港から北見経由に車で約1.5時間のところにある
針葉樹に囲まれた人口3400人の小さな町。
かつてはその豊かな森林資源により建築材の産地として栄えたところです。
当時は馬が曳いていた丸太のソリを、今では力自慢の男たちが500kgの丸太を曳いて競い合う
"人間ばん馬"という夏祭りの競技でも知られます。

1983年、町の人々の呼びかけによって、工業デザイナーでありながら
地域コミュニティーで木工や手仕事の生産者教育を実践していた
秋岡芳夫さんは講演のため、この地を初めて訪れました。

その日から置戸町と秋岡さんの交流は、氏の亡くなる1997年まで続き、
裏作工芸としての木工クラフトだけでなく、
"モノ・人・暮らし"の関係を説いた暮らしの思想を
この地に根付かせることになりました。

「消費者から愛用者へ」「手の復権」といった氏の有名な言葉は
今も多くのファンの間に引き継がれています。

さて、少々前置きが長くなってしまいましたが、
これが今回私たちキャラバン隊が訪れた「オケクラフトセンター森林工芸館」。

ここは、秋岡さんが命名して始まった木工"オケクラフト"を紹介するだけでなく、
生産者を育てながら販売の拠点となっている場所。
木のぬくもりに心も安らぎます。

館長の北山雅俊さんが、展覧会の準備の忙しい中、その吸い込まれるような笑顔で
オケクラフトの歴史をとても丁寧に説明してくださいました。
お話を聞いていると、今もそこに秋岡さんがいらっしゃるよう。

まず秋岡さんは、年輪が均等に刻まれず建築材には使えない
アテ材と言われる偏芯材を使って、
この土地の人々が冬の間に裏作として従事できる木工を勧め、
エゾマツ・トド松の白い木肌と美しい木目を生かした
器や家具を生み出されていきました。

そして「都会の人が羨むような北国文化をここから発信しなさい」
という言葉の通り、瞬く間にその美しい木目と生産者の情熱によって、
オケクラフトの名は地域ブランドとして広まっていったのです。
館内にはその歴史を辿るアーカイブが数多く保管展示されています。

さまざまな素材や形状の美しい椀・皿・桶などが展示されており、
時間を忘れて、じっと見とれてしまいました。
秋岡さんの撒いた種が、たくさんの"実用の美"として育っているんですね。

これは、"ガッポ材"と言われる中が空洞になった木材を利用したチェア。
どっしりしていて、ぬくもりと味わいが何とも言えません。

また、秋岡さんは多くある著作の中で、
"暮らしの中のデザイン"についてのメッセージと多くの知恵を残しています。

たとえば、先人から引継ぎ残されている日本の寸法。
私たちが一番使いやすい箸の長さは、広げた親指と人差し指の幅の1.5倍なんだそう。
ちなみに私は21cm、夫は23cmでした!

著作の中では、人間の身体をモノサシにしてモノの長さを計る身度尺や、
日本の暮らしに根付くモジュールや黄金比についての記述が多く残されています。
「手で考えよ」とは秋岡さんがよく言われた言葉だそうですが、
手が握るものの寸法を決めるという考えから、
"椀の径は両の手にちょうどいい120ミリに"、
"ビール瓶や徳利は大人の片手に合わせて75ミリに"
といった具合に、人間がちょうどいいと感じるサイズを残してくれています。

センター内の工房では、実際に白木が美しい器に変わっていく様子を拝見。
また、じーっと見てしまいました…。

モノが生まれる現場を見ることは、生活者がモノを大事に使いたくなる原点ですね。
私たちの暮らしの周りにモノが生まれる場所があることそれ自体が、
とても大事なことであることを教わりました。

置戸で活躍する19の工房の皆さんによる作品をここで購入することができます。
中には左利き用のヘラもあり、さすがは生活者の視点。

それから北山さんに、隣にある"どま工房"という施設を案内していただきました。
ワークショップや語らいの場として、秋岡さんがデザインして作られた
"土間"のようなコミュニケーションスペースです。

なんと、北山さんから秋岡さん直筆の貴重なノートを見せていただきました。
幾つもある言葉の中に、「"ふだん"を討論しよう」というメッセージを発見!
"良いくらしを探す旅"を目指す私たち無印良品キャラバン隊にとって、
この言葉は特別なものになるような気がします。

中に入ると、秋岡さんが全国から集めた18000点もの手仕事道具や生活用具、
関連資料が保管されています。
企画展やワークショップの場として、今も利用されているとのこと。

秋岡さん愛用の"日本人の体格と暮らしに合う椅子"。
座面が38cmで、3つ合わせると長椅子になります。
椅子の上であぐらをかいてもゆったり。

そのほかにも、先人が暮らしの中で愛用した数々のモノが展示されています。

私たちはこれまで多くの土地を訪ね、
その風土に根付いた暮らしやモノづくりを取材させていただきました。
今回の訪問を通して学んだことは、その"暮らし"と"モノづくり"は
別々ではなく一体として考えなければならないということです。
これは私たちにとって、とても大きな気付きです。

身体性の復権と言われますが、手でモノを作るということを経験できているか否かで、
社会にある諸問題についても捉え方や感じ方が異なるのかもしれません。

この旅で出会った人達に共通する何かを、またひとつ探り当てることが出来ました。
(私たちはこれらを"違うようで同じもの"と呼んでいます)

帰路、北山さんに薦められて町の自慢の図書館に立ち寄りました。
置戸町生涯学習情報センターが正式名称のこの図書館には、
薪ストーブの暖炉風コーナーや、置戸町のクラフトマン達によるインテリアがいっぱい。

ここで一日中、好きな本を読んでいたい。
そう思うのは私達だけでしょうか?

"都会の人こそが羨むような文化"が、確かにこの町にありました。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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