研究テーマ

おからのちから

料理上手で知られる人形作家の粟辻早重(さなえ)さんは、事務所の10人近いスタッフの食事を毎日作っているといいます。相手は、20代から30代の若い女性ばかりですから、健康管理はもちろんダイエットも大事。というわけで目をつけた食材が「おから」。ついには、おからの本(※1)まで出してしまいました。地味なお惣菜というイメージの強かったおからですが、このところ、いろいろな意味で注目を集めているようです。

おからの行方

「おから」は、豆腐を作る過程で豆乳を搾ったときに出る残りカスです。搾りカスとはいえ、良質のタンパク質をはじめ大豆の栄養分を豊富に残し、しかも低カロリー。そして何より、食物繊維が豊富で、100g中11.5gという食物繊維量は、ごぼうの約2倍に当たるといいます。
いいことずくめに思える「おから」ですが、食生活の洋風化が進むにつれて、食卓での存在感は薄くなっていきました。家庭で料理されることも減り、多くの人はお惣菜売場のパックにたまに手を出す程度です。そんなこともあって、豆乳や豆腐の副産物として産出される「おから」(国内の年間産出量:70~80万トン)のうち、食用として消費されるのはごく一部だけ。大半は、産業廃棄物として廃棄・焼却処理されているといいます。昔は家畜の飼料などにも使われていたようですが、水分が多く輸送が困難なため、敬遠されているのでしょうか。ゴミの問題にとどまらず、これだけすぐれた食材が有効活用されないまま捨てられているのは、いかにももったいない気がします。

おからの乾物

おから(左)とおからパウダー(右)

ところが、ここにきて、その「おから」が見直され、急速に地位が上がってきているといいます。それに一役かったのは、「乾燥おから」。おからの栄養素はそのままに、脱水加工して粉末状にし、いつでも使えるようにしたものです。この乾燥おからを、さらに細かい粉状にしたものが「おからパウダー」。いずれにせよ、水分を飛ばしてあるので常温で長期保存できますし、小麦粉やパン粉代わりに使うこともできます。パンやお菓子に入れたり、ハンバーグに加えてボリュームアップしたり、コロッケやポテトサラダのポテト代わりにしたりと、使い方はいろいろ。また、水を加えれば4~5倍にふくらんで、生のおからのようにも使えます。以前、ミュージシャンの藤井フミヤさんがテレビ番組の中で披露していたのは、「おから餃子」。おからが具材の余分な水分を吸ってくれるので、とても包みやすいとか。「おから」は、調理のときに包丁を使う必要がないため「きらず(切らず)」という別名があるくらい、扱いやすい食材。粉末タイプのものを、防災用の非常袋などにしのばせておくのもいいかもしれません。

おからでダイエット?

おからで作ったパンケーキ

普段の食事におからを取り入れる「おからダイエット」にも注目が集まっています。ダイエット中は、カロリーや糖質を抑える必要がありますが、低カロリーで糖質量の少ないおからなら、それも簡単。食物繊維が多く、噛む回数が増えるため、「腹八分目」でも満腹感が得られるということもありそうです。
また、おからでお菓子などを作ると、小麦粉を使う場合に比べてカロリーを20~30%カットできるともいわれます。ただ、おからなど低糖質のものには小麦粉のようなグルテンが含まれていないため、水分と合わせても自然の粘りが出にくいところが難点。先にご紹介した粟辻さんは、お菓子作りでは市販の小麦グルテンと組み合わせて使うことを勧めています。
生のおからを使う場合は、日持ちしないので、買ってきたら50gずつくらいに小分けして冷凍保存しておくと便利。また、ラップなしでレンジにかける、とサラサラの粉状になり、小麦粉やそば粉など他の粉ともなじみやすいそうです。

『食べる』以外のおから

おからには、油分や水分をよく吸うという性質もあります。この性質を利用して、食べる以外におからを活用する方法も。たとえば、肉を下ゆでするとき、おからをひとつかみ加えると、肉の余分な脂やアクを吸い取って、肉をやわらかくおいしくしてくれます。そのほか、揚げ物に使用した廃油は、冷ました後でおからに吸わせて捨てれば簡単。生ゴミにおからを混ぜて、水分や悪臭のもとを吸収させるという方法もあるようです。小さな工夫をしながら「使いきる」ことで、大量廃棄を少しずつでも減らしていけるかもしれません。

旧くて新しい食材「おから」を見直す動きは、命の糧として日々の食を見直す動きとも無縁ではないでしょう。
みなさんは、「おから」をどんなふうに食べていらっしゃいますか?

※1 おからの本
本のタイトル『糖質off 小麦粉なし、砂糖なし!おからマフィン』著者・粟辻早重、撮影・原田真理、文化出版局

研究テーマ
食品

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