研究テーマ

自然の色

10月に入り、北国からは、そろそろ紅葉の便りが聞かれるようになりました。「芽吹きは樹木のてっぺんから始まり、紅葉は枝の先端の葉から始まる」とは、山で暮らす人の話。自然は季節に合わせてさまざまに色を変えますが、それは、その生命が「今、そこで生きる」ための色。神様からの贈りものなのかもしれません。

赤トンボが赤いのは

赤トンボといえば夕焼けのような真っ赤な色を思い浮かべますが、鮮やかな赤をしているのは、成熟したオスだけです。同じ赤トンボでも、メスや未成熟なオスは黄色っぽい赤。大人のオスだけが鮮やかな赤色を持つのは、縄張りを確保したり、メスにアピールしたりするのに有利だからといわれています。
最近の研究で、赤トンボの発色の仕組みは「酸化還元反応」によるものだと解明されました。そしてもう一つわかったことは、赤くなったトンボは細胞内が「抗酸化」状態になっているということ。オスが日なたに留まって縄張りをつくるときに、あの赤い色があることで、紫外線による酸化ストレスが軽減されているのではないかというのです。自然界の日焼け止めクリームは、外仕事の多いオスのほうに与えられているのかもしれません。

紅葉は冬じたくの色

咲き誇る花を楽しむのがお花見なら、散りゆく前の葉の色を楽しむのが「もみじ狩り」。紅葉前線を追いかけたいほど、この季節の木々の彩りは、私たちの目と心を楽しませてくれます。リクツ抜きに美しい紅葉ですが、それは実は、植物が冬を迎えるための準備段階で発する色でした。
秋になると、落葉樹は葉を落とすための準備を始めます。葉柄の付け根に、コルク質の「離層」という組織をつくるのです。この離層のところで物質の行き来が妨げられるため、葉の中の物質は茎に移動できなくなるのだとか。その結果、光合成で生産された糖は葉に留まることになり、この糖から赤い色素のアントシアニンができて葉が赤くなるという仕組みです。紅葉した葉は、やがて離層のところで切り離されて落葉し、冬を迎えるための準備が完了します。

白いアルパカ

こうした自然の仕組みを知ると、自然の色の背景には、造物主の深い計らいが隠されているような気もしてきます。しかし一方では、そんな「自然の色」に異変が起きていると聞きました。ペルーのアルパカの話です。
アルパカはラクダの一種で、長い繊維をもつ暖かい毛が珍重され、衣料品や毛布などに使われてきました。紀元前5000年からアンデス山脈に生息し、現在も全世界の90%にあたるアルパカがペルーで放牧されています。しかし、その生態系が崩れかけているというのです。
7年前まで、ペルーのアルパカの大半は茶や黒、グレーなどの有色アルパカで、白い色のアルパカは少数派でした。ところが現在は、ほとんどが白色アルパカとなり、有色種はわずかになってしまったといわれます。なぜ、こんなことが起きたのでしょう? 生態系のこの急激な変化に関わっていたのは、人間でした。
アルパカのよさを多くの人が知るにつれて素材としてのニーズが高まり、業者が染色しやすい白色アルパカだけを仕入れるようになったのです。話はそれだけにとどまりませんでした。売れない有色アルパカが白色アルパカと交配するのを避けるため、意識的に有色のアルパカを屠殺し、食肉にしてしまったというのです。その結果、わずか7年の間に自然の生態系は崩れてしまいました。

白いアルパカと有色のアルパカ、その価値に差をつけたのは人間です。自然界の存在に優劣はありません。自然が持つそれぞれの色にも、「なぜ、その色をしているのか」という理由があるのではないでしょうか。その理由を今の科学で解明できないからといって、「その色に意味がない」と言い切るのは少し傲慢な気もします。もしかしたらそれは、「現時点での」人間の頭脳でわからないだけなのかもしれません。
みなさんは、「自然の色」について、どう思われますか?

研究テーマ
衣服