研究テーマ

ATELIER MUJIトークイベント「天然染 "未来に向けた羅針盤づくり"・・・IKTTの活動と無印良品との取組み」(2/4)

2012年10月24日

このレポートは、2012年9月22日、23日にATELIER MUJIで行われたATELIER MUJIトークイベント「天然染 "未来に向けた羅針盤づくり"・・・IKTTの活動と無印良品との取組み」を採録しています。

そして、そちらは中国の南の海南島の市場から届いた椰子の殻です。椰子の実を集めてきて中からココナツジュースやココナツミルクを採りますね。その外側はこうやって剥いで、普通は市場の横に山のように積んであって、しばらくすると町の清掃車ですか、回収に来る人たちがトラックに乗せていく。それでもう、それはゴミになってしまう。

そして、無印の方たちが取り組んでおられるファニチャー(家具)づくり。青島(チンタオ)の近くの家具工場を訪ねさせていただきましたが、家具を作る工程で製材機からおがくずや木っ端が出る。それは燃料になったりすることもあるのだけれども、ほとんどは廃棄される。普通だったらゴミになっていくような、そういうものからもう一度、色を取り出していく作業をしています。

地球上で生産されているものの半分は、実はゴミになっているとよく言われる。だから、そういうものからもう一度、価値を取り戻す。私は、ゴミを宝の山に変えていく、と言っています。普通だったら廃棄されていくようなものから、もう一度、価値を生み出すわけです。例えば街路樹がある。秋、道路に落ち葉がいっぱい落ちてそのままだったら、みんなゴミだと思っています。ところが、その葉っぱから本当にきれいな色が染まったら、それはゴミではありません。それは宝の山です。基本的にはそれと同じですね。普通はもう価値がないと思っていたもの、廃棄されるであろう運命にあるものが、実はとんでもない価値がある。そういうものを取り戻していくことで、普通はそれで捨てられてしまった、失っていくようなエネルギーがもう1回再生されていく。これは非常に大切なことだと思います。
自然の染料というのは、人間にとってプラスのエネルギーになるんですね、
化学染料で染めた場合はその廃液に、例えば化学成分があったり、重金属系のカドミウムとかクロムとかが化学染料の中には含まれていることがあります。だから、排水の浄化とかいうことが問題になります。また、それが蓄積されることで、環境汚染という問題ももちろんあわせ持っています。化学染料に対しては、見直していくという動きが、もうここ10年、20年、非常に強くあります。もう最近なくなりましたけれども、化学染料の中でも蛍光染料、蛍光塗料ですね。あれも完全に体によくない、もうストレートによくない、マイナスの染料だと思います。それ以外にも、化学染料が持っているマイナスのエネルギーと言いますか、体に決してプラスにならないものが含まれている場合があります。
一方、自然の染料となる素材には、実は伝統的な民間医薬として使われているような素材がたくさんあります。私も30年前にタイで、もう一度、自然染料による染色を再生していきたいと思って取り組み始めたときに、当時はまだそういう資料とかはございませんでした。タイ語の植物の名前、それから学名、日本名、英語名、それを調べるために、当時、30年ほど前になりますか、タイではそれを調べるための植物図鑑も整備されていないころでしたが、でも伝統医療の研究書というのは結構出回っていまして、そういうものの中から素材を探すということをやりました。実は7割、8割の染料植物というのは伝統医薬の中にあるのです。ということは逆に言えば、自然染料の素材というのは、そのまま体にいいということです。

その端的な例が、皆さんご存じの蘇芳(スオウ)です。赤い色が染まるスオウの木、あれは薬だったんですね。昔はお寺のお坊さんが、村の人にその木を煮出して飲ませていた。今でもバンコックなんかのチャイナタウンに行くと、薄くスライスして乾燥したスオウの木が漢方薬の店で売られています。値段も結構高くなってきております。あれは非常に抗菌性の強い成分を持っていて、最近でもカビが生えない靴下とか、いわゆる抗菌性のある性質というのはスオウの木とかの成分からとっているのじゃないかと私は思ったりします。例えば染めに使った場合も、普通だったら2~3日置くと、気温も高いですから腐敗していきます。ところが、スオウの場合は一月置いても全然変化しない。そのぐらい抗菌性が強い。
自然の染料の材料というのは、薬になるものが非常に多いです。ということは、自然の染料で染めた布は体にいいということをストレートに意味していると思います。だから私は、それはプラスエネルギーといいますか、それをまとう、使うことが人間にとって健康にもいいと言えると思います。
今回、テスト的に出させていただいた天然染のタオル、もう完売したと聞いておりますけれども、これから本格的に店頭で販売していけるようになって、皆さんに使っていただきたいなと思っております。本当に体にいい、そういう自然の染料が持っているぬくもりといいますか、それを感じていただきたい。化学染料と自然の染料の大きな違いというのは、例えば赤い色というのは化学染料の場合は単純に赤ですね。ところが、自然の染料の赤はいろいろな色がまざった上で見えてくる赤なんです。色に深みがあります。これは並べてみると本当にはっきりわかります。

皆さんも見ていただくとわかりますが、手前は普通だったら捨てられてしまうようなバラから煮出した色。そして向こうは椰子の実です。椰子の実であんなにきれいな赤みのあるベージュが染まります。自然のこういうものからこういう優しい色合いの色が生まれ、それをふだん使いで皆さんに使っていただけるということは、僕はすごいうれしいと思うし、これからタオルだけじゃなくて寝装とか衣料品とか。私は、本当にクォリティーの高い自然の染料で、少々洗っても落ちないような、たとえばTシャツ、それを普通の値段で出していってほしい。実は私は今回も無印の方たちに、絶対値段を高くしないでほしいとお願いしました。ふだんみんながそういうものが買える、使える、そういう環境をつくりだすこと、私はそれも新しい伝統だと理解しています。
私はカンボジアの伝統織物をやっております。例えば、1枚の布をつくるのに1年かけている。もちろん、その結果として値段も数万円のものもあります。場合によったらそれでも安いかなと私は思ったりしているぐらい、本当に根を詰めてつくっている。それは言ってみれば1つのアートの世界、工芸の世界ですね。私は、見たらゾクッとするものが美しいものだと考えております。そういう工芸の世界の中で、ゾクッとするような美しさを感じるようなものを私はやっぱりつくりたい。それがカンボジアの古い伝統の中にありましたから、それをもう1回再生したいという思いが私の中にずっとありまして、それは今も、もちろんあります。そして、そういうものを今、カンボジアの織り手たちと一緒につくっております。それはアートといいますか、工芸の世界であると思います。
今回、私が無印の方たちと一緒にやり始めているこれは、もう一つのアート。日常の生活の中で、ふだん使いできるもう一つのアートの世界だと私は理解しております。例えば衣料品だったり、日常の寝具だったり、そういうものを実際に使っていく。私は、アートというのはもっと突き詰めれば、それはいわば愛じゃないかなと思っております。それがあることで喜びが感じられる、そういうものじゃないかなと思っております。だから、ふだんそういうものを普通に、ぬくもりのあるものを自分のそばに、身近に置いて使える環境、それが新しい伝統としてつくられていくようになる。これは今始まったばかりですけれども、だから先ほど言いました新しい常識、新しい伝統、それがトータルでいえば1つの新しい羅針盤の新しい方向を生み出していく、つくり出していくことだと思っております。