2地域居住 ─富士山と東京、行ったり来たり─
東京から約100km離れた富士山の北麓で暮らしながら、週の半分近くは仕事で東京へ。そんな2地域居住を続ける研究所スタッフのブログです。過去50回にわたって連載したブログ「富士山麓通信」の続編となる今シリーズでは、時折り都会の出来事も織り交ぜながら、暮らしのあれこれを綴ります。

9.晴れた日には、乾物作り

2019年07月24日

東京で暮らしていたころ、3年ほど農業塾に通って野菜作りを楽しんでいました。わずか8坪の小さな畑でも3人家族では食べきれないほどの収穫があり、友人に配ったり実家に送ったり。そのころから、食材(特に野菜)を食べきることがわが家のテーマになり、それは富士山麓に移り住んでからも変わっていません。そこで今回は、夏場にせっせと励んでいる自家製乾物作りのお話。あわせて、二拠点居住の食生活を支える乾物利用法もご紹介します。

野菜の日光浴

富士山麓に移り住んでから野菜干しが増えたのは、もしかしたら、森の澄んだ空気や空の広さが影響しているかもしれません。青空の下で洗濯物を干すような爽快感と言えばいいでしょうか。青空が大きければ大きいほど、その爽快感も大きくなるような気がします。

一方、東京時代には経験したことのない誤算もありました。二日続きでトマトのザルがひっくり返っていたのです。最初は風に飛ばされたのかと思いましたが、隣りにあったもっと軽いキノコのザルは被害なし。不思議に思っていたら、「野鳥に狙われたんじゃない?」と家人。そうでした!鳥は色を見分けられるからこそ、赤くなった実だけを食べるのだということをすっかり忘れていました。たしかに、こうして写真を並べてみると野鳥を餌付けするための餌場にも見えますね。ましてやドライトマトには干し椎茸と同じうま味成分のグアニル酸が含まれているのだから、狙われて当然かも。それ以来、トマトは必ずネットに入れて干すことにしています。

保存は、紙に包んで

見様見真似で楽しみながらやってきた乾物作りですが、ごくたまに、保存中にカビが生えることもありました。「ま、素人の手遊びだから」と笑ってごまかしてきたものの、「この方法でいいのかな?」という不安も。
そんなときに見つけたのが、東京で開かれていた「自家製乾物作り自由自在」という講座です。参加して教わってみると、大筋は「これで良かったんだ」と安心できた半面、「えッ? そうだったの?」という新しい発見もいっぱいありました。

たとえば、保存方法。私はこれまで密閉瓶に入れて保存していましたが、自家製の場合、「瓶はやめたほうがいいですね」と。機械乾燥でない場合、どうしても干しムラができて、それがカビの原因になるのだとか。紙袋に入れて吊るしたり、紙に包んで紙の箱に入れておけば、保存している間も残った湿気を吸いとってくれるといいます。

皮も、おいしい

その講座で見せていただいた見本の中に、白い太めのカンピョウのようなものがありました。聞けば、大根の皮だとか。「すぐに乾くし、おいしいですよ」と聞いたので、早速作ってみました。

上がピーラーで皮をむいた生の状態で、下のザルの下の方が乾いたもの。乾くと、薄いのにしっかりと歯ごたえはあって、これまでの大根のイメージをくつがえす食感です。ざく切りしてお味噌汁に入れたり、細目に切って炒め物や炒飯に入れたり、そのまま糠漬けに放り込んだりと、いろいろ使えます。
ちなみに右のザルの上方の細切り大根は、スライサーでカットしたもの。火の通りが早いので、熱湯をかけて塩コショウするだけでもスープになるというスグレモノです。

ゴボウの左のザルは、味噌汁やかき揚げなどに使いやすいよう、ピーラーで細切りしたもの。右は煮物などに使いやすいブツ切り。

ニンジンもいろいろな切り方で干しておくと、使い道のバリエーションが広がります

まるごと食べる

アクのあるゴボウやレンコンなどは塩水か酢水に浸けてから干すこと、青菜やブロッコリーはさっと茹でてから干すことも教わりました。たしかに、こうすれば、普段は捨ててしまいがちなホウレンソウの根っこの部分やブロッコリーの茎、キャベツの芯なども、余すところなく食べられます。

※ホウレンソウやキャベツは、東京で食べる簡単スープの具に。ブロッコリーやレンコンは、シチューやカレーなどに。

作りながら戻す

「乾物は、戻すのが面倒」という声を、よく聞きます。でも、戻している間ずっと付き添っている必要もないわけで…。段取りを組んで、それを習慣づけると、そんなに苦でもなくなります。わが家の場合、翌朝の味噌汁用として、水を張った鍋に昆布や煮干しの出汁と一緒に具材の干し野菜を放り込んでおくだけ。朝になったら、結構いいお出汁が出ていて、ついでに乾物もやわらかくなっているという段取りです。
私の乾物調理は、基本的に「ながら戻し」。切干大根やひじきなどは、せいぜい10分もあれば戻りますから、他の調理をしながら戻します。他のものも、炒めながら、煮ながら、つまり「作りながら」戻せば、ストレスはありません。
乾燥大豆は自家製ではありませんが、豆ごはんもわが家の定番。前夜お米と一緒に青大豆を入れて仕かけておけば、翌朝は普通に炊きあがっていて、こちらは「炊きながら戻し」です。

乾物で時短

乾物にすると旨みが凝縮されておいしくなるだけでなく、料理の時短にもつながります。何しろ、おひさまの力で下処理してあるのですから、調理時間は短くなってあたりまえ。その都度、野菜を洗って刻んでという手間もないので、特に忙しい朝の食事作りには最適です。お味噌汁やスクランブルエッグなどの具材にすれば、サラダより簡単。手間をかけずに何種類もの野菜を摂れるのは、乾物なればこそでしょう。私の場合、朝食用だけでなく焼きそばや炒飯の具材としても便利に使っています。

コトコト煮込むシチューも、野菜を切るところから始めるとなると、ウィークデーの夜のメニューとしてはややハードルが高いもの。でも、チキンを炒めたお鍋に干し野菜を放り込んで、トマトジュースで30分煮込むだけなら、気軽に出来てしまいます。ちなみに写真のトマトシチューには、レンコン、セロリ、ブロッコリー、カブ、ブラウンマッシュルーム、シメジ、エノキ、エリンギ、マイタケ、長芋、ニンジン、パプリカ、トマトなどが入っていますが、チキン以外は全部乾物。思い立ったらすぐにできるのも、乾物なればこその技です。奥のポテトサラダも、中のきゅうりは2~3時間くらい干ししたもの。歯ざわりがよく、サラダが水っぽくならないので、おススメです。

古漬けの沢庵も乾物に

今年はいろんな事情があって、暮れに仕込んだ大量の沢庵を食べきれないまま、春が過ぎてしまいました。時間が経てば、どんどん酸っぱくなっていくのが古漬けです。食べられなくはないのですが、酸味が強くなりすぎて、家族には不評。といって、自分が漬けた沢庵を捨てるのもしのびない。というわけで、「ダメ元」で沢庵の古漬けや漬かり過ぎた糠漬けを干してみました。もちろん、干したからといって酸味が弱まるわけではないのですが、少し小さめに切って炊き込みご飯や炒飯に入れてみると、味のアクセントになって意外といけます。酸味も塩味もあるので、東京でのインスタントスープにもぴったり。

乾物を連れて、東京へ

二拠点居住というとよそ目には優雅に見えるようですが、移動に時間を取られる分だけ忙しく、現実はバタバタとした暮らしです。特に東京に行っている間は、ミーティングや取材などで出かけることが多く、ゆっくり料理をする余裕はありません。かといって外食ばかりでは飽きてしまいますし、不健康。というわけで、小さな紙の箱に入れた自家製乾物を持って東京へ。軽いし、何より、まな板や包丁いらずという簡便さがうれしいからです。基本のスープは、乾物野菜と鶏ガラスープや白だしなどをカップに入れてお湯を注ぎ、塩コショウ少々を足して出来上がり。お野菜たっぷりの自家製インスタントスープが、東京での食生活を支えてくれています。

乾物の小箱

古漬け沢庵や漬かり過ぎの糠漬けは、ほどよい塩味でスープに最適

白だしや鶏ガラスープとお湯を注いで、出来上がり。ごま油やオリーブオイルを加えてバリエーションを楽しみます。

こうして遊び半分でやっているうちに気づいたことは、「乾物は究極のインスタント食品」だということ。とはいえ、料理の前段階でお天道様を味方につけて下準備をしているわけですから、単なる手抜きとは違います。旨みが凝縮した味わいや、生とは違った歯ごたえなど、乾物ならではのおいしさも。そして、乾物にして食材を食べつくすことでフードロスも減らせるとしたら…もっと活用しなければもったいないと思いませんか?

  • プロフィール くらしの良品研究所所員
    M.Tさん

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