池田に生まれたサマーハウス
第3回 HOUSE OF TOBIAS JACOBSEN ストアマネージャー 国吉玲子さん インタビュー

プロフィール
国吉玲子さん:「HOUSE OF TOBIAS JACOBSEN」ストアマネージャー

セブンチェアをはじめ、世界的に有名なデンマークデザイン家具を生んだアルネ・ヤコブセン。その専門店であるHOUSE OF TOBIAS JACOBSENが、2016年4月に池田の町にオープンしました。古い洋裁学校をリノベーションしたこのお店は光に包まれ、北欧の民家を思い起こさせるようなやさしい空間です。
実はこのショップは、世界で初めてのアルネ・ヤコブセンの専門店。なんでも、彼の世界を受け継ぐ孫のトビアス・ヤコブセンは、ここ池田のまちを「デンマークに似ている」と話し、気に入っているそうなんです。

初めてのアルネ・ヤコブセン専門店が、東京ではなく大阪にできたのは、なぜなんでしょうか?
国吉さん:
もともと弊社(株式会社KEIZO)は、中之島のフリッツハンセンの専門店であるREPUBLIC OF FRITZ HANSEN STORE OSAKA(フリッツ・ハンセンストア大阪)や、銀座のDANSK MOBEL GALLERY(ダンスク ムーベルギャラリー)などを経営しているんです。その関係で社長の砂原がデンマークへ行ったり来たりするうちに、トビアスと友達になったんですね。彼には「いつか祖父のデザインしたすべてのもの(小物、照明、壁紙、家具…など)を一堂に見ることのできるショップを開きたい」という願いがあったそうで、砂原が「それなら日本でやってみる?」と話したのがきっかけだったようです。もちろん東京という案も出ていたんですが、場所を探している時にたまたまここを見つけて。
この物件ありきで、場所が決まったんですね。
国吉さん:
そうなんです。でもトビアスが言うには、池田の町はデンマークにちょっと似ているそうです。都会すぎず、人々がのんびりとしていて優しいって。だからこの町で、アルネ・ヤコブセンの家に遊びに来たと思えるような空間をつくってほしいと。いわゆるショップというよりは、リラックスできる場にコーディネートしていこうとなりました。
町の雰囲気がデンマークに似ているというのは、ある意味運命的ですね。リノベーションはどのようにしていったんですか?
国吉さん:
昭和初期に作られた洋裁学校だったんですけれど、長年使われていなかったみたいです。中に入るとメジャーがかかったままだったり、床も抜けそうな感じだったり、時が止まっているようでした。ちょっと不気味な雰囲気もあったけれど、絶対かわいくなる!と思って。ここでやったら、おもしろそうだなと思ったんですね。だから元の状態を活かし、窓枠は全部昔のまま残して、北側に埋め込んでいるドアをイギリスのアンティークのものにしてみました。低かった天井は打ち抜いて高くし、天窓を入れて。そういうところは大工さんに頼んで、床材を張り替えたり色を塗りなおしたりと、自分たちでできるところは自分たちでつくっていきました。

埋め込んだイギリスのアンティークドア

昔のまま残る窓枠から見えるグリーンは、国吉さんたちが植えたもの。おおい茂る様子は、中から見ているとまるで森のなかにいるような気持ちに

「天窓は、晴れの日はもちろん雨の日も気持ちがいい眺め」と話す国吉さん。滝のように流れる雨を眺めながら、降り注ぐ雨の音に耳を傾けることで、部屋にいながらも自然を感じることができる

実際に、トビアスの反応はどうでしたか?
国吉さん:
彼はここを見て、「デンマークのサマーハウスみたいな感じでいいね」と言ったんです。
そのような仕上がりに意図されていた部分もあるんでしょうか?
国吉さん:
うーん、そういうわけではなく、(洋裁学校という)日本のアンティークと(埋め込んだドアなど)ヨーロッパのアンティークを合わせたことで、結果的にそうなっていきましたね。私自身の頭の中に、自然とこのイメージが培われていたような気がします。
それは、どのようなところからヒントを得たのだと思いますか?
国吉さん:
まず物件を見た時に、ほっこりしていて懐かしい雰囲気というのを、ここでは表現できるんじゃないかなって思ったんです。あと、昔デンマークに訪れた時に自分の中で印象深かった風景というのも、無意識のうちに影響しているような気がします。その時デンマークの北のほうへ足を運んだんですが、藁葺き屋根で窓枠がすごくかわいいムーミンの家のような建物を何軒も見たんです。当時撮った写真を最近見返してみて、「あぁ、私のしたかったことがいま、かたちになったんだな」って実感しました。意図していなかったけど、頭のなかの引き出しに残っていたものが、自然とこのサマーハウスを形づくったように思います。
過去の経験や思い出が、要となっているんですね。
国吉さん:
やっぱり自分の中に記憶している映像や、旅の思い出というものをかたちにしたいっていう思いが、あるんじゃないかなと思いますし、そういうことを大事にしていきたいと思いますね。何気なく見たものが、引き出しの中に入るというか。出会った物事から感じたことが、こうやってなんとなくかたちになっていくんだというのは、このショップをつくっていく上で改めてわかったことです。
トビアスとのイメージの共有などは、どのようにしていったんですか?
国吉さん:
スタートの時点では具体的なすり合わせはしていません。アンティークをミックスすることで生まれるぬくもり感というものが北欧の住まいにはあると思うんです。だから彼の「デンマークのサマーハウスみたい」という一言で、このままの雰囲気を維持し、普通のショップというよりは家のような空間にスタイリングしていけばいいのでは?と思いました。玄関やキッチン、リビングというように、1軒の家を想像して。 でも本当にそれがトビアスの感性と合うかどうかは、一番ドキドキしましたね。彼が見に来た時にすごく気に入ってくれて、みんなでホッとしたんです(笑)。

真ん中はセブンチェアが全種・全色が揃う「セブンの間」。革貼りの素材や布張りの素材もすべて揃っているため、お気に入りを探せる

一番奥に「サロン」と呼ばれるリビングが広がり、反対側にはキッチンスペースが

日本とデンマークという遠く離れた国が融合し生まれた、池田のHOUSE OF TOBIAS JACOBSEN。この場が生まれた理由は、古い洋裁学校という建物の存在はもちろんですが、どこか池田の町が持つ空気が2つの国をつなげたようです。 そのキーパーソンにもなった国吉さんは、実は小さい頃から池田によく訪れていたそう。次回はそんな国吉さんと池田の町を歩き、町の魅力を見つけていきます。

HOUSE OF TOBIAS JACOBSEN 国吉玲子さん

2016年4月に世界で初めての専門店としてオープン。セブンチェアやアントチェアをはじめ、自分のペースで心ゆくまで一生付き合う家具探しができる。

SHOP DATA
大阪府池田市城南3-6-16
072-752-5577
11:00〜19:00
火曜休
http://www.republicstore-keizo.com/hotj/store/index.html

池田の人と町の話