研究テーマ

フェアトレード コーヒー農園を訪ねて

原料の産地へ

夏も終わるころ、ブラジル最大のコーヒー生産地を訪ねました。なぜコーヒーの生産地なのかというと、この秋に新商品として登場した「フェアトレード ミルクチョコがけコーヒー豆」と「フェアトレード ホワイトチョコがけコーヒー豆」で使われているコーヒー豆の農園があるからです。場所は、サンパウロから車で3~4時間ほど離れた、ミナス・ジェライス州。その州の'COCARIVE(コカリベ)'という農協を訪問し、コーヒーの生産者のフェアトレードへの取り組みについて、そしてその実績や成果などを伺いました。この農協は2009年設立とまだ新しい組合ですが、すでに加盟している生産者は約700。そのうち43の生産者がフェアトレードに取り組んでいました。

世界一のコーヒー生産国

ブラジルがコーヒーの生産量が世界一位であることは有名です。日本の面積の約23倍もあるその広大な国土の中で、コーヒー豆の栽培総面積は約200万ヘクタール。約24万ものコーヒー農園のうち、約55%は100ヘクタール以下の規模の農園で生産されています。また、ブラジルに植えられているコーヒーのうち、約70%がアラビカ種で、残りがロブスター種です。ブラジルのコーヒー農園には、機械化された収穫が行える平地にある大規模農園から、全て人の手によって栽培と収穫をしている山岳地帯の小さな農園まで様々です。
コーヒー好きの方はご存知と思いますが、コーヒーは苗木から育て、その木に実がなるまでには2~3年ほどかかり、花が咲いた後に実が付き、7~8ヵ月かけてその実が赤や黄色に熟していきます。この赤や黄色に熟した実を'コーヒーチェリー'と呼び、この果実の種子がコーヒー豆となります。コーヒーは、1日の気温差(寒暖差)が大きいと良質なものができると言われていたり、年間でも比較的温暖な気候であることや豊富な雨量も必要のようです。そして、日照時間も重要なポイントで、直射日光を長時間浴びるのは良くないなど、良質なコーヒー豆の生育には自然での必要条件も比較的多いことに驚きます。つまり、寒暖差の少ない平地栽培された大きな農園のコーヒーの実は、一日中太陽の日差しをたくさん浴びますので、しっかりと甘みを蓄える前にすぐに熟してしまうそうです。甘くて熟度の高いコーヒーには気温の寒暖差が必要ですから、平地栽培でのコーヒーは、やや味が平坦になりがちのため、おもにブレンドコーヒーとして使いやすいと言われています。
一方で、山岳地帯で生産されているコーヒーは、畑の標高が高く、一日の寒暖の差もあり、山の斜面に植えられているのでおのずと日照時間も制限されます。その結果、コーヒーの実がより長く木についた状態で熟すため、甘みと熟度の高い、酸味の効いたコーヒーが獲れるそうです。その山岳地帯での生産地としてブラジルの中で今最も1番注目されている地域の1つに、なんと今回訪問したミナス・ジェライス州が含まれていました。ここは、山岳地帯であり、コーヒーも人の手による収穫が行われていますが、とくに品質に力を入れた農園が多いそうです。その証拠に、この地域で収穫されたコーヒーは、「CUP OF EXCELLENCE(カップ・オブ・エクセレンス)」という、その国で収穫されたコーヒー豆の中から『最高の中の最高のコーヒー』を決める品評会での入賞ロットの常連であり、他の地域の農園から出品をためらう程の高品質な豆を出し続けていることで裏づけされています。

小さな農園とフェアトレード

フェアトレードのコーヒー農園の多くは1つ1つの規模がとても小さく、約5~15ha(ヘクタール)しかありません。分かりやすく例えると、大規模農園は東京ドーム約40個分にもなるのに対し、フェアトレード農園はその40分の1程度です。このように、小農園といわれる1つの農園からではまとまった収穫量にならないため、どうしても買い叩かれてしまうことが多いそうです。そのため、多くの小農園は各自で収穫した豆を持ち寄り、1つに集めることで出荷量を上げ、ようやくフェアトレードのコーヒー豆として市場に出しています。
今回訪問したフェアトレード農園も起伏の激しい山岳地帯にあり、苗木から収穫までにかかる時間も長く、そして収穫自体も手作業という、とても手間とコストのかかる方法でコーヒー豆を生産していました。
今は表作による豊作でコーヒー相場が下がっている時期のため、コーヒー農家が一時的に減ってしまっていますが、それでもコーヒーを作りたいという強い意志と情熱のある農家は、目先の収入のために相場の上がっている通常のバナナ栽培に転作したりせず、フェアトレードのコーヒー栽培に取り組み続けました。その熱意と研究が力となり、豆の品質向上へ繋がっていました。その評判は周辺の農家にも伝わり、これからまたコーヒー農園を再開する農家も増えてくるはずだと、農協の人たちが期待を込めて話してくれました。
このように、小さな農園が農協を介して、ASCARIVE(アスカリーベ)というFLO(フェアトレード)生産者団体に加盟し、集結して取り組む方法を継続することで、フェアトレードに対する理解やその価値などが他の農家の人たちにも伝わり、それが徐々にフェアトレードの普及にも繋がっているとのことでした。

おいしいコーヒーのために

ブラジルでのコーヒー豆の収穫の最盛期は4~5月であり、今回訪問した時は収穫がほぼ終了している状態でした。その中でも、事前に収穫されていた'コーヒーチェリー'から、私達が普段飲んでいるコーヒー豆にローストする前のグリーンの豆(取り出した種子を乾燥させたもの)になるところまでを、ひととおり農園で見学しました。
訪問した農園では、フェアトレードで得たプレミアムを使い、収穫後に乾燥させた豆を保管する乾燥室のような建物を敷地内に建てていました。小さな農園ではフェアトレードで得たプレミアムは、フェアトレード生産者団体を通して使用法が決められ、その多くは少しでも生産性があがるようにと、あるいは少しでも品質があがるようにと機械や設備に投資されます。大規模農園のような大型の収穫マシンなどは費用がかかるため1つの農園では用意ができませんし、主に山岳地帯に木を植えているため、マシンでの作業に適していない農園であるということも理由の1つではありますが、いずれにせよ大きくて高価な設備には1つの農園では費用がかけられないため、きちんとした場所で保管するというあたり前のことすら難しい状況でした。
しかし、プレミアムを活用して設備に投資をしたことで、更にコーヒー豆の品質を上げる作業を安定して行えるようになったそうです。当然、品質が上がれば市場での需要と価格も上がり、それを維持し続けることができれば、安定した収入にも繋がります。フェアトレードでの取り組みによって得た施設や機械は、単にコーヒー豆の生産効率を上げるだけでなく、味や品質向上への研究や開発にもいかされ、またその成果は生産者の自信とやる気にも繋がっていました。ちなみに、無印良品のコーヒー豆を生産してくださっているこの農園の豆は、2011年度の「CUP OF EXCELLENCE(カップ・オブ・エクセレンス)」にて、国際審査員からナチュラル(※)と呼ばれる精製方法の部門で第1位に輝くという栄誉をうけています。

継続するということ

おいしいコーヒーを作りたいという強い想い、そして収穫や栽培には不便だとわかっていても、おいしいコーヒーのためにより高地の方で栽培をしようと、山の上の方へ、上の方へとコーヒー農園を広げる努力には本当に感心しました。コーヒー豆は寒暖の差によって甘みを蓄え、その甘みがコーヒーになったときの深みなどにつながるということを知り、それが小さな農園だとしても、より良いコーヒーを作ろうとする惜しまない努力と生産者のプライドは農園の広さは関係ありませんでした。生産量が少なくても、収穫した豆の出来栄えに自信を持ち、その成果と味の評価を嬉しそうに話す農園の人たちの笑顔が印象的でした。
また、フェアトレードという取組みが、農家の人たちにとって、毎日の暮らしの大きな支えのひとつになっているということを農園へ訪ねることで改めて実感し、フェアトレードという活動の重要な意味を身をもって学ぶことができました。そして、無印良品としてできることは、フェアトレード商品の取り扱い点数を上げることも重要ですが、つくった商品を長く、そして継続して取り扱うということも、遠くはなれた地から無印良品を支えてくれているこの農園の人たちの笑顔のためには、大切なことなのだと思いました。

(※)ナチュラル:コーヒーチェリーから種子を取り出す精製方法のひとつ。コーヒーチェリーが熟して黒くなってから収穫し、その後天日干しで乾燥させる。ウォッシュド製法で使われるような発酵槽などの設備が不要なため、ブラジルでは古くから伝わる製法。収穫したコーヒーチェリーを粗選別後にそのまま乾燥工程に入り、脱殻して生豆を取り出す。一方、一般的なのはウォッシュドと呼ばれる製法。コーヒーの実(コーヒーチェリー)の皮をむいた豆は果肉が付着しており、ヌメリがあるので、これを水に漬けて発酵させたあと、洗い流して乾燥させる方法。ナチュラル製法では、この発酵液を廃棄することが無いので、環境に優しいとも言われている。