MUJIキャラバン

無茶々園

2012年12月21日

空高く昇っていく太陽のように、青空に輝くみかんたち。

ちょうど収穫のまっただ中の12月初旬に、
みかんの産地、西予市(せいよし)明浜町(あけはまちょう)を訪れました。

辺りを見渡すと、山の斜面にはこれでもか! といわんばかりに
みかんの段々畑が広がっていて、

その前には宇和海がキラキラと光っていました。

ここは、町全体が南向きで日当りがよいうえに、海からの照り返しがあり、
水はけのいい土壌、ミネラル分を含む潮風…と、
おいしいみかんができる自然条件がそろっています。
また、段々畑の石垣が熱を保つ役割をしているそうです。

それにしても、段々畑を目の前にすると、その傾斜のすごさに驚かされます。
収穫したみかんの運搬用に、
各畑にはジェットコースターのようなレールが設置されていて、
もぎたてのみかんが運ばれていました。

一般的に有機栽培が難しいとされる柑橘類ですが、
この畑で栽培されているみかんには、除草剤や化学肥料は一切使用されていません。

生産者の川越文憲(ふみのり)さんは、

「除草が大変かなぁ。夏場は毎日刈っても、すぐに草が生えてくるからねぇ。
だけど、一度自然に育ったみかんの味を知ってしまうと、
いくら頑張ったって自然の力には勝てないって思うんだよね」

と、絶景をバックに話してくださいました。

川越さんいわく、自然に育ったみかんは糖と酸のバランスがよく、
しっかりとした味がするのだそう。

「採れたてのみかん、食べたことあるか?」

そういわれて、渡されたみかんを食べると…
とてもみずみずしく、程よい酸味と甘さが口の中いっぱいに広がり、
「おいしーい!!!」
と感嘆の声を上げた途端、次のひと言に今度は驚きの反応をすることに。

「このみかん、市場じゃ値段はついても10円だよ…」

形が不ぞろいなことと、皮に傷がついていることが問題だそう。
それでも、明浜町を中心に80軒以上の農家が有機栽培をしています。

その理由は「無茶々園(むちゃちゃえん)」にありました。

「無茶々園」とは、できるだけ農薬や化学肥料に頼らないみかんづくりをしていこうと、
1974年に3人の青年によって立ち上げられた実験園のこと。

その後、社会への訴えとともに協力者としての消費者会員を募り、
「無茶々園」の栽培方針に賛同した生産者の輪も地域全体に広がっていき、
現在は生産者団体として活動しています。

また、直営の農園も持っていて、
全国からIターンの若者が集まり、有機農業に取り組んでいます。

今でこそ、"有機"や"オーガニック"という言葉をよく耳にしますが、
約40年前からそれに取り組まれているとは驚きです。
それでも理由を聞いて納得しました。

彼らにとって、有機栽培は第一目的ではなく、
"特色ある地域づくり"が主たる目的だったのです。

農業を主軸として、集落や町全体で気持ちよく暮らせる田舎を作りたい。
環境にやさしいみかんづくりを志すのは、
自分たちの住む地域の自然環境を向上させたい、
というのが大きな動機だったといいます。

「無茶々(muchacha)」とは、スペイン語で「おねえちゃん」の意味。
"ネオン街の蝶を追っ掛けるより、蜜柑畑のアゲハチョウでも追っ掛けようや"
"無農薬、無化学肥料栽培なんて無茶なことかもしれないが、無茶苦茶に頑張ってみよう"
という意味を含めて、設立者は「無茶々園」と命名したのだそう。

「無茶々園」で営業企画を担当している、高瀬英明さんは、

「今、田舎は過疎化が進んで疲弊していくっていわれていますが、
人の流れで問題は解決できると僕は思ってるんですよ」

と爽やかな笑顔で語ります。

彼は、10月に発売になったばかりの、
無茶々園発のスキンケアコスメの生みの親。

ジュースを搾った後の柑橘の皮がもったいない!と、
その活用方法を模索していたところ、
奥様がお子さんの乾燥肌で困っていて、
当時使っていた海外産のオーガニック化粧品の原料を見てみると、
これなら明浜にある原料でも作れると思い、開発に至ったのだそう。

原料は、無茶々園の有機農法にこだわって栽培された柑橘類から採れる精油と
宇和海で手塩にかけて育まれた真珠貝のパウダー、
無茶々園の直営農場で育成されたゆずのシードオイル、
そして、段々畑に咲く柑橘類の花の蜜を集めたみかん蜂蜜。

「今回、スキンケアコスメをこうして作れたのは、
無茶々園に関わる人たちが、"美しい景色を後世に伝えたい"と
ねばり強くやり続けてきてくれたからだと思っています。
このコスメを通して、無茶々園のこと、無茶々園のみかんのことを知ってもらい、
そして農業の未来について考えるキッカケになったらうれしいです」

高瀬さんは、地元に伝わるお祭りのかけ声「やー、えーとこー」から、
明浜の"いいところ"を発信する想いを込めて、
このコスメのブランドを「yaetoco(ヤエトコ)」と名付けました。

約40年前から、川越さんのような生産者とともに、
「無茶々園」がこの地で積み重ねてきたものが、
今、新たな風を明浜に吹かせ始めています。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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