各国・各地で 素材を求めて
無印良品は、世界中に足を運んで選んだ素材でできています。
できる限り産地や工場を直接訪ね、品質や生産工程を細かく点検し、その土地の特徴や生産方法を尊重しながら、原料調達を行う。その姿勢は、無印良品が誕生した当時から現在まで、そしてこれからも、変わることはありません。無印良品の品質は、産地とそこに生きる人々との交流を通して、つくられていくのです。
このシリーズでは、こうした産地との取組みをご紹介しながら、「良品」が生まれる背景をお伝えしていきます。

オーガニックコットン ─大地を健康に、働く人に安心を。─

2014年06月11日

オーガニックコットンとは、農薬や化学肥料を3年以上使っていない土壌で栽培されるコットンです。そうした栽培方法は綿花全体の生産量の中で1%に満たず、多くのコットンは、農薬や化学肥料に頼って育てられています。そのため、開発途上国では害虫駆除や雑草管理、収穫前の枯れ葉剤など、散布された大量の農薬を浴びて、多数の死者を出すほど深刻な健康被害も。そしてそれは河川や土壌の汚染にもつながり、生態系を狂わせて砂漠化も引き起こしています。
また、農薬や化学肥料、タネを購入するため、借金苦の悪循環から抜け出せず自殺する農家も増加。GMOと呼ばれる遺伝子組み換え種は子孫を残せないため、毎年タネを購入しなければ翌年以降の収穫が見込めないのです。
安全安心なオーガニック栽培に切り替えたくても、多くの農家にとって、それはたやすいことではありません。土壌改良のためには3年という期間が必要で、そこに移行するための資金的な余裕がなく、命を削るような選択に迫られているのが実情。オーガニック栽培を実現し持続するためには、新たな仕組みづくりが必要とされているのです。

無印良品では、そんな生産者の暮らしと環境をサポートするという視点から、オーガニックコットンへの取組みを進めています。生産の現場と消費者をつなぐことで、生産者の環境、ひいては地球環境まで変えていけるのではないかと思うからです。1999年から切り替え始めたオーガニックコットン商品は、15年たった今では、綿衣料の約5割を占めるまでに。持続的に綿花を買いつづけることで、生産者が安心してオーガニックコットンの栽培に取り組める仕組みづくりに努めています。

一般的に、「オーガニックコットンは高い」というのが、なかば常識になっています。栽培に手間ひまのかかるオーガニックコットンは綿花の価格に10%のプレミアムを乗せますが、10%乗せたその金額を基準にしてその後の加工賃などを上乗せしていくため、最終製品になったとき高価なものになってしまうのです。とはいえ、よいものだとわかっていても、高価すぎてはなかなか手が出せません。多くの人が買いやすい価格になってこそオーガニックコットンが広まり、生産者も安心して栽培しつづけることができるはず。そんな思いから、私たちは10%のプレミアム代金を農家に直接渡し、その分を差し引いた金額を基準にして加工することで、最終的な価格を普通の綿製品とほぼ同じにする仕組みをつくりました。そのために、生産地を探して奥地まで入り込み、オーガニック農法への切り替えを促し、継続した取引による安定した収入を約束する。生産者を尊重し対話を重ね、その暮らしを見届けながら信頼を深めていくことで、新しい仕組みを少しずつ実現していったのです。

畑で働く人々や周辺で暮らす人々が、人間らしい生活を営むことができるように。そして、それが地球環境の保全にもつながっていくように。そんな思いから始まった、無印良品のオーガニックコットンへの取組み。その思いを共有できるオーガニック支援団体企業と協同した、世界の生産地での取組みの一部をご紹介します。

エジプト(ギザ綿)

エジプトでは、バイオダイナミック農法で砂漠をオーガニック農地に変える「セケム(SEKEM)プロジェクト※」と協同して、綿花を調達しています。バイオダイナミック農法とは、水や土壌、植物、家畜などの生態系の自然循環力を利用して砂漠を緑化するもの。スエズ運河から灌漑用水を引き、砂漠を耕しながら混ぜ込んだ家畜の堆肥養分を発酵させて循環のバランスを保ち、農薬や化学肥料を一切使わずに微生物分解を利用した肥料で農作物を栽培。現在までに50万ヘクタール(東京都の2.5倍ほど)の砂漠が肥沃な大地によみがえりました。
ここで栽培されるエジプト綿の代表種、ギザ(GIZA)の畑では、コットン畑の隣にトウモロコシ畑を配して害虫を誘導。自然の営みによって虫の被害を防ぐとともに、コットンとトウモロコシを1年ごとに輪作して土壌が痩せるのを防ぎ、オーガニック環境を保ちながら上質な綿づくりをしています。こうして生まれるのが、繊維が細く長く、しなやかで肌触りのよいエジプト綿。無印良品では、その特長を活かして天然染めのタオルを作っています。

※セケムプロジェクト:1977年、エジプト研究機関、専門家・ドイツデメター協会の推進でスタート

タンザニア(スクマコットン)

アフリカ東部のタンザニア連合共和国では、スイスのリーメイ(REMEI)社の「ビオリ(biore)プロジェクト」と協同しています。タンザニアは、国章にコットンが描かれているほどの伝統的な産地で、遺伝子組み換え種を政府がしっかり制御していることも、私たちがこの地を選んだ理由です。
このプロジェクトでは、昔ながらの農法で半農半放牧を営むタンザニア北部のスクマ族の人たちが定住しながら農作業できるよう、村の開拓から始めました。乾季になると川が干上がってしまうこの地では、水を手に入れることが難しく、子どもたちは15キロ以上も歩いて一日の大半を水汲みに追われることになります。そんな子どもたちが学校に通えるよう、井戸を掘り、学校を建設し、先生も定住できるように環境を整備。また有機農業への転換ができるように、ファイナンシャル・プランナーの役割も担って3年間無料で資金の貸し付けも行っています。こうした自立支援型の仕組みづくりは1994年に15の村からスタートし、今では2,000軒以上の契約農家を抱える大規模な取組みに。
無印良品では、このスクマ族のつくった「スクマコットン」でTシャツやタオルを作っています。

トルコ

オーガニックコットン先進国といわれるトルコは、エーゲ海に面した広大な畑に海からの風が流れ込み、コットンの乾燥と虫害を防いでくれるという、オーガニック栽培に適した土地柄。しかも、大陸からの遺伝子組み換え種が入りにくいという地理的な条件にも恵まれています。
ここでは、2012年からエゲデニズ(EGEDENIZ)テキスタイル社と協同して商品開発。しなやかな長綿の特長を活かして、ベッドシーツやタオルとして製品化しています。世界最大のデニム産地でもあるだけに、栽培だけでなく、紡績や綿操(わたくり:綿花から種を取り除き繊維をとる工程)、染色などの仕上がりまで、一貫生産できる高い技術力が強み。欧州や中東にも近いことから、世界24ヶ国・258店舗(2014年1月現在)で展開する無印良品の、特にヨーロッパ向けのオーガニックコットン製品を支えています。