各国・各地で「千葉・鴨川 ─里山という「いのちの彫刻」─」
棚田の村へ入ると、まるで時計の針を戻していくように過去へとタイムトラベルしていきます。しかし、ここでの暮らしから見えるのは、過去を突き抜けた「未来の風景」です。

恩送り

2018年10月17日

9月は稲刈り三昧でした。
最初は9月1日(土)の「釜沼北棚田オーナー」の稲刈りから始まり、続いて「無印良品 鴨川里山トラスト」有機米の会、(株)良品計画さんの新入社員研修、「無印良品 鴨川里山トラスト」自然酒の会、千葉大学国際教養学部の「千葉大天水棚田」、と僕は毎週多くの人たちと稲刈りを行いました。

この夏は日照りだったので田んぼは乾き、今年の稲刈りは楽そうだと思っていたら、大間違いでした。9月に入るとゲリラ豪雨や秋の長雨が続き、棚田には山からの絞り水が流れ続け、いくつかの棚田は田植えが出来そうなほどぬかるんでしまいました。
給水と排水の整備がされた平野の田んぼと違い、山間部の棚田は一筋縄ではいかず、去年に引き続き、雨に苦戦しています。

虹からのメッセージ

9月8日土曜日は「無印良品 鴨川里山トラスト」有機米の会の稲刈りを行いました。
今回の参加者は、ほとんどビギナーの小さな子供連れの親子だったので、子供たちに稲刈りを丁寧に教えているととても時間がかかってしまい、半分くらいの稲刈りが残ってしまいました。

参加者の方が帰った後も稲刈りを続けていると雨が降り出し、とうとうかなりの棚田が残ってしまいました。
稲刈りの終わらなかった棚田を見て途方にくれていると、里山の向こうに大きな虹が現れました。

"どんなことがあっても大丈夫だよ、だからあきらめずにガンバレ、きっとうまくいくさ、今は大変に思えることも、後になれば素敵なことになっているものさ、人生とは相対的な現象で、すべてはあなたの心が決めているんだ"

虹は、そう優しく語りかけてくれたようでした。
自然界は常に語りかけていると、僕は思っています。
朝露に濡れた葉っぱの光、雨に煙る淡い森、空にかかる虹の橋・・・四季折々の移ろいゆく日々の風景には、詩があり、絵があり、調べがあり、大切なメッセージがあります。
それは芸術の源泉となり、人生の指針となり、命の潤いとなります。

人の優しさ

翌日の9日日曜日は「釜沼北棚田オーナー」の脱穀でした。
早朝に雨が降ってしまったので、脱穀したお米の水分が高く、長老の五一さんの家の乾燥機にお米を入れて乾かしてもらいました。
最近のゲリラ豪雨に泣かされ、「農」は中々思うようにはいきません。

なんと、ありがたいことにその後は「無印良品 鴨川里山トラスト」有機米の会の残ってしまった稲刈りを棚田オーナーの有志、80歳になる集落のおばあさん「しろうべえ」さん、赤ちゃんをおぶった若いお母さん、そして友人たちが夕方まで手伝ってくれ、無事にハザ掛けまで終えることができました。
みんなも疲れているはずなのに!
僕は多くの人に支えられて生かされていることを思い知り、人の優しさに心が熱くなりました。

翌週末の9月15日土曜日は、「自然酒の会」の稲刈りでした。
今回の参加者は少なく、また長雨の影響で棚田がぬかるんで足場が悪く、さらに小雨が降る中での稲刈りとなり、みんな悪戦苦闘しました。

会員の皆さんは車で来ていたので、帰りの時間を気にせず夕方までがんばってくれましたが、稲刈りは「有機米の会」同様半分くらい残ってしまいました。
またしても刈り残した棚田を見て、さすがに挫けそうになりました。
でも、先週の"虹からのメッセージ"を思い出し、僕は深く呼吸しました。
そして「きっと大丈夫」って、自分に言い聞かせました。

生かし生かされ

次の日から、僕は他の仕事の合間に残りの稲刈りを一人でコツコツとやっていると、田んぼの横を軽トラで通りがかった友人のたけちゃんが声をかけてくれました。
「良樹さん~、一人で稲刈りやっているの?大変ですね。僕も手伝いますよ。」
「ええっ! 身体は大丈夫なの? でも、どうして?」と、僕は驚きました。
「僕が入院中、みんなに助けてもらったから、今度は僕がみんなの手助けをするんです。」
そう言って、たけちゃんは翌日から棚田に来てくれ、まだリハビリ中にもかかわらず、小雨の降る中、雨ガッパを来てドロンコになりながら稲刈りを手伝ってくれました。
僕はただただ「ありがとう」としか言えませんでした。

実はたけちゃんは昨年大病を患い、今年入院生活から退院したばかりなのです。
たけちゃんが入院した時、僕らは友人たちと「地域通貨あわマネー」の会員にカンパを呼びかけました。この時は「地域通貨」ではなく、法定通貨の「円」で。
するとカンパは続々と集まり、驚くほどの金額となりました。この時は、みんなで安房のコミュニティの素晴らしさに感動しました。
だから、たけちゃんは今、みんなに恩返しをしているのだそうです。
その見返りを求めない恩は、巡り巡ってみんなに回り続け、終わりのない「恩送り」が地域に循環していきます。
僕らは「恩送り」で、生かし生かされ、助け合いながら里山で暮らしています。
人は死ぬ時には、何も持って行くことは出来ません。
どんな富も、名声も、家も、車も。
人は最期の時、人生を走馬灯のように振り返ると言います。
その時に、見えるシーンはきっと今年の稲刈りのような風景ではないかと思うのです。

Photo by Yoshiki Hayashi

イベント情報

「鴨川里山トラスト」の2018年度スケジュール
有機米の会

2018年5月19日(土)第1回「田植え」
2018年6月9日(土)第2回「田の草取りとごはん茶碗づくり」
2018年7月7日(土)第3回「田の草取りとすがい縄づくり」
2018年9月8日(土)第4回「稲刈り」
2018年10月13日(土)第5回「収穫祭」
2018年12月22日(土)第6回「注連縄づくりとみかん狩り」

手づくり味噌・醤油の会

(年会費(3,000円):味噌1kg、麦醤油500ml、米醤油500ml)

2018年7月21日(土)第1回「大豆種まき」
2018年8月18日(土)第2回「大豆畑の草刈り」
2018年12月1日(土)第3回「大豆収穫」
2019年1月19日(土)第4回「大豆脱穀・選別」
2019年2月16日(土)第5回「味噌仕込み」
2019年3月16日(土)第6回「醤油しぼり

自然酒の会

(年会費(10,000円):720ml×4本)

2018年5月26日(土)第1回「田植え」
2018年6月16日(土)第2回「田の草取りとすがい縄づくり」
2018年7月14日(土)第3回「田の草取りとぐい呑みづくり」
2018年9月15日(土)第4回「稲刈り」
2018年11月17日(土)第5回「収穫祭」
2019年1月26日(土)第6回「寺田本家蔵見学」

※天候不良などによる予備日はすべてありません。

  • プロフィール 林良樹
    千葉・鴨川の里山に暮らし、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っています。
    NPO法人うず 理事長
    T&T研究所 研究員

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