研究テーマ

毎日の洗濯を考える

記録的な猛暑が続いたこの夏、汗のついた衣類の洗濯に追われた方も多いことでしょう。機械化のおかげで、洗濯という家事は、かつてのような重労働ではなくなりました。しかしその一方で、私たちは、何でも洗濯機に任せてしまい、使った洗剤の行方にまで思いを致すことが少なくなっているかもしれません。

洗浄剤と家庭排水

手でもんだり、足で踏んだり、もっぱら人力を主体としていた洗濯が、機械に移行したのは、日本では1950年代の中ごろ。洗濯機と合成洗剤が登場してからです。その当時の洗剤の生産量は約11万トンで、2012年のそれは約110万トンといいますから、洗剤の使用量は、この60年間で10倍に増えたことになります。
それにつれて河川の発泡が見られるようになり、大きな社会問題になったのは1960年代のこと。その後、下水道の普及や合成洗剤の改良で、一時に比べて海や川はきれいになってきてはいるものの、排水による汚れがすっかり解消されたというわけではありません。環境省のデータによると、東京湾の汚れの6~7割は家庭排水。かつて原因とされた産業排水による汚染が減る一方、最近では家庭排水が水質汚濁の大きな原因になっているといいます。
例えばマヨネーズ大さじ1杯(15ml)を排水口に流すと、魚が快適に住める水質に戻すためには300Lのバスタブ13杯分もの水が必要だとか。洗剤も汚れの原因の一つ。石けんは合成洗剤よりも毒性は低いといわれていますが、分解性が高いため微生物による分解によって酸素を消費します。このため、石けんでも大量に使えば川は汚れるのです。

着たら洗いたい時代に

洗剤の使用量は家庭での洗濯物の量に比例しています。シワがついたから、一度着たから、というだけで、まだ大して汚れていない衣類を洗剤で洗濯してしまうことはありませんか? 衣類についた汗などは、霧を吹いたり水にザブッと浸けるだけでも薄めることができるのですが、私たちはほとんど無意識のうちに洗剤を使い洗濯機に放り込んでいないでしょうか?
自然素材を使った掃除や洗濯を広める活動をしている岩尾明子さんが勧めるのは、霧の力を使った「洗わない洗濯(エアウォッシュ)」です。使うのは、エタノールに好みのエッセンシャルオイルを垂らした溶液を、重曹水で割ってスプレー容器に入れたもの。それを衣類にスプレーするだけで、シワや型崩れが直り、霧に含まれる微量の重曹やエッセンシャルオイルがニオイも消してくれるのだとか。帰宅したらパンツ、スカートやシャツはエアウォッシュしてハンガーに掛けておくと、翌朝にはシワも取れているので、洗濯回数をかなり減らすことができるそうです。
また、大切なスーツなどは、その日のホコリをブラッシングで落としておくと、洗濯回数がぐんと減り衣類も長持ちするといわれています。

自然の洗浄剤

人類が最初に発見した洗浄料は、川や泉、沼などの自然の水だったといいます。汚れを落としやすくする洗浄剤として使われてきたのが、粘土や植物の実、灰などの天然のアルカリ剤、そして石けんでした。合成洗剤が普及したのはわずかここ60年のこと。さまざまな洗剤が洗浄力を競っていますが、毎回の洗濯に本当に強力洗剤は必要でしょうか?
ソープナッツと呼ばれる木の実を洗濯に使っている人がいます。日本名は、ムクロジ(トップの画像がムクロジです)。天然の界面活性剤であるサポニンを豊富に含むその 果実は、石けんが普及する前には洗濯に使われ、硬く黒いその種は羽子板の羽根や数珠としても活用されてきました。東京家政学院大学の研究結果によれば、ムクロジの実の洗浄性は標準洗剤の50%もあるとか。「エコ洗い」をめざす人たちは、この実をエコ洗剤と呼んで、洗濯や食器洗いに使っているのです。また、セスキ炭酸ソーダなどアルカリ剤だけで洗濯する人も。アルカリ剤は皮脂など油汚れを分解する自然界に存在する無機質の物質で、流しても環境に負荷をかけません。いずれも、さっぱりした洗い上がり。軽い汚れの時には、こうしたものを使ってみるのもいいでしょう。

私たち現代人の頭の中では、洗濯と洗剤が結び付いてしまっているかもしれません。しかし、環境に与える影響を考えると、水や植物の実、天然のアルカリ剤など、昔から使われてきた洗浄料を見直してみてもいいのではないでしょうか。着たら洗いたい時代だからこそ、もう一度、毎日の洗濯について考えてみませんか。
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[主な参考資料]
岩尾明子のプラネット日記
サイカチ、ムクロジ、灰汁の洗浄性と溶液物性(東京家政学院大学論文)(PDF:3.7MB)
環境省排水読本(PDF:1.4MB)

研究テーマ
生活雑貨

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