研究テーマ

「洗い張り」を知っていますか?

昔、といっても昭和30年頃の話です。まだ多くの人が、生活着としても晴れ着としても着物を着ていた時代。それぞれの家庭では「洗い張り」という方法で着物を洗っていました。着物をいったんほどいて水洗いした後、針の付いた竹ひごや張り板にピンと張り、糊付けしてシワを伸ばしながら乾かしていく方法です。

着る頻度にもよりますが、洗い張りの回数は、1年から3年に一度くらい。汚れた着物や傷んだ着物をほどき、洗い張りをして仕立て直すのは、一家の主婦の大切な役目だったといいます。絹物は、水洗いするたびに生き返り、元のハリと光沢を取り戻し、染めた色も鮮やかに戻ってくる素材です。洗い張りをすれば、柄によっては生地の前後左右を入れ替えたり、紬などは裏表を逆にすることもできるといいます。着物は高価なものですが、こうして何度も息を吹き返しながら、丁寧に使われていました。
こうした使い方をする中で、ものへの想いと同時に、それを着る人への想いも込められていったことでしょう。寒さから身を守れるように、温かく過ごせるように、心地よく着られるようにと、さまざまな想いが込められて出来上がっていきます。一方、それを着る家族は、新品のようによみがえった着物に手を通すとき、洗い張りをして仕立て直してくれた人の想いを感じとったことでしょう。
傷んだ着物も、捨てることなく、最後まで生かして使いきりました。きれいな部分だけをつなぎ合わせて使ったり、子供の着物や座布団にしたり、最後の最後は、布を裂いてハタキにしたり。木綿の古布は、糸を幾重にも刺して補強し、丈夫で温かい仕事着になりました。これが、いまでは美しい伝統工芸として知られる「刺し子」です。さらに、くたくたになるほど使い古したやわらかな布は、赤ちゃんの素肌にやさしいおむつにもなりました。

大事に使われたのは、着物だけではありません。靴下のかかとや上着の肘、ズボンの膝など、傷んだりほころびたりした部分をていねいに繕って着るのは、ごくあたりまえのことでした。

こうした日本人の暮らし方を振り返ってみるとき、ファストファッションと呼ばれる現代の衣服について、考えさせられます。安く簡単に手に入れ、ちょっと古びてきたら、飽きたら、捨てる。こんなものの持ち方を、どうとらえればよいのでしょう。たった40年の間に、ものに対する私たちの態度はこうも変わってしまったのかと思います。「あの当時は、ものがなかったから」と片付けるだけでよいのでしょうか。 ファストファッションはものの価値をなくしていっただけでなく、ものを「持ち続ける」という人々の想いも変えてしまったような気がします。
最近は丁寧な暮らしをする人も増えてきているようですが、それがもっともむずかしいのは、「衣食住」の中で衣服かもしれません。

みなさんは、現代の衣服の持ち方について、どんなふうに思われますか?
ご意見・ご感想をお聞かせください。

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