MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト リレートーク vol.3
過去の団地の景観的遺産 ~団地再生の現在の課題とこれから~

※このレポートは、2014年7月9日に行われたトークセッションを採録しています。

木下
今日はお足元の悪い中お集まり頂きましてありがとうございます。先程もご紹介がありましたが、2005年から2年間、UR都市機構本社(横浜)に在籍していました。その2年間でたくさんの団地を視察してきました。また同時に、本社の資料室で貴重な資料に出会うことができ、この資料がこの資料室に眠っているのはもったいないなと思い、書籍の形で残すことはできないだろうか、と考えました。本当は団地歩きのお供にと思い、ポケットサイズにしたかったのですが、入れたい資料をどんどん追加していたらお弁当箱サイズになってしまいました(笑)。しかし、編集をしてくださった、住まいの図書館出版局の中野さんがとても軽い紙を選んでくださったので、厚さの割には結構軽く、持ち歩き可能だと思います。是非団地歩きのお供に使ってください。
木下
先程もお話にありましたように、戦後の住宅不足の解消のために日本住宅公団は1955年の7月25日に誕生しました。その後現在のURに至るまでの歴史的な話を簡単にさせて頂きます。日本住宅公団は1955年に誕生し、その後1981年に宅地開発公団と統合して“住宅・都市整備公団”となり、このころから再開発の事業に取り組み始めます。また、1980年代半ば頃から団地の建替計画も開始されます。建替事業も進め方に試行錯誤があって、後でちょっとご紹介する団地で、東京都での最初の建替事業が開始されます。その後、1999年には分譲事業から完全に撤退してしまいます。ですから、当初の住宅建設から徐々に都市や環境整備の方に業務がシフトしていくわけです。1999年には「住宅」という言葉が名前から消えてしまいます。つまりこれが、住まいづくりからまちづくりの方に完全に移行していくということの表れでもあると私は理解しています。それで2004年に都市公団と地域振興整備公団の一部が統合されて独立行政法人都市再生機構、アーバンルネッサンスの頭文字を取ったUR都市再生機構・通称URという組織となります。これが簡単な歴史です。

戦後は2DKが一つの標準型として作られて、そのいくつかのバリエーションで住宅不足を解消しようとする時代がありました。このような形で当初の団地は作られていきました。

そのように定型のプランで量を供給する中で、当時の団地設計者が力を注いだところは配置計画にあったと理解し、それを受けてこの本を作りました。ですからこの本はどちらかというと配置計画に主眼が置かれています。

先ず、この本の構成を簡単にご説明しますと、最初に私の紹介文がありまして、その後に、植田実さん(うえだまこと。1935年東京生まれ。編集者、建築評論家)の非常に感情のこもった文章が載っています。その後私がピックアップした55団地の解説があって、そのあとに公団キーワードをつけました。また折り込みの配置図集には、同じスケールで55団地掲載されています。なぜ55かというと、1955年に日本住宅公団ができたのでその年にちなんで55団地をピックアップしたわけです。私が独断と偏見で選んでいいとのことだったので、かなり偏っていますけれども、植田さんと相談しながら選びました。植田さんの文章ではいくつかの団地をまとめたり、二つを組み合わせたりして、感想を語ってくださっています。ですから今日はそれを参考に、4つの組み合わせをお持ちしました。

これが最初の組み合わせです。標準設計の成熟として植田さんが語られていますが、非常に配置計画が面白い二団地です。両方とも矩形の敷地ではなく不整形な敷地です。左側が米本団地で右側が金杉台団地です。
木下
放射状にグルーピングされた住棟配置と歩行者空間となる「リビングコア」と呼ばれる背骨のような尾根の軸がこの団地の特徴です。そこから敷地は両方に下って傾斜しています。どこにいてもこのリビングコアが中心軸なので、団地の全体の配置構成が把握できるのです。そして中心軸に沿って、幼稚園、診療所、店舗等の公共施設が張りついています。

米本団地:完成当時、樹木が育っていなかったときの景観

木下
北が上ですから、ほとんどの住棟が斜めに振れています。斜めに振れても、日照は南東と南西の光を得られるのでさほど犠牲になりません。放射状に配置して、住棟の妻面で囲まれたところをプレイロットとして整備する、それが配置計画のポイントです。米本という地名にちなんで、上空から見た配置が「米」という字になっているというユーモラスな話もありますが。配置計画は、住棟を適当な長さで分節することで傾斜を吸収しながら全体が構成されています。

金杉台団地の配置のポイントは、道路の交わり方です。

金杉団地:車道の交差点と広場

木下
直交(直角に交わる)と三叉路(三本交わる)という2タイプの交わり方があります。例えば、歩行者道と自動車道というように、異なるタイプの道が交わる時には直角に交わっています。それに対して、例えば車道と車道、あるいは歩行者道と歩行者道といったように同じタイプが交わる時には三叉路になる。ですから団地内を歩いていくと、歩道どうしは三叉路、車と交わると直角、といった具合にルールに基づきながら、この全体が不整形な敷地の中に道路が敷かれ、その合間に比較的ランダムに住棟配置がされています。