MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト リレートーク vol.3
過去の団地の景観的遺産 ~団地再生の現在の課題とこれから~

※このレポートは、2014年7月9日に行われたトークセッションを採録しています。

スピーカー

木下 庸子氏

工学院大学建築学部建築デザイン学科教授、設計組織ADH代表
専門は、建築デザイン。主な著書に「孤の集住体-非核家族の住まい」(木下庸子、渡邉真理共著/1998年)、「集合住宅をユニットから考える」(木下庸子、渡邉真理共著/2006年)、「いえ 団地 まち-公団住宅設計計画史」(木下庸子、植田実共著/2014年)。

スピーカー

高原 功氏

UR都市機構
東日本賃貸住宅本部ストック事業推進部長
UR(当時住宅・都市整備公団)入社後、多くのまちづくりや住まいづくりに幅広く従事。平成19年東日本支社リノベーション設計チームリーダー時代に、ストック再生実証試験「ルネッサンス計画1」の企画・設計を担当。 平成26年4月から、東日本賃貸住宅本部ストック事業推進部長として、MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト、ストック再生・再編及びウェルフェア業務を所掌。

モデレーター

土谷 貞雄氏

株式会社貞雄代表
コラムの執筆やアンケートなどを行い、コミュニケーションを通したものづくりや共感の仕組みづくりを実践。現在はフリーランサーとして企業のウェブコミュニティサポートを中心に業務を行う、また「HOUSE VISION」の活動でアジア各地の研究会など、暮らしに関する研究会を多く企画している。編書に「無印良品とみんなで考える住まいのかたち。」(2013年)など。

土谷
今日はMUJI×UR団地リノベーションプロジェクトのリレートーク第三回目になります。今日の予定は、これから木下先生にお話頂いて、その後ディスカッションという形で進めていきます。改めまして、モデレーターの土谷です。
今日のゲストは工学院大学の木下先生です。自己紹介の時にお話頂ければと思いますが、先生は過去にUR都市機構都市デザインチームリーダーであり団地の研究をされていらっしゃいます。

このリレートークは、3年前から始まっているMUJI×UR団地リノベーションプロジェクトがきっかけでスタートしました。単にリノベーションをするということ以上に、団地というものをテーマに社会や暮らしの在り方をどのように考えていくか、そして団地というものをどのように再編していくことがこれからの未来につながっていくかということを、ウェブ上で議論をしたり、コラム等を書いて団地のことを社会に伝えていったり、またこういったイベントを通して大学の先生やURの方々をお呼びしてお話する中で知ったことを、社会の中にもう一度広めていこうということでこの企画はスタートしています。

大阪では5回ほど行って、東京では今回が3回目になります。東京では第1回目に東京大学の大月先生をお迎えしました。大月先生は建築計画という分野を研究されているのですが、現代における計画の限界性という話がありました。昔は都市計画や建築計画を作ることで基準やルール、あるいはガイドラインを策定してきたのですが、そういった計画が予定通りにならない時代になり、その時に大月先生は色んな家を調査して住み方を調べていきました。そうすると、住んでいる人たちがとんでもない住み方をしていまして。隣の家と穴を開けちゃったり、地下室を増築したり、かなり自由に住みこなしているんです。もちろん違法ではなく、きちんと協議をしてリノベーションしたが住まい方が当初の計画を超えている。そういった計画を超える力が人間にはあり暮らしの自由さに目を向けていかなくてはいけないという話が1回目にありました。

そして2回目には千葉大学の鈴木先生をお迎えし、鈴木先生が取り組んでいらっしゃる千葉県幕張の55,000戸という大規模団地の活性化について伺いました。コミュニティービジネスを通常のビジネスとして、大学を卒業した人たちがNPOの社員として活動していらっしゃることをお伝えいただきました。

そんなことで、1回目は計画、2回目はそのコミュニティー、そして今日3回目となります。木下先生は、団地の生い立ちや、建築の設計そのものを研究されています。今日は団地というものをどういう風に読み解いていくのかということを、本の紹介と併せてして頂いた後に、木下先生がやられているADHという設計事務所で手がける共同住宅についてのご紹介もいただきながら、過去の話から、そしてこれから未来に向かって「共同で住まう」ということ、それがどんな可能性を持つのかということをお伺いできればと思っています。それからもう1人のスピーカーでいらっしゃるUR高原部長は、団地再生を実践している・ストック事業推進部の部長でいらっしゃいます。高原部長はルネッサンス計画という、スケルトン&インフィルや古い建物の活用ということを考え実践し始めた最初の担当でいらっしゃいました。今日初めてこういう形でお話いただきますが、楽しみにしています。

まず初めにMUJIxUR団地リノベーションプロジェクトの話を、MUJI HOUSEの川内設計部長に説明いただきたいと思います。どうぞよろしくお願い致します。
川内
皆さん、こんばんは。MUJI HOUSEの川内といいます。今日は御足元の悪いところ足を運んで頂きましてありがとうございます。私からは、MUJIxUR団地リノベーションプロジェクトについての説明を簡単にさせていただきます。

このプロジェクトは2012年からスタートし、現在では100戸近く手がけています。URは戦後の住宅不足の中で、日本人の暮らしのスタンダードのレベルを上げていこうということで、50㎡に満たないようなコンパクトな中に「2DK」というプランを発明し、新しいスタンダードを築いてこられました。今私たちが2DK、3LDKというと大体どんなプランかイメージが湧く位、本当に日本人のスタンダードな暮らしとそのプランを広めてきた実績をお持ちです。

一方、無印良品は1980年から生活雑貨を中心に様々な商品を売ってきています。現在は7000品目ほどの商品を売っていますけれども、どれも日常の生活に密着した物ばかりです。それまで普通に使われていた鉛筆や消しゴムから衣服、家具、そしてその家具を入れる住居までをもう一度見直し、少しでも暮らしが豊かになるようにということに取り組んできました。そんな中で、私たちはこの団地の簡素簡潔さが非常に好きでして、日当たりの良さや通風の良さの知恵が詰まっていて、そして暮らしの常識を築いてきた団地というものを少し見直すことで、もっと長く上手に団地を使っていけるんじゃないかという思いがありました。そんな思いをURさんにお話させて頂いて、それは今までURさんが築いてきた常識を変えていくということになるんですが、非常に意気投合して頂きましてこのプロジェクトはスタートしています。

このプロジェクトには2つの軸がありまして、一つは古くなった住戸を新しい暮らしの形にフィットする形を考えていくこと。それからもう一つは団地全体で集まって住むということの素晴らしさをもっと訴求していきたいし、変えられるところは変えていくという取り組みをしています。
住戸リノベーションについては、柱や床板など新品では出せない味が出ているものは残して、必要最小限の新しいものを足してリノベーションをしていこうというコンセプトで、壁もなるべく取れるものは取って広く自由に使うことを提案しています。暮らす方が自分で編集できる余地をたくさん残して、自分らしい暮らしが少しでもできればという、そんな想いでリノベーションを行っています。

一方で、MUJI HOUSEのウェブサイトに「みんなで考える住まいのかたち」というコンテンツを設けています。さらにその中に、この「団地リノベーションプロジェクト」というコンテンツがあります。少し手前味噌になりますが、このページでは、シェアルームにモニターとして住んでブログで情報発信するという企画があったり、こんなことができたらいいねという、現時点では実現できないことも含めて未来を描くコラムも執筆・掲載したりしています。それ以外にも住戸のリノベーション事例を紹介し、皆さんと一緒に団地を考えていくページを運営しています。その中で、もっと団地の良さを知ってもらおうということでバスツアーを企画したりもしました。また、大阪の千里青山台団地で住人400人の方が一同に集まって食事会をするという「住人祭」というイベントを紹介しながら、今の団地の素晴らしさを伝えています。

有識者の方々ですとか、他の建築家の方々と、それから皆様とですね、今後も団地がもっと長く上手に使えるように考えていきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。