みんなが“普通に”生きていける社会へ向かって
第16回 手仕事屋 山田久さんインタビュー

プロフィール
山田久さん:有限会社 手仕事屋「ばんまい・やさいの広場」代表

池田で約25年間「ばんまい・やさいの広場」を営む山田さんと、そのまわりの人々が新しい活動をはじめました。それは「池田 こども食堂 いろは」。食堂を開くための動きが始まったのは、2015年の夏ころにさかのぼります。そして2016年1月に、第1回目が開催。月に2回「ばんまい」で開かれ、多い日には70名を越える子どもや大人が集まってきます。そんな山田さんが考える「池田 こども食堂 いろは」とは、いったいどのような食堂なのでしょうか?

「こども食堂」という場所は、いろいろな地域にありますが、なぜここで始めることになったのでしょうか?
山田さん:
何年か前から、子どもを取り巻く環境について、それまでよりもメディアで報道されるようになりましたよね。それで僕も知り、考えるようになったわけなんですが。日々過ごしていると、例えば生活保護を受けている家庭の実情というのは、自分のまわりでは見えにくいものです。普通の人は隠そうとする。「うち貧乏やねん」なんて、言わないと思います。けど「うちの母ちゃん、一生懸命働いているけど、僕ご飯まだ食べてないねん」って、そういうことがあっけらかんと言えるような社会こそが、僕は正常だと思うんですよ。
それで、「こども食堂」という存在に興味を持たれたんですね。
山田さん:
すでに大阪では、意識を持った熱心なお母さんたちが「こども食堂」というのを始めていて、大きな力を出していました。そういう困っている子どもたちに食事を提供したり、勉強を教えたり。そして子どもだけじゃなく、お母さんたちも巻き込んでいく。住みやすい社会にしようと行動しているお母さん方に話を聞きに行って、現場を見せてもらったりしていました。そのうち、自分にもひょっとしたらできるんちゃうかなって考えるようになったんです。
お店の2階を使って。
山田さん:
そうですね。2年前まで、2階の「ばんまい」も無休でやってたんですけど、木曜日を定休日にしたんです。そうすると、下はやってるけど上はなんだか寂しい。僕の中で、この場が動いていないことが寂しいと感じるようになって。それやったら、子どもが来るかどうかはわからないけど、こども食堂というのをやってみようと思うようになった。で、知り合いとかに声をかけて。それが2015年の夏ころですね。
そこから約半年で開催にこぎつけたなんて、あっという間ですね。
山田さん:
僕ね、何かを思いついたり、こうなったらいいのになと思ったら、すぐに自分でやっちゃうんですよ。今回の「池田 こども食堂 いろは」もそうだし、能勢に入って百姓を始めたのだってそうでした。あまり深くを考えるのは苦手なほうなので、やりながら考えるみたいな。結果的に失敗したら自己責任ですし、やらないよりはやったほうがいいのかなって。人に迷惑をかけたらもちろんだめですけど。まぁいっぱい迷惑かけてきましたけどね、親とか家内には(笑)。

こども食堂当日の様子。この日は、60人ほどの子どもとお母さんが訪れていた

なるほど。実際にどんな方が一緒に活動されているんですか?
山田さん:
店でボランティア募集のポスターをはったり、SNSで「手伝って!」という呼びかけをしたりして集まってくれたお母さんや知り合いの大学生もいて、さまざまですね。
「来年の一月からこども食堂を始めるから、協力してくれませんか?」と声をかけて。近くにある福祉法人の人も巻き込んでいます。もともと週に一回、そこの福祉法人に通う精神障害がある人たちと、僕の畑で一緒に農作業をしてるんです。人間って、土や植物などに触れて自然と対話することで、気持ちが落ち着くでしょう? だから、農作業を通して精神的な安定を感じてもらいたいなと思って。そのつながりで、「こども食堂」に関しても、少しずつですが一緒に参加してもらっています。私も含めて誰しもがボランティアだから、お金じゃない部分で価値を見出してもらってるんじゃないかな。
どんな場所を目指そうと、みなさんで考えられたんですか?
山田さん:
子ども、あるいはそのお母さんが気軽に来ることができて、安心していられる場所になることが第一でした。それ以上深い意味はないです。だから特定の層というよりは、いろいろな家庭の子育て支援の場としてあったらいいかなと思っています。たまたまこの場所が食堂であり、私は料理が少しできる。ならば、安心して食べられる食材でつくった料理を食べてもらおうと。
実際に来ている人たちを見ていて、どうですか?
山田さん:
今までは全く出会いもしなかった人たちがここに来てくれて、出会ったお母さん同士、子ども同士に何らかの交流が生まれる。そういうことが少しずつできてきてると思うんです。それってやっぱり素晴らしいことだなぁと思いますよ。いわゆる学校とか保育所とか、幼稚園ともまた違いますね。制約というのかな、これをしなくちゃならないというのがない。規則もない。あそこに行ったら、この規則を守らないといけないとか、そういうのは僕が嫌なので。
いつもとは違う人たちが集まってきているのは、素敵ですね。「池田 こども食堂 いろは」は、13時〜19時までと長い時間されていますが、どのようなことをしているんですか?
山田さん:
食事の時間は16時から(間に合わないときもあります。ごめんなさい)にしているので、僕らは13時ころから仕込みを始めるんです。その時間ももちろん出入り自由。まだ早い時間に来てくれる子は少ないけど、来てくれた子には、もし何かできることがあるなら手伝ってもらったり。例えば作るのは難しくても、サラダに使うレタスを洗って、広げてちぎってもらったり。その子どもができる範囲で関わってもらっています。お母さんも来てくれたら、手伝ってもらう。

配膳の手伝いをする子どもの姿も

食後は自分たちで食器を洗う

単なるお客さんではなく、一緒につくる、と。
山田さん:
僕らは単純に、“つくる人”にはなりたくないんですよ。それだったら「ばんまい」と同じじゃんって思っちゃう。現実はその部分が多いけど、でも目指すところはそうじゃない。ということをね、ちゃんと思ってないとつまらないでしょ。だからそうじゃないんだっていうことは、時々お話ししたりしますよね。時間があったら早めに来て、一緒につくりましょうよということも言います。

本日の献立

「こども食堂がある日は料理の時間を省くことができ、子どもたちと遊ぶ時間が増えた」と話す高野さん。第1回目から足を運んでいるそう

そこは、「こども食堂」という場をつくるにあたって、とても大切なポイントになりそうですね。みんなでつくる場という空気を感じます。今後は、どのようにしていきたいですか?
山田さん:
今は池田市の行政にもk助成協力してもらっているんですが、市の担当者を通して、他のこども食堂とも連携できたらいいなと思います。確か池田市には、今4つのこども食堂があると思うのです。情報交換ができる場があれば、運営することで生まれた問題にも、協力しあってクリアできることがあると思って。市の方には、より現場を感じてもらいたいですね。そうすることで、いろんな可能性が、もっと生まれると思うんです。

ごはんが残っていれば、おかわりをすることも可能。6歳の和真くんは、味噌汁を3回、野菜炒めを2回もおかわり。「おいしい!」とたっぷり食べていた

そうすると、一つひとつのこども食堂に、より広がりが生まれそうですね。
山田さん:
あとは、精神障害のある人がここへ手伝いに来てくれたとき、ゆくゆくは仕事として働いてもらい、金銭的なお礼をできるようになったらいいなと思っています。彼らの中には生活保護を受けて暮らしている人もいるわけで、精神障害があるということで、社会のなかで生きづらかったり、差別を受けたりするのが現実ですよね。そういうものを受けずに、理解しあう社会というのができていくことも、大事なことだと思うんです。社会っていうのは、そういう人も僕らも含めて、みんなで成り立っているわけですよね。

「ばんまい」の一角には、こども食堂のためのチャリティーコーナーが併設されている

いろんな人が、普通に生活ができる社会。
山田さん:
そうですね、そういう社会が理想ですよね、そんなだいそれたことをいつも考えているわけではなくて、普通に生きているわけですけど(笑)。でも何か新しいことをはじめると、自然とそういうところに目が向いてしまう。自分としては特別変わったことをやっているとも思っていないんです。無農薬の野菜を販売し料理に使うのと同じで、それを声高にいう必要もないと思っています。

手仕事屋 山田久さん

有機野菜や無添加の加工品の販売をする「有機農産物と自然食品のお店 やさいの広場」と、「オーガニックレストラン ばんまい」のほかに、「ぎゃらりぃ 手しごとや」や貸しスペース「すぺーす・くるみ堂」を併設する、池田の大きなログハウス。2階の「ばんまい」では、旬の移り変わりに合わせて、その日の食材でつくられる日替わりの「ばんまい定食」がいただける。

DATA
大阪府池田市鉢塚3-15-5A
072-761-0064
1階 10:00~18:30 年始の4日間は休み
2階 11:30~16:00 木曜休、お盆・年末年始休み
http://teshigotoya.org/

池田の人と町の話