各国・各地で「千葉・鴨川 ─里山という「いのちの彫刻」─」
棚田の村へ入ると、まるで時計の針を戻していくように過去へとタイムトラベルしていきます。しかし、ここでの暮らしから見えるのは、過去を突き抜けた「未来の風景」です。

移行期 ~「手づくり味噌・醤油の会」醤油しぼり~

2018年04月11日

3月17日日曜日は、無印良品 鴨川里山トラスト「手づくり味噌・醤油の会」の醤油しぼりを行いました。丁度、去年の今頃仕込み、1年間熟成させてきたもろみをいよいよしぼります。
通常、醤油は大豆と小麦で麹をつくり、大豆と米では麹をつくりませんが、この会では麦麹と米麹の2種類の醤油をしぼり、コクのある麦醤油とさわやかな米醤油を楽しんでもらっています。

発酵のコミュニティ

鴨川を中心に南房総全域に広がる「安房手づくり醤油の会」という醤油の自給グループがあり、ここでは色々な醤油が試みられています。
その会は小さく仲間内から始まりましたが、今では100家族以上が醤油の自給をしているほど広がり、日本でも珍しい「発酵のコミュニティ」となっています。

当日は味噌仕込みと同じように、朝から大鍋でお湯を沸かしておきます。
まず、最初は麦醤油から搾ります。
1年間熟成させたもろみ樽に少しずつお湯を入れ、ササラでゆっくりとかき回します。

そのもろみを大きなひしゃくに半分くらいすくって搾り袋に2杯入れ、「安房手づくり醤油の会」が出資して家具職人に特注で製作してもらった醤油船の中へ置いていきます。
会員のみなさんにも順番に、1枚1枚丁寧にもろみを搾り袋へ入れてもらいました。

お金では買えないモノ

すると醤油船の小さな口から、1年間面倒を見てきたもろみが醤油となって、チョロチョロと一番搾りの生醤油が流れはじめて来ました。
「わぁ~!」
と歓声があがり、子供たちが集まり、指につけてペロペロと舐めます。
この瞬間は、いつも感動します。

今どきは、お金を出せば醤油はどこでも安価で買うことができますが、この体験はお金では買えません。
世界がグローバルになればなるほど、「小さな農」や「小さな自給」とは、安心であり、楽しみであり、"生きる力を取り戻すライフスタイル"でもあると思っています。
それは、311が教えてくれた現代文明へ対する教訓です。

一樽分のもろみを搾り袋へ入れ終わると、15tのジャッキでゆっくりと圧力をかけていきます。
今日のお昼ごはん用とおみやげ用に火入れしていない生醤油を少々瓶詰めして、残りは殺菌と香り出しのために火入れをします。そして、アクを取りながら80度で約20分熱し、ボウメ計で塩分を16~18度に調整をして出来上がりです。

完成した醤油はこのまま冷まし、オリを沈殿させてから、約1週間後にボトル詰めして「手づくり味噌・醤油の会」会員のみなさんへ送ります。

最高の贅沢

一樽搾り終えると、待ちに待った昼食です。
里山料理人「こころ」の木村夫妻が季節の野菜をサックサックに揚げてくれた天ぷらと、僕が育てた釜沼産有機小麦でつくった有機うどんをしぼりたての生醤油で食べる昼食は絶品でした。
食材も調味料もすべてここの土地で手づくりされた里山ランチは、最高の贅沢です。

午後からは、搾り袋からもろみのしぼりカスをだして、今度は米醤油を搾りました。
芝山麹店の麹王子こと及川くんが、醤油ができるまでの発酵の流れをスケッチブックに書きながらみんなに説明してくれ、古民家ゆうぎつかの庭は青空発酵教室となりました。

そして、米醤油搾りと並行して、来年の麦と米の2種類のもろみも仕込みます。
まず、大きな樽へ水33Lと塩12kgを入れ良く混ぜ合わせ、及川くんが仕込んで来てくれた麦と米の麹をそれぞれの樽へ入れ、またさらにかき回します。

再び、このもろみを1年間熟成させ、また来年の今頃醤油を搾ります。

鴨川里山トラストの活動はこの醤油しぼりで、今年度は最終回となりました。
年間を通して日本食の基本である米、味噌、醤油、自然酒を都会に暮らす人たちと参加型でつくりながら里山全体を保全する活動も、2014年からはじめて4年目となりました。

こうやって都会から里山へ通ってくれる人たちがいるからこそ、高齢化が年々進むこの過疎の地域に活気が生まれ、農地も守られ、それは本当にありがたいことです。
現代文明は、こうした自然と共にある暮らしの営みが消えようとしていますが、今は文明の「移行期」なのだと思います。

僕らは、もう昔の暮らしに戻ることは出来ませんが、「人と自然とのつながり」を失うことなく、今ある文明もすべて否定することなくバランスよく取り入れ、人と自然が共生する次の文明へ移行していきたいと思っています。
5月から、再び今年も「無印良品 鴨川里山トラスト」の活動が始まります。
みなさまのお越しを心よりお待ちしております。

Photo by Yoshiki Hayashi

  • プロフィール 林良樹
    千葉・鴨川の里山に暮らし、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っています。
    NPO法人うず 理事長
    T&T研究所 研究員

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