MUJIのデザインコンペの審査をするのははじめてだった。それは、過去に経験したことのある多くのデザインコンペの審査に比べてはるかに難しいものだった。その理由は、たぶん多くのデザインコンペが新しいアイデアや機能を付加することを競い合う傾向が強いのに比べて、MUJIの場合は「本当にこのような機能は必要なのだろうか?」「便利そうだけど、なくてもいいんじゃないだろうか」と考えてしまうが故だった。「素」でいることに知恵を使うということは易しくない。結果として多くの参加者がMUJI的思想を伝えるためのメッセージのようなデザインをしてきてしまった。MUJIの製品によって多くの人々がその思想を共有することはすばらしいことだと思う。しかし、MUJIの製品はメッセージを伝えるためのものではない。それは、ただ日常の生活に役立つ有用で適正なものなのである。
私は結局、些細ではあるが有用な機能を最低限に施したものを多く選んだ。それらは、どちらかといえば目立たず、見逃してしまいそうなものだった。メッセージ性を含んだものを選ぶかどうかで審査員たちも大きく揺れた。この経験はMUJIにとっても自己の立ち位置を見つめるいい機会になったと思う。
