研究テーマ

各国・各地で

無印良品スペシャルイベント「北の大地に根ざして」第3回『Hitotabi -一度・人旅-』

講演者:佐々木 育弥氏

写真家
札幌市在住。大学卒業後、建築設計デザイン事務所に入社。
その後写真を通して伝えられる「豊かさ」に気付き設計事務所を退社。
2年間海外を放浪しながら写真活動を開始。現在はデザインやディレクション業務も含めボーダレスに活動中。
写真撮影を担当した、『「君の椅子」ものがたり』が、文化出版局より全国の書店で発売中。

近隣の大通り公園では400本のライラックが咲き誇るライラックまつりの最中。5月25日の夕べ、無印良品スペシャルイベント第3回『北の大地に根ざして』が札幌で開催されました。このイベントは、北海道に根ざして活躍するさまざまな団体や個人を、無印良品の価値観やモノづくりの視点を通して紹介するものです。
第3回の今回は、写真家の佐々木育弥さんをゲストにお招きしました。

昨年、『君の椅子ものがたり』(文化出版局)の写真で一躍脚光を浴びた佐々木さん。
もともとは大学の建築学部を卒業し設計事務所に就職、建築家の卵として順風満帆のスタートをきったといいます。そんな佐々木さんが全く畑違いのカメラの道を志したのにはいくつかのターニングポイントがあったようです。

幼少のころから曾ばあちゃん子だった佐々木さんは、曾ばあちゃんのことをいつも写真に撮っていました。それが楽しみだったといいます。

佐々木: そんな曾ばあちゃんが97歳で亡くなった時に、葬儀場の玄関ホールで、それまで撮りためていたいくつかの写真を展示しました。その時に、「祭壇にある写真じゃなくて、この顔が、ばあちゃんだよね!」というみんなの言葉を聞いて、僕自身、心が動き、写真を通して出来る人との繋がりに、その時とても魅力を感じました。そんな写真への恋に落ちたそのころに、趣味での撮影が情熱に変わり、次第に写真を撮ることへの興味が爆発していきます!

佐々木さんは、その3ヶ月後には会社を退社。さらに半年後には、半年間のインドとネパールに自分探しの放浪の旅にでます。沢山の出会いと衝撃を受けて、ここが佐々木さんの旅の始まりでもあって、写真家としてのスタート地点だったと言います。そして3年後の去年の12月。その旅で撮影し、初めての個展までさせてもらった写真を手渡すため、ネパールを訪れます。

佐々木: よく、現地の人たちは、その地に訪れた観光客の人と一緒に写真を撮ったりすると思います。そして「また必ず戻ってくるねー!」なんていつも言われると思うんですが、ほとんどが決して、戻ってきません。慣れているかもしれないですけど、そんなの悲しいですよね?
でも、本当に戻ってきた私には、驚いていました。

佐々木さんにはデジタルカメラ全盛のこの時代にフィルム写真にこだわりがあります。
デジタルカメラはとても便利ですが、モニターで確認した瞬間に、共有していた楽しい空間がなくなってしまうような感覚があるといいます。ファインダーの奥で一瞬見た、「おっ、いいな」と思う瞬間。真っ暗な暗室でジワジワ記憶を思い出すように再会できるその瞬間がとても好きだそうです。

そんなこだわりのフィルム写真の個展会場で、佐々木さんは「君の椅子プロジェクト」代表の磯田憲一さんと出会います。そして、君の椅子プロジェクトのこれまでの歩みが綴られた「君の椅子ものがたり」という本が出版される際、その中の写真も担当することになります。
無印良品は昨年10月、旭川で開催したトークイベントの撮影をお願いしました。写真は社内でも評判になり、今年の2月にはアフリカタンザニアの大地にカメラを手にした佐々木さんが立っていました。本人ですら驚くスピードでの環境の変化。ゆっくり動いていた佐々木さんの中の歯車が音を立てて動きだしました。

佐々木: 私は写真を勉強したことはありませんでした。でも、26歳のときに写真への恋に落ち、情熱を持っていたらできるようになりました。何をするのにも、情熱こそが原動力だと私は思っていす。
人を勇気づけるのは、小さな成功なんかじゃなくて、きっと大きな失敗です。一回しかない、ぶっつけ本番の道を歩いているんですから、失敗だって当たり前です。よかったら皆さんも思い切って、心動く方向に出かけてみてください。

この日紹介された写真の数々は、どれも表情豊かで今にも飛び出して話しかけてきそうな作品ばかりです。人を通じて旅をしていると語る若き写真家に、そんな「一瞬を逃さない一日」という人生にも共通するヒントを教わったひと時でした。