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ちいさなゴマのおおきな挑戦

2013年10月30日

100年後の地球を想像したことがありますか?

空飛ぶ車が林立する摩天楼を縫うように行き交い、
月面旅行が新婚旅行の定番かもしれません。
スポーツ科学の発展が人類初の100m走8秒台を実現し、
また、不治の病という言葉は遠い昔の言葉になっているのかもしれません。

生々発展する僕達の暮らしは、"より良い暮らし"を標榜とし、
希望に満ちて溢れているかのようです。
しかし、光あたるところに影があるように、
未来は決して希望だけでは語れません。
人口爆発による食糧危機や、昨今のニュースを賑わせるエネルギー資源問題、
暮らしの質の向上の裏で地球を蝕む環境汚染…。

それらは"より良い暮らし"と対になり、いくつもの課題として存在します。
そんな負の側面を、無視できない局面に立ちつつあることは、
皆さんも気づいていることでしょう。
僕たちはこれまでの地球を消費していく消費者としての立場から、
生活者、地球人として立場を転換していかなければならないのかもしれません。

そんな地球人としての発想で未来を見つめ、行動をする企業と人に
アフリカのウガンダで出会いました。

株式会社坂ノ途中は京都を拠点に、
化学肥料や農薬に頼らない有機野菜を作る農家と僕達の食卓を繋ぐ会社です。
化学肥料や農薬は短期的に見れば収穫量の増大や労力の減少をもたらしますが、
実のところそれは将来得られるはずの収穫を代償とし、
地球に無理をさせているに過ぎません。

坂ノ途中では、「未来からの前借り、やめましょう」を社是に掲げ、
有機野菜の持つ可能性をつぶさに追求し、
土作りから始める有機農業を通じ、
環境負荷の少ない持続可能な農業の普及を目指しています。
そして国内はもとより、世界中を巻き込んだインパクトをあたえるために
2012年の試験栽培を経て、ウガンダでのゴマの栽培に着手しました。

なぜウガンダでゴマなのでしょう。
これにはこの国の農業を取り巻く環境と気候変動が大きく関わっています。

「ウガンダのみならずアフリカでは今まさに農薬や化学肥料が
大量に使われようとしている段階にあります。
農薬を使うことは瞬間的には安定した収穫が見込めますが、
それを使い続けることは土地の力を痩せさせ、水を汚し、
長期的な視点で見てみると決して持続可能な農業とは言えないんです」
と坂ノ途中でこのゴマプロジェクトを務める宮下芙美子さんは言います。

また、ウガンダではこの十数年、
経験したことのない未曾有の気候変動に見舞われていて、
降水量が減り、干ばつが続き、農作物の収穫にも異変が起きているそう。
農業国であるウガンダにおいて収穫量の減少は
そのまま暮らしの質や経済力の低下につながり、
環境面においても、乾いた土地で化学肥料や農薬を使うことは
必要以上に土地にダメージを与え、
やがてその土地で農業を営むことが困難になる可能性すらあると危惧します。

そこで乾燥に強く、栽培期間が比較的短く育てやすいゴマに着目し、
環境負荷の少ない手法で作ることで、
何世代にも渡って使える土地を維持しつつ、
農家の経済的自立を目的とするプロジェクトを立ち上げました。

「何も環境負荷の大きい農業を営むアフリカの人々だけが
悪いのではありません。
地域社会の中でしか販路を持たない彼らにとっての世界とは
その村社会だけです。
そこにトラックに乗った商人が外からやってきて、
いくらにもならないお金で農作物を買い叩く。
そして"これを使うと簡単だから"と農薬や化学肥料を与えていく。
一度農薬や化学肥料に染められた土地は、
土そのものが持つ力も徐々に弱くなってしまい、
より一層の農薬を必要とする薬漬けの土地になってしまいます。
けれど、それらの持つ悪影響を知らない彼らは、
"よし、収穫が楽になるなら言われた通りにしよう"
という悪循環に陥っています。」

そうした不平等を宮下さんは
「無視することはできなかった」と言います。
そんなウガンダの状況は"想像力が奪われた"状態とも言えるでしょう。
そして僕達もまた、グローバリズムの大義を掲げて、
見知らぬ土地を汚し続けてきた現状に気づかなくてはなりません。

アフリカで有機農業を。

言葉にすることは簡単ですが、
実際に実践するとなると大変な労力が強いられます。
そもそも有機農業という言葉すら存在しなかったのですから、
まずはそれを教えることから始まります。

「なかなか分かってもらうのが大変なんです。
農薬や化学肥料を使ったほうが手間もかからないし、楽だから。
なんでわざわざ手間暇かけるの?って。」

ある農家が手間暇をかけて無農薬に挑戦しようとしたにも関わらず
すぐ隣の畑から農薬が飛んできてしまったり、
サンダルやビニールが有機肥料になると噂で聞いた農家では、
それらが畑に撒かれてしまっていたこともあったのだそう。
冗談のような話ですが、ウガンダの農業の現状として
このような状況がスタートラインなのです。

普段は穏やかな宮下さんも
農家の方に指導するときは厳しい口調が続きます。
けれど宮下さんの口から彼らに正解は教えません。
どんなに時間をかけても、彼らの頭で考え、答えを出すことを求めます。
それはきちんと有機農業を理解してもらえないと、
また化学肥料に頼った農業に戻ってしまうから。
何度も何度も、そして一人ひとりの農家と向き合って
彼らに自発的な思考を持たせようとする宮下さんの姿が印象的でした。

これまでの「言われた通りに、なすがまま」では
ウガンダの農家の不均衡は何も変わりません。
そして徐々に土地は痩せ細っていく一方です。
彼らにも、地球の未来を案ずるための想像力を
持ってもらわなければならないのです。
支援や援助といった類の思いではなく、
ウガンダを、この地球を守っていくための対等なパートナーとして。
そんな思いを持って宮下さんは彼らに接しています。

このゴマプロジェクトで生産されたゴマは、来春、日本に輸入し、
ゴマ油などに製品加工されて日本の市場に並ぶ予定です。
だからこそ僕たちも地球人として、
"なぜこの価格で、どんな背景を持った"商品なのかを
きちんと受け止め、購買活動をしていかなければなりません。

また、坂ノ途中では今後、現地法人を立ち上げ、
農作物の輸出のみならず他の有機野菜の指導や国内流通の仕組みを整え、
環境負荷の少ない農業の普及活動をウガンダで広げていく計画なのだそう。

「農業は暮らしと地球の接点です」、
という宮下さんと坂ノ途中の思いは
地球の誰もが必ず関わる食という分野だからこそ、
皆で実践出来る行動です。

「わたしたちは、有機農業を語るときに
『安心・安全』を前面に打ち出すことをしていません。
『自分にとってよいもの』を真っ先に考えるのではなくて、
環境や地球にとって負担にならない農業をすれば、
それはめぐりめぐって、
結果的に自分やそのまわりの人にとってもよいものになる…
そんなふうに考えて、そう提案し続けてきたら、
少しずつお客さまが共感してくださっている実感があります」
と宮下さんは手応えを口にします。

そういえば坂ノ途中にはもう一つ大事な言葉があります。
それは
「100年先もつづく、農業を」。

そのために100年後の地球を"真剣に"想像し、
できる事に本気で取り組む。
刹那的な繁栄でなく、永劫続く暮らしの良循環こそが、
地球人にとっての"良い暮らし"だと言えます。

一粒一粒小さなゴマから始める大きな挑戦は芽吹いたばかりです。

  • プロフィール 元無印良品の店舗スタッフ

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