研究テーマ

社会貢献を知ろう!「良品計画社員と学ぶ寄付先団体の活動」第16回

募金券 寄付先団体の皆さんの活動を、良品計画の社員との対談を通してお知らせします。第16回は、ホームレスの人たちが自立し、再び社会に復帰できるよう、多面的なサポート事業を行っているビッグイシュー基金さんにお話をおききしました。

ホームレスって誰のこと?

厚生労働省による2012年1月の調査で、日本のホームレス人口は9,576人。しかし、2008年のリーマンショックの影響で仕事を失った元派遣労働者などの中には、住居を失い、ホームレス状態になった20~30代の若い人が多く含まれていて、彼らはネットカフェや24時間営業の飲食店などで夜を過ごしているため、調査ではカウントされていない場合があります。日本の貧困問題の表れとしてのホームレス問題、実態は数字よりも深刻だと言われています。

プロフィール

NPO法人ビッグイシュー基金

NPO法人ビッグイシュー基金は、ホームレスの人たちが販売することで収入を得る英国発の雑誌、「ビッグイシュー日本版」を発行する、有限会社ビッグイシュー日本を母体に設立された非営利団体です。一度失敗してもやり直しのきく社会の形成にチャレンジし、ホームレスの人たちの再起をサポートする事業を行うとともに、「ホームレスを生み出さない社会」をつくるための取り組みを行っています。

ビッグイシュー基金について詳しくはこちら

  • 佐野未来さん

    ビッグイシュー日本
    東京事務所マネージャー
    NPO法人ビッグイシュー基金スタッフ

    翻訳や英語講師を経て、2003年「ビッグイシュー日本」の立ち上げに参加。2007年12月まで雑誌『ビッグイシュー日本版』副編集長、その後現職。2007年の「NPO法人ビッグイシュー基金」立ち上げ時よりボランティアで運営に参加。

  • 川名常海

    良品計画
    WEB事業部 コミュニティ担当課長

    1992年良品計画へ入社し、同年秋から企画室宣伝販促担当。2004年e-マーケティング担当を経て、2010年よりWEB事業部。ECサイト「無印良品ネットストア」を担当後、コミュニティ担当としてソーシャルメディアを活用したマーケティング活動などに従事。

  • 山下大介

    良品計画
    衣服雑貨部 海外商品担当課長

    2000年に良品計画へ入社。店舗スタッフ、店長を経て2004年より海外事業部。アジア地域の営業支援に従事した後、2009年よりロンドン支店へ異動。そこでポーランド、ポルトガルでの事業立上げに携わり、2011年8月より現職。一児の父。

イギリス発祥の、ホームレスの人が売る雑誌を日本に

新宿西口交差点で
ビッグイシュー販売中の販売者

山下:雑誌のビッグイシューは、イギリスに赴任していたころ、駅前でよく見かけて知っていました。きっかけがなくて、買ったことはなかったのですが・・・すみません。

川名:右に同じく、でして、ときどき通勤途中に「売ってる人がいるなぁ」と思いつつ、自分も買ったことがありませんでした。

佐野さん:そういう方、多いんですよ。一度買ってくださると、リピート率が高いのですけれど。日本では特に、「(買うまでの)勇気がなかった」とおっしゃる方が多いですね。

山下:イギリスで有名ですよね。半分以上が販売するホームレスの収入になるんですよね?

佐野さん:ええ。雑誌の売価の半分以上を販売者さんに、というのはビッグイシューの共通のルールです。日本版は300円のうち、160円が彼らの収入になります。

川名:日本版って、佐野さんたちが、それを日本に持ってきたわけですよね?すごいですね。

佐野さん:そうですよね(笑)。最初は勢いで、というところもあったのですが、ここまで来るのは簡単ではありませんでした。ただ、背景にある社会的な問題を知れば知るほど、放っておけない思いが強くなりますし、やればやるほど、投げ出すわけにはいかない仕事になってきました。

山下:始められたきっかけは何だったのでしょう。

佐野さん:私たちはもともと大阪出身で、ビッグイシュー日本も大阪で立ち上げました。大阪って、日本で一番ホームレスが多いんです。2003年当時、東京が6,300人くらいだったのに対し、大阪には7,700人以上いました。東京は全人口1,300万人、大阪は800万人くらいですから、人口比を考えると、すごく多いんですよね。夜の11時くらいになると繁華街の商店街には段ボールハウスが立ち並ぶ。それを目にしながら、何でこんなことになったんだろう、、、と思っていました。私が子どもの頃はそんな光景はなかったですから。何かできないかと考え、勉強会に参加しました。欧米の先駆的な事例に学ぼうという内容でした。炊き出しのような活動は大阪にも既にありましたが、団体が自ら収益を作り出す、継続性のある取り組みがとても面白いと思いました。でも、そこでの事例は、不動産やレストラン事業といった、支援の仕組みや組織も大規模で、資金もノウハウもない私たちにはハードルが高すぎるものが多かったんです。その後すぐに出会った、ビッグイシューの仕組みには、可能性を感じました。

川名:立ち上げられた動機にしろ、手段としてビッグイシューを選ばれたことにしろ、共感も納得もできるのですが、実際にやったのがすごい。

失敗を約束された!?雑誌の販売

佐野さん:立ち上げメンバーの3人のうちひとりに、編集経験のある人間がいたことが、できるかもしれない気になった理由なんですよ。ちなみに、経験のない2人のうちひとりが私、もうひとりは私の父(佐野章二:現NPO法人ビッグイシュー基金理事長/有限会社ビッグイシュー日本代表)なんですけど(笑)、私はもともと翻訳の仕事などもしていたので、日本版を立ち上げるならお手伝いしたい、とお願いしました。

山下:本当にやってしまった、行動力と勇気がすごすぎです。

佐野さん:始める前に、雑誌制作やビジネスの専門家に意見を聞いたのですが、どちらにも「100パーセント失敗する」と太鼓判を押されました。ホームレスの支援の方々は「成功するとは思えんけど、まあ、やってみたら?」と。(笑)

川名:だけどめげずにやった!

佐野さん:その時はめげそうになったのですが、専門家ではない素人の友人たちは「絶対にいい!」と言ってくれたんです。寝ているおじさんには声をかけられないけれど、雑誌を販売していたら買う、と。それが後押しになりました。

山下:イギリスで、ビッグイシューの販売者さんを見て、誇りを持って売っている印象を持ちました。働く喜びって、誰にとっても代えがたいものなんじゃないかな、と思います。

佐野さん:仕事って、自分が必要とされている実感を持つことのできる大きな機会ではないでしょうか。ビッグイシューの販売者さんも、販売を続けるうちに、背筋が伸びて、表情に張りが出てきます。ホームレス状態になり、社会から「必要とされていない」という思いを味わってきた人たちですから、初めは伏し目がちですし、様子も落ち着かないんです。それが、少しずつお客さんがついて、挨拶を交わしたりすることで、変わっていきます。

川名:お金を得て、自分で選んでものが買えるようになる、という基本的なことが、実はすごく重要なんだと思います。あと、居場所ができる、という側面もあるんじゃないですかね。佐野さんのようなスタッフの方を含め、ビッグイシューとつながって。

佐野さん:そうなんですよね。父がよく言うんです。「仕事や住むところを失っただけでは人はホームレスにならない。人とのつながりを失って、ホープレスになり、ホームレスになるんだ」って。実際、その通りなんですね。私たちも最初は、仕事のない人たちに仕事をつくることができれば問題解消!くらいに考えていたところもありました。けれどそうじゃない。むしろそこだけに邁進していると、この問題の本質を見誤ることがわかりました。おっしゃるように、居場所、つながり、のようなところを含め、今は、社会のセーフティネットの仕組み自体を社会全体で考え変えてゆく必要があると思っています。

ホームレスの過ごす、過酷な日々

山下:そのあたりことに対して、社会的な理解を得る難しさもあるのではないでしょうか。日本でホームレス支援を行うのって、かなりチャレンジングな印象を持ちます。

佐野さん:そうですね・・・。ホームレスというと、「働かない怠け者」 と思われがちです。でも、厚生労働省が行った「ホームレスの実態に関する全国調査」によると約7割が働いているんです。細々とした廃品回収が多いのですが、そのうち半数くらいの人は、「生活保護を受けずに自分の力で働いて生活したい」と言っています。昼間に寝ているホームレスの人を見かけると思うのですが、夜は襲撃されることがよくあります。その危険を避けるためや人目を忍んで夜中に廃品回収などをして昼間に寝る。明るい時間にお酒を飲んでいるのを目にしたりするのも、実は仕事を終えてからの"お疲れ様の一杯"だったりするんです。

川名:あぁ、そういったことは、聞かないとわからなかったなぁ・・・。

佐野さん:私も体験したわけではないので、理解しているとは言えませんが、ホームレスの日々の過酷さは、「働きたくない」「怠けたい」という理由だけではとても乗り切れるものではないと思います。実際、路上に出て長い人たちのほとんどが、何らかの心身の疾患を抱えています。最近は不況の影響で廃品回収の収入も減ってきていると聞いています。(※2007年の調査では平均月収4万円でしたが、2012年の最新データでは平均月収4千円と10分の1だそうです。)

山下:アルコールなどの依存症の人も多いと聞きます。

佐野さん:多いですね。実は、依存症が理由でホームレスになるより、ホームレスになってから依存症になる人が圧倒的に多いです。前述したように、彼らは仕事がないだけではなく、ホームレス状態におちるまでの過程で、家族や友人、同僚といった身近な人との絆を失っています。落ち込んだとき、絶望したときに信頼して相談したり、気晴らしを一緒にできる相手も場所もない。本当に孤独な状態。そんな状態では明日の希望や目標を持つことはおろか、その時になんとかがんばる理由さえも見出しにくい。「どうでもいいや」となりやすいのは仕方がないことだと思うんです。そして、「どうでもいいや」となったときにどうするかというと、自殺を考えるか、自分を麻痺させるかで、後者の場合、かなりの割合で依存症への道をたどると思います。

山下:辛いですね。何十年か生きてきた人が、人とのつながりを失って独りになってしまう・・・。救えないものなのでしょうか。