研究テーマ

被災地の産業復興に向けて ─第3回 Plant to Plant─

大震災の後、被災地への救援活動はさまざまな形で進められています。このコーナーでは、被災地復興に向けて真摯に取り組んでいる方たちに直接取材し、その思いと活動内容をご紹介していきます。

今回は南相馬の苗農家でゴーヤを育てる只野孝一さんと、その活動を支援するNPO法人、フロンティア南相馬の大宮篤史さんのところに伺ってきました。

この取り組みは、福島県南相馬の苗農家14件が集まって、震災直後の4月から始めたもので、発電所から植物への意味を込めて「Plant to Plant」と名付けられました。

只野さんは、プロの農家向けの苗を年間100万本も30年以上にわたって供給してきたという苗農家です。もともとバイタリティーのある人ですが、震災後に山形へ避難し、比較的ゆったり過ごすことができて、前向きな気持ちを保てたといいます。4月初旬、南相馬に戻ってきて壊滅的な状況を目のあたりにし、誰もがこの先に夢を持てない状況下で、「ゴーヤの苗を育てて売ろう」と周りの農家に声をかけました。原発から北へ30kmのところにある南相馬ですが、幸い、風向きや地形のおかげで放射能のレベルは低く、別の地域の子供達が避難のために集まっているほど。国からも、野菜などは栽培集荷に関して問題のない地域とされているそうです。しかし風評被害は、今後の生産の大きな障壁になっていました。その中で一筋の光を見つけた只野さんは、一日も早い復興と南相馬や今回の原発事故のことを全国のみなさんに知ってもらうために、この企画を考えたといいます。
4月に育てた苗を福島県の試験センターに持ち込み、放射線量の検査をしたところ、基準値以下。認定を受けて、現在は全国へこの苗を販売しています。
販売を受け持つのは、NPO法人の大宮さんを中心とした数名のボランティア。通常のキットだけでなく義援用のセットも販売していて、こちらは、購入者が費用を負担して仮設住宅に取り付けを行っていくというものです。

来年60歳になるという只野さん。東京から戻ってきた後継ぎの息子さんも結婚し、6月10日にはお孫さんも生まれたばかりです。ただ、生後間もないお孫さんが心配なので、息子さん家族はしばらくの間、秋田にいることに。息子さんは、その地のイタリアレストランでシェフの修行を始めました。
この取材の前日、只野さんご夫婦はお孫さんを抱くために秋田まで出かけてきたそうですが、保健所で放射能のスクリーニングを受け、その証明書をもって孫を抱いたとか。帰り際には「今度いつ会えるかね」と言って別れてきたといいます。戦時中でもないのに、「なんという現実か」と悔しさを押さえきれない様子でした。
母屋の後ろには、息子さん家族のための家も新築中で、完成まであと一歩。「いつかは息子達が戻ってきて、また一緒に農家をしながら農業レストランをしたい」と、明るく言われていたのが印象的でした。

また、そろそろ時期が心配なゴーヤですが、早めに摘心をして長持ちする苗を用意しているとのこと。十分な土の量で肥料をしっかりやって育てれば、9月まで葉が落ちないそうです。苗を植える時期も7月中旬までは問題ないそうで、「まだ間に合いますよ」とおっしゃっていました。

基本セットは、苗3本とプランター、土、肥料、ネットに、育て方マニュアルも付いて4200円(送料別)。
基本セットの他に、仮設住宅にお住まいの方へゴーヤを届けるという義援金の商品もあります。
苗のタグには、あえて南相馬を名乗って、とにかく全国の人に南相馬のことを伝えたいとおっしゃっていました。
この活動を応援してくださる方は、ぜひ、以下のホームページからご購入ください。

[関連サイト]
「Plant to Plant ─発電所(plant)の電気から、緑の苗(plant)へ─」
http://plant2plant.org/product.html

ゴーヤが終わる頃には、次のプラントとして、パンジーの苗を販売したいとか。彼らの復興への熱い思いは、まだまだ続きます。

次回は、この農家を応援するために立ち上がった26歳の若者、NPO法人フロンティアの大宮篤史さんの話をご紹介したいと思っています。

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