各国・各地で「瀬戸内・小豆島 ─日本の中の、ラテン─」

暮らしを築いた人々と島の歴史

2014年06月11日

「山の中に、WWOOF(※)を受け入れているディープな農家さんがいる」。こんな魅力的な情報を聞きつけ、ずんずんと車で山を登ります。途中、ふらりと立ち寄ったのは、小豆島を盛り上げる若手のひとりでありアニキのような存在の、堤さんのオリーブ園。心地よい木漏れ日とご機嫌な会話のなかで、これから行く場所を伝えると、「これ、持っていきな、面白いから」。伐採したばかりの美しいオリーブの枝を、ほいっと渡してくれました。枝を抱え、日向ぼっこをするおじいちゃんに突っ込まれながら歩くこと5分。今回は、唯一無二の体験型宿泊施設『コスモイン有機園』を営む、今川夫妻のお話。

野菜の声に耳を澄ます

お土産のオリーブを待ち構えていたのは、おふたりが飼っているヤギのジューン子ちゃんとハルちゃん。「この子たち、美味しいオリーブじゃないと食べないのよ。知ってるのね」と、迎えてくれた早苗さんがにっこり。8年前からWWOOF(※)に登録しているコスモイン有機園には、有機農業や持続可能な生き方を学びたい若者が世界から訪れます。この日も、ドイツ人女性がひとり来ていました。

早速広--い畑を案内してくれたのは、早苗さんとその後をてけてけついていく3匹の猫。「今はあまり何も無い時期なんだけれどね、ちょっとアスパラが出て来たので収穫しましょうか」。そうして、食べごろのアスパラを指差しながら「きちんと無駄無く食べられるように、一番根元で優しく切ってあげてくださいね」と続けます。「大根も、採って欲しいって言っているものを探して収穫するのよ」。早苗さんの言葉を聞いていると、本当に野菜が話しかけてくるんじゃないかと、ついじっと耳を傾けてしまう。この話しぶりもあってか、農業体験に訪れ感動して帰る子どもたちは多いそう。「例えば白菜は、『だっこして、ぐるーっとまわしてごらん』と教えてあげるの。きれいに採れると、もう大はしゃぎ」。そう言って、早苗さんは嬉しそうに目を細めるのです。

無限に生まれる "ハンドメイド"

すくすく育てた麦からは、自家製の麦味噌が出来上がります。(これがまた、麦のどこかスモーキーな香りとさらりとした味わいが、癖になるのです。)さっきもらって来たオリーブも、いつの間にかリースに。早苗さんの手から、次から次へと生み出されるものに感動していると、「うちの母がそういう人だったんですよ」と、何でも無いことのように話し始めます。「子どもの頃は、全身それこそ下着まで母が縫ったものでしたし、無農薬で野菜も育てていて、佃煮なんかも作ってましたね。そういえば、父お手製のレンガ窯で、サツマイモやニンジンの入った手作りパンも焼いてくれたっけ。今思うと、私たちが満足するまで安心できるものを食べさせたいという母の思いが、生活に工夫となって詰まっていたんですね」。

早苗さんの話を聞きながら、そういえば、小豆島や近隣の島のおばあちゃんたちと会うなかで、戦後すぐの時代もしかしたらもっと前からか、大変革新的な料理が確実に存在していた事実に驚いたことを思い出す。これも、どことなくオープンで肥沃な土地柄が、関係していたりするのでしょうか。

暮らしをつくるということ

収穫した野菜とともに台所に戻ると、ご主人・二郎さんが十八番であるおもち入りうどんを振る舞ってくれるところでした。その隣で、この農園の成り立ちについてお話を聞く。「私はヒッピーだったし、当時主夫として子育てをしていたんだよね。でもある日、世に出回る食品の汚染問題について知り、子どもたちに安心できるものを食べさせてあげたいとの一心で農業をはじめたんだ」。35年前に荒れ地を開墾して、ひとまずじゃがいもを植えたのが始まりだったそう。「そりゃあ大変なんてもんじゃなかったよ。お金は儲からないしきついし汚いし。でも、『自分のごはんをつくるのはこんなに大変なんだ』って、子どもたちの目に焼き付けておきたかったんだ」。

大変だったのは農業だけではなく、「もちろん、当時ここで暮らし始めた私たちを、歓迎してくれる人ばかりではなかったよね」と二郎さん。二郎さんは一度東京に出てから、故郷に戻り荒れ地で農業をはじめたのです。自分たちのより良い町のため暮らしのために、先頭に立ち10年以上かけて自治体と戦ってきた歴史もある。多大な苦労を経て今の島での暮らしを作りあげてきた先駆者である二郎さんに、お世話になっている移住者や新規就農者は多い。「『私は、移住者の守護神だよ』と、いつも言っているんだ」。より良い暮らしのために戦い、後に続く移住者を手厚く歓迎してきた二郎さんの言葉には、ずっしりとした重みと包み込んでくれるような安心感がありました。

「できたよ」。出してくれた温かいうどんを大切にほおばる。文化を、暮らしをつくりあげてきた人たちに触れて話を聞くことは、島で生まれたひとつの歴史を知ることになるのだと再認識するのです。

※WWOOF:World Wide Opportunities on Organic Farms「世界に広がる有機農場での機会」の頭文字です。WWOOFは、有機農場を核とするホストと、そこで手伝いたい・学びたいと思っている人とを繋いでいます。
WWOOF ジャパン

[関連サイト]
小豆島の宿 コスモイン有機園
i's Life イズライフ 小豆島のオリーブオイルショップ

  • プロフィール 中村優
    台所研究家。料理は国籍や年齢を超えて人を笑顔にするとの信念のもと、家庭料理を学びながら世界を放浪旅した後、料理・編集の素敵な師匠たちに弟子入り。最近は、ロックなおばあちゃんたちのクリエイティブレシピを世界中で集めている。

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