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高野豆腐のパワー

今、世界中で和食が注目される中、日本の伝統的な食品が見直されはじめています。その代表的なもののひとつが、高野豆腐です。食生活の西洋化にともない、毎日の食卓にのぼる機会がめっきり減ってしまった食品ですが、健康にはもちろん美容にもいいということで、近年熱い視線を集めています。

畑の肉とよばれる理由

豆腐の原料となる大豆のことを「畑の肉」と呼ぶことがあります。それだけ良質なタンパク質を含むということでしょう。高野豆腐ももとはといえば豆腐なので、当然タンパク質を豊富に含みます。「日本食品標準成分表2015年版(七訂)※」によると、乾燥した凍り豆腐(高野豆腐)の可食部分100グラムに含まれるタンパク質は50.5グラム。およそ半分以上がタンパク質でできていることになります。和牛ヒレの赤身の生肉が含むタンパク質は100グラム中19.1グラムですから、いかに高野豆腐が多くのタンパク質を含んでいるかがわかります。
しかも、高野豆腐のタンパク質はただのタンパク質ではありません。「レジストタンパク質」といって、消化されにくく、体に吸収されにくい特性を持っています。もともと大豆はコレステロールを低下させやすいことで知られていました。その理由として考えられていたのが、「レジストタンパク質」。このタンパク質は食べてもすぐに消化されず、そのままの形で腸まで届き、吸収される前のコレステロールと結合して体外に排出し、LDL悪玉コレステロール値を下げる働きがあるのです。その「レジストタンパク質」を高野豆腐は多く含みます。

まるでマルチサプリメントのよう

タンパク質だけではありません。高野豆腐には「カルシウム」や「マグネシウム」などのミネラル分、女性ホルモンのエストロゲンに似た働きをする「イソフラボン」、脳の集中力を高め認知症予防にも効果があると期待される「レシチン」、また、コレステロールを除去し、動脈硬化の原因となる過酸化脂質の生成を抑えるといわれる「大豆サポニン」などを含んでいます。他にも、血流を促進して血行をよくする「ビタミンE」、皮膚や骨格の発育を助ける「亜鉛」、おまけに栄養ドリンクによく入っている「アスパラギン酸」まで含んでいるのです。まるでプロテインをベースにミネラルやビタミン類をバランスよく配合したマルチサプリメントのよう。子どもの成長期の栄養補給、生活習慣病や更年期障害の予防、妊婦に必要な栄養補給、認知症の予防など、小さな子から高齢者まで、男女を問わず幅広く、美容と健康に役立つ食品なのです。

高野豆腐の起源

高野豆腐の起源には諸説あって、呼び名も「高野豆腐」「凍り豆腐(こおりどうふ)」「凍み豆腐(しみどうふ)」といろいろです。学研ムック「だから、高野豆腐を食卓に。」という本によると、「700年あまり昔の鎌倉時代、紀州(和歌山県)・高野山に覚海尊者と呼ばれる高僧」がいたそうで、「ある冬の寒い夜、供物にした豆腐が翌朝には凍って飴色に変わっており、その凍った豆腐を食べてみたところ、生の豆腐とは違う舌触りで得も言われぬおいしさだったそう。それ以後、たびたび豆腐を凍らせて食べるようになった」ということ。その後、高野山の木食応其上人(もくじきおうごしょうにん)という僧が改良を加え、今日の高野豆腐の基礎を築いたそうです。
別の説としてあるのは、信州や東北地方に昔から伝わる「凍み豆腐」が起源というもの。冬場の食材として鎌倉時代からつくられていた「一夜凍り」が、室町から安土桃山時代にかけて、つくって吊しておくうちに自然に乾燥されることが発見され、保存食や兵糧食になったとか。戦国時代の武将、武田信玄が戦に出るときに兵士に持たせたという逸話もあるそうです。
高野豆腐が今のような形になったのは明治になって、凍結の工程を機械化する人工冷凍法が考案されてから。それまで厳冬の山間地でしかつくれなかったものが、一年中、品質の安定したものができるようになり、全国に広がって生産・消費されるようになったそうです。

高野豆腐は製造の工程でたくさんの水を使って洗うため、糖質の大部分が抜け落ち、ダイエットにいいと聞きます。また、一度凍らせてから乾燥させるという工程が、含有成分をギュッと凝縮。まさにサプリメント並みの栄養価を誇るパワーフードに変身します。
しかし、昔ながらの乾物なので「調理の仕方がわからない」「きしむような歯触りが苦手」とおっしゃる方も多いよう。そんな方には「粉豆腐」がおすすめです。これは高野豆腐を特殊加工で粉末にしたもので、長寿県長野で古くから食べられ、テレビ番組で何度も取り上げられたことのある健康食材。和食だけでなく洋食や中華など、いろんな料理に気軽に混ぜて使えるので、子どもでも食べやすく、活用の幅がぐんと広がります。

古くて新しい日本のスーパー食品「高野豆腐」。あなたはどんなふうに食べていますか。「私なりの食べ方がある」という方は、ぜひ、ご意見をお寄せください。

※文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会が調査して公表している日常的な食品の成分に関するデータ
※参考資料:「だから、高野豆腐を食卓に。/FYTTE編集部」(GAKKEN MOOK)

2016年9月16日(金)、小冊子くらし中心no.16が装いも新たに発行されます。テーマは「乾物新発見」。現代の乾物事情にさまざまな角度から光を当てた一冊です。全国の無印良品の店頭で無料配布すると同時に、「くらしの良品研究所」のサイト小冊子「くらし中心」からも9月16日(金)よりダウンロードできますので、ぜひご覧ください。

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