研究テーマ

古びない普遍の魅力を持つ「民藝」

会場風景(ギャラリー 2)

東京・六本木の東京ミッドタウンにある「21_21 DESIGN SIGHT」で開催している展覧会「民藝 MINGEI -Another Kind of Art展」をご覧になりましたか? 日本民藝館(東京・駒場)の約17000点もの所蔵品のなかから、本展覧会ディレクターの深澤直人さんが選りすぐった146点が展示されています。20ほどの展示ボックスにおさめられ、そこには深澤さんの素直かつ心浮き立つようなコメントが添えられています。
「使い勝手をそのまま素直にかたちにする」「屈託のないキャラクタリスティックな表情」「シンプルだ!」などなど、コメントを見てから展示作品の数々を見ると、そこにはいかにも使いやすそうな土鍋があったり、舌を出してとぼけたような表情のシーサーがいたり、見たままに彫られた木造の三重塔があったり。まさにコメントの通りで、思わずニンマリしてしまいます。

無名で単純でふつうのもの

ここで少し、民藝についておさらいしておきます。民衆が用いる日用品の美に着目した思想家の柳宗悦さんが、無名の職人たちによる「民衆的工芸」を「民藝」と名付けました。1925年のことです。1936年には日本民藝館が開設され、創設者である柳さんは初代館長も務めました。
開設にあたって、柳さんはこう記しています。
「私たちは無名の職人たちが民衆生活のために作ったそれらの実用品の中に、最も正当な工藝の発達を見たのである。種々な美の相の中で、私たちは健康な美、尋常な美の価値を重く見たいのであって、かかる美が最も豊かに民藝品に示されていることを指摘したのである」(「日本民藝館案内」(1947年 編)より引用)
そして仲間たちと全国をめぐり、調査研究を行い、ものすごいエネルギーをかけて収集を続けました。
対する深澤さんは、無名で、単純で、愛着のあるふつうのものにかねてから魅力を覚え、展覧会やワークショップの開催など、多岐にわたってその魅力を問う活動をしています。
今回の展覧会に向けて、深澤さんはこう記しました。
「私たちは民藝を愛し、尊敬し、民藝に心を動かされる。作者が誰かとか、いつどこでつくられたのか、とかいった情報は必要ない。ただ純粋にその魅力にくぎ付けになる。「これはヤバイ」と」
ふたりの視点は、80年以上の時を超えてとても近く、そして「さがしだす」ことの面白さと大切さを教えてくれます。

「これ、よくない?」というパスを出す

会場風景(ギャラリー 2)

ご存じの方も多いと思いますが、深澤さんは現在、日本民藝館の館長でもあります。
「民藝館に来る人の多くは、建物がまとう雰囲気なども含めて『民藝館マジック』にかけられてしまう。今回の展覧会はそういう先入観なしに、新しい民藝の見せ方や見方を示したところが大きなポイントだと思っています」
たしかに。民藝を展示するために建てられた空間ではなく、コンクリート打ち放しのモダンな空間での展示によって、民藝の見方は大きく揺さぶられます。そして先述したとおり、深澤さんの的確なコメントが、「なるほど、こう見ればさらに面白さがわかるんだ」と、道先案内をしてくれます。民藝のことを知っているつもりだったけれども、実はよくわかっていなかった。そういうコメントも寄せられているそうです。

会場風景(ギャラリー 2)

デザイナーというとかたちあるものをつくるという思いが先行しますが、「曖昧としていた概念に『これってよくない?』と後押しすること」も大切な役割だと深澤さんは考えています。
「僕はそれを『パスを出す』と言っています。目の前にあるのに通り過ぎちゃう人の足をとめて、『ちょっとこれ、面白くない?』とパスを出す。それによって相手はボールを受け取り、立ち止まり、蹴り返すことが可能になる。これからものをつくらない時代がやってきます。そのときにパスを出せるということは、デザイナーの重要な役割になっていくでしょう」

ものを介したコミュニケーション

火鉢 出雲(島根)昭和時代 1940年代〈日本民藝館蔵〉

だから深澤さんは、ものづくりに関わる多くの人に、この展覧会を見てほしいと考えています。時代を経てなおいきいきとしていて、代えがたい魅力があって、「ヤバイ」と感じる民藝の数々に、触れてほしいのだと。
稀代の目利きであった柳さんが熱狂しながら集め、深澤さんにとっての最上級のほめ言葉である「ヤバイ」を連発させる民藝と、同じくらいのレベルでのものづくり。そのハードルは高そうです。
「民藝のかたちやあり方を真似たものづくりをしようということではありません。展示してある民藝が持っているだけの魅力と同じレベルのものを、いまのクリエイターはつくれているかという問いかけ、挑発を、あの展覧会に込めています。感度が高い人であればあるほど、感動と同時に悔しさをおぼえるのではないでしょうか。
それと先ほど話した『パスを出す』のって、いまの時代に即したコミュニティづくりなんですよ。いいなと思って入手したから感動するのではなく、周囲のひとに『これいいでしょう?』って差し出して相手が『ヤバイ!』となったらそれこそが感動の瞬間でしょう? ものを介したコミュニケーションが生まれるんです」
ものには「必要」「ほしい」「芸術」というような段階があるとして、必要だからではなく、ほしいから手にする。声高に言わずとも、ものそのものが魅力を発する。そういうものをいまつくれたら、ときをまたいで愛される「次代の民藝」になるのかもしれません。

会場写真(撮影:吉村昌也)

21_21 DESIGN SIGHT企画展
「民藝 MINGEI -Another Kind of Art展」
2019年2月24日(日曜)まで開催
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
(〒107-0052 東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン)
開催時間:10:00-19:00(入場は18:30まで)
休館日:火曜日
[HP]21_21 DESIGN SIGHT

研究テーマ
生活雑貨

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