研究テーマ

生きる力をはぐくむ教育

子どもを育てるうえで、教育は大切なこと。どんな園に通わせようか、学校に入れようかと悩む親御さんは多いことでしょう。最近は日本でも、従来の枠にはまらないユニークな教育を実践している園や学校が増えてきました。でも、そういう学校はほとんどが無名で、規模も小さく、探し出すのはなかなかたいへんです。そこで今回は、子どもの"生きる力をはぐくむ"教育を行っている園や学校を紹介しているNPO法人の活動に焦点を当ててみました。

「いきはぐ」の活動

自ら学ぶ意欲をもち、自らの力で学ぶ「箕面こどもの森学園」

このユニークな学校・園紹介活動を行っているNPO法人の名は「いきはぐ」。"生きる力をはぐくむ""いきいきする""Hug(ハグ)する"という意味を込めているそうです。"生きる力"とは何か? 活動を立ち上げた征矢里沙さんにうかがうと「幸せに生きるために必要なことを、みずから考え、みずから行動する力」という答えが返ってきました。つまり、自分で考え、自分で道を選び、人と主体的に協調しながら、人生を歩んでいく力のことだそうです。
「いきはぐ」の主な活動は、"生きる力をはぐくむ"教育を実践している幼稚園や保育園、学校などを一般の人に紹介すること。「シュタイナー教育」「モンテッソーリ教育」「もりのようちえん」「サドベリースクール」など、独自の教育理念に基づく園や学校が中心となっていますが、「いきはぐ」としては特に「○○教育」にこだわるわけではありません。口コミや紹介を通して、よさそうな教育機関があれば出向いていって取材をし、その園や学校の教育理念や特長などをホームページにアップして紹介しています。2012年から始まった活動ですが、現在までに全国82か所の園や学校を紹介してきました。

大人を支援するという発想

「いきはぐ」のユニークなのは、「子どもたちを取り巻く大人をサポートする」という考えに立脚していること。ここでいう大人とは、園や学校の運営スタッフや先生のことであり、また、子どもを育てている保護者のことです。つまり、子どもの周辺にいる大人たちの活動を支援することで、子どもたちがのびのびと"生きる力をはぐくめる"環境を整えていこうという考えです。ですから、「いきはぐ」の活動は単なる学校紹介に留まりません。セミナーや講演会を開いて、教育者や先生と一緒に教育について考えていく。あるいはお母さんやお父さんが家庭の中でできることを考えていく。また、学校の先生に向けた書籍※を出版し、学校の中から"生きる力をはぐくむ"動きを広げようとしています。

きっかけは高校の恩師

なぜ、征矢さんはこのような学校紹介の活動を始めたのでしょう。きっかけは高校時代にあったといいます。高校の恩師が放課後に有志を集めて、社会学や哲学の本を輪読して、小論文を書くゼミのようなものを開いてくれたそうです。この"放課後ゼミ"が、それまで優等生で冷めた感じの女生徒であった征矢さんの意識を変えたのです。「自分は今まで勉強して、成績もよく、先生にも気に入られていたけれど、知識ばかりを詰め込んで、本当に学ぶことの意味が分かっていなかった」。自分の頭で考えるとはどういうことか、ということに気づかされ、同時に、「日本の教育はこれでいいのか」という疑問が芽生えたそうです。そうして大学に進み、教育について調べるうちに、「シュタイナー教育」や「サドベリースクール」など、日本にも従来の枠にとらわれない"オルタナティブ教育"を実践する学校があることを知り、「これを紹介する活動をやってみたい!」と思ったそうです。就職して一旦は社会人になりましたが、6年半で会社を辞め、2012年にNPO法人「いきはぐ」を設立。以来、"生きる力をはぐくむ"教育の発展に寄与することをライフワークにしています。

教育の選択肢を広げる

親子で一緒に通えて育ちあえる「札幌トモエ幼稚園」

征矢さんの話によると、現在日本にはおよそ22,000校の小学校があるそうです。そのうちの99%が公立校で、私立校はわずかに200校ほど。さらに、独自の"オルタナティブ"な教育を実践している学校となると、その数はさらに少なくなります。こと教育に限っていえば、日本の子どもに"選択の自由"はほとんどありません。お父さんやお母さんが、今の教育に飽き足らず、「どこかいい学校はないか」と探しても、なかなか見つからないのが現状なのです。
「いきはぐ」が紹介する学校の中には、文部科学省からの認可を受けていないところもあります。以前のコラム「もうひとつの教育」でも書きましたが、子どもたちは地元の公立校に籍を置き、"不登校"扱いで自分の学校に通っています。そしてまた、このような学校は国からの補助がないため、経営的に厳しいところが少なくありません。「こういう知られざる素敵な園や学校を"満員"にして、子どもたちの教育の自由を広げたい」というのが征矢さんたちの夢であり、願いなのです。

21世紀に入って社会は大きく動きだしました。教育も「知識詰め込み型」から、「自分で考える力」をつけさせるものへと変わってきています。"生きる力をはぐくむ"教育が広く社会から注目されるのは、まさにこれからかもしれません。

参考資料:NPO法人「いきはぐ」ホームページ
※トップ1割の教師が知っている「できるクラス」の作り方(吉田忍、山田将由/編著 学陽書房)

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