MUJIキャラバン

伊勢型紙

2014年01月29日

染色道具のひとつである「型紙」。

和紙を柿渋で加工した型地紙に、
彫刻刀で繊細な紋様や図柄を彫り抜いたものです。

もともと着物などの生地を一定の柄や紋様に染色するために使われるものですが、
全国を回ってみて、布だけでなく、焼き物や革製品など
その使われ方の幅がとても広いことを知りました。

また、型紙のほとんどが三重県鈴鹿市の白子(しろこ)地区で生産されている、
通称「伊勢型紙」であることも各地で耳にしてきました。

「伊勢型紙の歴史は、1000年といわれていますが、
個人的には500年ほどだと考えています。というのも…」

伊勢型紙の歴史から丁寧に教えてくださったのは、
オコシ型紙商店の起(おこし)正明さんです。

これまで見てきた地域の伝統産業は、その成り立ちの背景に、
風土が適していたことや原料が採れたことなどが関係していました。
しかし、鈴鹿市は型紙の原料である和紙や柿渋の産地でもなく、
地域で染物業が盛んだったわけでもないのに、型紙の一大産地になったのだそう。

「伊勢型紙の発祥には諸説あるのですが、
恐らくキッカケは、応仁の乱ではないでしょうか。
京都から型を彫れる職人さんが散らばったのが起源ではないかと思っています」

起さんは、伊勢が型紙の産地に発展したことには
2つの要因があると話します。

1つは、白子町が江戸時代に入り、紀州藩の天領となり、
紀州徳川家の庇護のもとに置かれていたこと。

2つには、伊勢商人の存在です。
彼らは、紀州藩から「鑑札」を与えられていたため、
全国どこへでも行商ができたし、泊まる宿なども優遇されたというのです。

伊勢型紙の業界は、型地紙の製作業者、型紙を彫る職人、
そして図案の企画を行い、染物屋に販売する問屋からなります。

「伝統産業について語られる際にフォーカスされるのは職人です。
もちろん技術の継承も重要ですが、そもそも売れないと産業ではありません。
文化と産業は違うので、流通させなければ始まりませんから」

起さんは問屋の3代目。
今年で50歳を迎えますが、伊勢型紙に携わるなかでは、最年少だそう。

バブル期の終わりに家業に入った起さんは、
ここ10年でニーズが大幅に減少し、危機感を持つようになったといいます。
和装用としては、現在、20年前のおよそ10%しか製造できていないというから深刻です。

頭を悩ませた起さんは、伊勢型紙の染色道具として以外の使い道を模索。
マーケットを海外にまで広げ、2010年にフランスのインテリア&デザイン関連見本市に、
2011年には、同じくフランスのテキスタイル国際見本市に出展し、
建築・内装、テキスタイルのデザインソースとしての可能性を探りました。

そんな折、2012年に三菱第1号美術館、京都国立近代美術館、三重県立美術館で
「KATAGAMI Style ー もうひとつのジャポニスム」
と題した巡回美術展覧会が行われました。

江戸後期に、「浮世絵(UKIYO-E)」とともに海外に渡った「型紙(KATAGAMI)」が、
世界の美術やデザインに与えた影響を垣間見ることのできる内容で、
起さんいわく、この展覧会が世間に対して
デザインとしての伊勢型紙の可能性を示すキッカケになったのだとか。

起さんは伊勢型紙のデザイン性を活かすべく、
地元のデザイン会社と組んで、アルミ削り出しのスマートフォンケースなどの
開発に勤しみます。

「それでもやはり道具・デザインとしての使われ方の域を越えられません。
今後は型紙そのものを活かした商品を開発していきたいですね」

オコシ型紙商店には、創業以来作りためてきた型紙が約数万点あります。

「型紙は立体でなく、色も単色。
しかし、同じ柄をリピートすることができる、
"エンドレスピクチャー"という魅力があります」

伊勢型紙は一見すると、長方形の中に描かれた
一つの作品のようでもあるのですが、

柄の下部と上部がピッタリ合う仕立てになっているのです。

これこそが伊勢型紙の真髄である、と起さんは話してくれました。

「伝統を守ることの難しさを痛感しています。
攻めることは案外簡単。
引き継がれてきたものを守りながらも、次なる展開に
引き続き、もがいていこうと思います」

和紙と柿渋という自然素材から、
彫刻刀だけを使ってここまで繊細な柄を生み出してきた、伊勢型紙の世界。

この細かい作業を実現できるのは、日本人のきめ細やかさや
粘り強さがあってこそだと思います。

しかし、一目瞭然である美しさや技術の素晴らしさとは裏腹に、
生活スタイルや先端技術が生まれている現代社会において、
これをどう活かしていくかが、まさに今後の鍵。

この答えを探すことは、産地の人たちだけでなく、
全くの異業界出身者や生活者の私たちにもできることかもしれません。

現在、伊勢型紙を彫れる職人の平均年齢は70歳を超えているそう。

500年の歴史を生かすも殺すも、
この先10年にかかっているという事実を突きつけられました。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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