MUJIキャラバン

横浜帆布鞄

2013年09月11日

横浜みなとみらい、赤レンガ倉庫からほど近い万国橋たもとに、
一軒の鞄工房があります。

「045 Yokohama Canvas Bag」と名づけられたその鞄は、
帆布(はんぷ)製。

キャラバン中、帆布の産地、岡山県ではよく目にしましたが、
横浜にも帆布があったのかと、驚かされました。

「横浜といえばシュウマイにKitamura…。
東京に近い土地柄のせいか、意外と横浜ブランドは少ないんです。
そんな横浜ならではのモノづくりをしたかった」

横浜帆布鞄の開発者、U.S.M.Corporationの代表取締役、
鈴木幸生さんがその想いを話してくれました。

もともとアパレル雑貨業界で長らく企画製造、
マーケティングに携わってきた鈴木さんは、50歳を機に退職。

生産拠点を海外に置くことに疑問を覚えていた鈴木さんは、
日本の繊細な技術力を、わざわざ海外へ移植させることはないと、
国内でのモノづくりにこだわります。

そして、異国情緒を感じさせる大好きな横浜を拠点に、
新しいモノづくりへの挑戦を始めたのです。

「横浜らしさを考えたとき、やっぱり港町を想起しますよね。
港町といえば船、かつては帆船が主流でした。
調べると、やっぱり横浜にも"横浜帆布(株)"という商社があり、
全盛期には、日本製の綿帆布輸出量の約7割のシェアを持っていたほどでした」

しかし、この横浜帆布(株)は、関東大震災で被災。
工場を失った後の主力帆布生産を担っていたのが、
岡山県の「武鑓織布工場(現:株式会社タケヤリ)」でした。

鈴木さんは、その歴史にちなんで、
今も125年の歴史で培われた確かな技術を基に作られる
武鑓(たけやり)綿帆布を使った製品づくりに着手します。

それに加え、現在、日本で2社しかないといわれる帆船のメーカーが、
横浜にあることを耳にします。

「森野帆布船具工業所」は、今年でちょうど創業100年を迎える老舗工場。

船具全般を企画製作している業界No.1メーカーで、
海上自衛隊の船具工場にも指定されています。

横濱帆布鞄で使用している防水性のビニロン・キャンバスは、
日本で初めて開発された合成繊維"ビニロン"で織り上げられた帆布を、
森野帆布船具工業所が別注で、
海上自衛隊のスペックに合わせた特殊加工が施された素材です。

ビニロン・キャンバスは、加工しにくくごわごわするという点から、
これまで衣料品・服飾雑貨品などには使われてきませんでした。

しかし、鈴木さんは、あえてこの素材に注目します。

「ミリタリーに指定されるというのは、究極のアウトドアスペックということ。
日用使いのバッグだから、耐久性に優れているに越したことはありません。
それも日本発の、横浜らしい素材で」

こうして、"森野艦船帆布"を用いたシリーズの鞄が誕生したのでした。

触れると少しザラっとした感触ながら、想像以上に柔らかく、そして軽い。
表面加工されているので、水にも強いというのは、
毎日使う鞄としてはうれしいところですね。

また、生地には模様を施さず、素材感が出るようにシンプルに。

そして、製品後にスタンプ加工を施すことで、
キャンバスに自由に柄を描けるように幅を持たせています。

スタンプは、ラバーインクのため経年変化が楽しめ、
使いこんでいくごとに味わいが増していくそう。

さらには、その素材の特徴をいかしたこんな商品も。

横浜で活動している"agreen project"のクリエーター達とのコラボ企画「Tsuchi Bag」。
その名の通り底面に水抜き穴もあり、土を入れられるバッグで、
プランターの代わりにも、ご覧のように観葉植物の観賞用にも使えるんです。

「モノづくりは現場が何よりも大事なんです。
現場が近くにあることで、その場でトライアル&エラーができる」

あえて事務所内に工房を構えたことで、
お客様からの修理の依頼に直接応えることができたり、
直接の要望を聞くことができるようになったと、鈴木さんは話します。

「これからも横浜の街を愛しながら、
横浜らしいものづくりをしていきたいですね」

歴史を掘り起こし、その土地らしさを追求する姿勢は、
どの土地においても適応できることではないでしょうか。

鈴木さんの表情が終始すがすがしいものに感じられたのも、
きっと、自身の道に一点の迷いもないからに違いありません。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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