研究テーマ

30・10運動

互いに酒を酌み交わし、大いに盛り上がる宴会。宴(うたげ)の後に残された料理を見て、ふと、思ったことはありませんか。「もったいない。もう少し食べておけばよかったかな」と。「30・10運動(さんまる・いちまる運動)」。食品ロスが問題になっている今、宴会の食べ残しを減らそうという自治体の取り組みが始まっています。

松本市から始まった取り組み

「みなさん、これから乾杯をしますが、その前に『残さず食べよう30・10運動』についてご説明します」と、こんな幹事のひとことから「30・10運動」に賛同した宴会は始まります。「乾杯の後の30分間と、お開きの前の10分間は、自分の席について料理を楽しみ、『もったいない』を心がけ、食品ロス削減の取り組みにご協力ください」。そしてまた、宴会終了の10分前になると幹事が立ち上がり、参加者に告げます。「まもなくお開きとなりますので、今一度ご自分の席に戻り、料理をお楽しみください」。そう、「30・10」とは時間のこと。乾杯後の30分とお開き前の10分は、自分の席に戻り、食べることに集中して、食品ロスをなくしましょうという運動です。
この取り組みは平成23年度に、長野県の松本市から始まりました。飲食店等から出る生ごみのうち、約6割がお客さんの食べ残しという現状を改善すべく、市内の飲食店や宿泊施設に呼びかけて、「残さず食べよう! 30・10運動」を推進するコースターやポケットティッシュを配布。また、幹事さんに協力を求めて、宴会の始まりに"運動の主旨"を説明してもらうよう働きかけました。当初は理解を得ることが難しく、賛同する店も少なかったようですが、説明を重ねるうちに少しずつ理解が得られ、今では100店舗を超える事業者が啓蒙活動に参加しているとか。「残さず食べよう」の主旨も浸透し、平成25年度にはこの運動に参加したお店での食べ残しを半分まで減らせたそうです。

家庭に向けた取り組みも

松本市では家庭向けの「30・10運動」も推進しています。毎月30日を「冷蔵庫クリーンアップデー」、10日を「もったいないクッキングデー」と命名。「冷蔵庫クリーンアップデー」は、庫内にある賞味期限・消費期限の近いものや、傷みやすい肉や野菜を使いきる日。「もったいないクッキングデー」は、食べられるのに捨てている野菜の茎や皮を使って料理をする日。市では松本大学と連携して「もったいないクッキング」のレシピ集を作成し、親子で一緒に料理をしながら、食の大切さについて考えることを推奨しています。

全国に広がる運動

松本市の取り組みが、国の「食育白書」や「消費者白書」に掲載されると、さまざまな自治体から問い合わせが殺到。「30・10運動」は全国に広がりを見せ、今では福岡県、兵庫県、神奈川県の厚木市、埼玉県の狭山市、佐賀県の佐賀市、鹿児島県の指宿市や阿久根市などでも実施されるようになりました。また、熊本県のあさぎり町では、焼酎文化保護などの目的で成立した条例に、「乾杯後30分間は自席で料理を味わい、お開き前の10分間は自席に戻り、再度料理を楽しむこと」という一文まで追記されたそうです。
このような取り組みが広がった背景には、なかなか減らない食品ロスの問題があります。これについては以前のコラム「食品ロス」でもご紹介しましたが、日本では年間約632万トンの食料が、まだ食べられるのに捨てられています。これは年間の食用の魚介類の量(約622万トン)にほぼ匹敵するとか。つまり、漁師さんが獲ってきた魚や貝類とほぼ同じ量の食べ物が、そっくり捨てられていることになります。「もったいない」ことはいうまでもあませんが、食品ロスで出る大量の廃棄物はゴミ処理の観点からも、自治体にとって「捨ておけない」問題になっているのです。

「もったいない」の思いを持ち帰る

食品ロス全体から見れば、宴会のときに出る「食べ残し」はたかが知れているかもしれません。たとえそれを減らせたとしても、全体に与える影響は微々たるものでしょう。しかし、食べ残した後に感じる"罪悪感"はとても大切で、「もったいない」の思いを家に持ち帰り、日々の暮らしに生かすことはできそうです。実際、食品ロスのうちおよそ半分は一般家庭から出るもので、生ゴミのうち約3割は、まだ食べられるうちに捨てられているとか。一人ひとりに「もったいない」の意識が芽生えれば、家庭での生ごみの削減が今よりもっと進むかもしれません。そのための「気づき」を提供するという意味で、「30・10運動」が果たす役割は大きいといえるでしょう。
これから年末にかけて、忘年会のシーズンがやってきます。年明けに新年会を予定している方もいらっしゃるでしょう。自治体の声掛けがなくても、「30・10運動」は、いつでも、誰でも、どこでも、すぐに始められます。もし、これをお読みになっているあなたが、今年の忘年会の幹事に指名されたら、今度の宴会から「30・10運動」を取り入れてみてはいかがでしょうか。
一人ひとりの小さな思いや気づきこそ、「食品ロス」を減らす大きな力になるのですから。

参考資料:松本市公式ホームページ「くるくるねっとまつもと」

研究テーマ
食品

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