MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト リレートーク vol.3
過去の団地の景観的遺産 ~団地再生の現在の課題とこれから~

※このレポートは、2014年7月9日に行われたトークセッションを採録しています。

木下
ここから少しADHの作品を紹介します。
記憶の継承ということがひとつの課題であった“真壁伝承館”(2011年)です。

撮影:Nacasa and Partners

撮影:Nacasa and Partners

木下
ここでは歴史的な街並みの中に新しい建築を建てるという行為にはどのような手法がありうるかということを考えました。2007年にプロポーザルコンペがあり、その際ADHが選ばれました。この地区にはコンペの段階で104棟の登録有形文化財があり、それがきっかけとなって2010年にはこの地区が重要伝統的建造物の保存地区に指定されました。104棟の文化財とともに、400年間変わらぬ街区割であったことも重要な理由のひとつです。そこで私たちが考えたのは「サンプリングとアセンブリーで作る新しい景観建築」という手法でした。

これはコンペの二次審査の時に使ったイメージです。
木下
旧真壁町の地区から伝統的建造物を中心に建物をサンプリングし、そしてサンプリングしたものを敷地に持ってきて配置する。その操作を繰り返しつつ、サンプリングした建物群を施設の形状にアッセンブルして新しい建築を創造する、という非常にわかりやすい設計手法ですが、実は言うほど簡単ではありませんでした。ただこの考え方が歴史の専門家を含む審査員の歴史の先生方には理解して頂けて、私どもの案を選んでいただきました。

コンペで選ばれてから、先ずサンプリングをするために、学生たちにも参加してもらい、現地調査を行いました。法政大学の歴史の先生である高村雅彦先生にも参加して頂き、サンプリングすべき建物選定などのアドバイスをいただきました。何をサンプリングするかということが一つの鍵で、私たちは構造とか素材とかではなく、建物のプロポーションにしぼりました。つまり軒高とか屋根勾配、高さ、そういうものを重視したわけです。しかし、新しい時代、21世紀に作られる建物なのだから新しい現代の技術で作られるべきではないか、必ずしも瓦やしっくいが使用されていなくても良いのではないかと我々は考え、建物の構造については、現代の技術としてふさわしい鉄板構造を採用しました。ですから、プロポーションや形状は記憶の中にあるものですが、構造技術は最新の技術で考えました。

サンプリングしたものを図面に起こし、模型を作って、市民の人たちと、どうやってアッセンブルするかというワークショップを行いました。3回の市民ワークショップでおよそのゾーニングの方向性が決まり、その決まったゾーニングから我々が設計を進めていきました。

黒い外壁面は、熱負荷のかかる鉄板面の外側に空気層を設けた上で木のルーバーを設置しています。南面、一部東面、西面には木のルーバーを設置し、北面と一部の東、西面は白色の鉄板仕上げになっています。結果できあがった建築は、伝統的な建造物と雰囲気は違うと思います。ただしプロポーションは真壁の街並みにふさわしい、周りのスケールと調和したものになっています。外壁が鉄板ですから、このように子どもたちが磁石を使って創作ワークショップを楽しむこともできるんですね。市民に有効に使われています。
木下
次に集合住宅の話をさせて頂きます。これは18戸の戸建て集合住宅です。

撮影:藤塚光政

木下
配置の考え方は3種類の外部空間が手掛かりとなっています。ひとつはソトマ、もうひとつがエンドマ、三つ目はコニワです。一つ目のソトマは外と土間の造語です。

エンドマは縁側と土間、それからコニワは小さな庭という意味です。高齢者ハウジングですから、お互いがお互いを見守るために有効な構成のコンセプトを考えました。ソトマは複数の住戸が取り囲む中庭、そしてここから各自が自分の住宅にアプローチする。中庭を介してお互いがお互いを見守りながら生活できるようにソトマを捉えました。エンドマはエントランス前の専用の外部空間です。これもお互いに見合うような形の位置に置いてあります。一方、コニワは対照的に、プライベートな庭であり、自分の寝室から一切他の住人と見合うことなく、誰にも見られないで外出もできるような、いわゆる勝手口として考えました。これがソトマの風景です。

それから、ここは高齢者世帯と、若いカップルと子どものいる一般世帯がいる集合住宅でしたので、配置においてもバランスよく異なる世帯をミックスしようと考えました。生活支援センターを生活の中心の場に置きながらバランスよいソーシャルミックスを達成しています。

私たちは、1995年に財団からデザイナー助成を頂いてコハウジングの調査研究をする機会がありました。コハウジングとはその発端は複数の家族が集まり、子育てを助け合いながら一緒に生活する集住形式だったのですが、各住戸のキッチンが歩行者専用通路、つまり共用部分に面して計画されており、それが設計の重要なポイントだということを知り、興味を持ちました。子どもが共用部分で遊んでいる時に、やんわりと親が見守ってあげられる、そういう空間としてキッチンを捉えるということだったのです。そのことから、この高齢者ハウジングでもそのような考え方は結構重要ではないかと思いました。キッチンはエンドマに視線が通る位置に設けてあり、ここに開口を設けて、キッチンに立った時にエンドマを経由して視線のやりとりが、ソトマを介してできるようになっています。
木下
それともうひとつ考えたことは、内部に光をどのように取り入れるかということ。これは予算的に非常にタイトでしたが、小さなトップライトを各住戸に設けて、このトップライトに差し込む光が東または南からとするルールで全体を構成しました。結果、多くのルールにしばられ、配置計画で全住戸にこのルールが成立するようにするのは大変でした。でも、それを守りとおしたことにより、このような屋根景観が特徴的な集合住宅となっています。

撮影:藤塚光政

木下
個人住宅はこれひとつになりますが、家事の回しやすさについて考えた住宅を紹介します。「主婦のいない家」がサブタイトルになっています。

撮影:藤塚光政

木下
奥様がお医者様、ご主人が大学教授という超多忙なカップルで、お嬢様が二人いらっしゃいました。この家族は、自分たちが一緒にいられる時間が非常に少ないので、一緒にいる時は全員の気配がわかるような住まい方を求められました。そこで、提案した住宅は、リビングではなくライブラリー中心の住宅でした。大人も子どもも一緒に作業ができるライブラリー空間です。キッチンは皆が調理に参加しなくてはならないから、どこに何があるかが一目でわかるようなオープンスタイルのキッチンになりました。しかもメンテナンスが楽なオールステンレスのキッチンです。

60坪ぐらいの住宅ですが、子ども部屋は非常にコンパクトになっています。ご両親も、子どもたちは部屋に閉じこもらないでほしいとおっしゃっていました。そこで、ひとりになりたい時には建具を閉めればひとりになれる、開ければこの全体空間の一部になるような、そんな部屋になりました。また、「オープンワードローブ」というのもこの住宅の特徴です。洗って干して畳んでしまって着るという洗濯の一連の行為から「畳んでしまう」部分を取り除くことで家事を少しでも軽減できるのではと思ったのです。つまり、このオープンワードローブの脇に脱衣室と洗濯機があり、洗ったものを干して、この扉を開けると洗濯物が乾く。扉を閉めればそのままワードローブになるという、「オープンワードローブ」なるものです。