トークイベント「これからの生活によりそうデザインのあり方」

新しいキッチン家電シリーズの登場にあたり、
無印良品 有楽町で開催された深澤直人さんによるトークイベントの模様をお伝えします。
(聞き手:株式会社良品計画 生活雑貨部 企画デザイン室長 矢野直子)

矢野:まず、深澤さんから今回のキッチン家電とそのデザインに寄せる思いをお聞かせください。

深澤:無印良品アドバイザリーボードの深澤です。私は工業デザイナーとして、無印良品以外でも様々な家電に関わっているので、まず、家電全体が将来どのように変化していくかについてお話させていただきます。
世界は塊のようなものと空気のようなモノからできています。人の生活を概念的に考えると壁と人の間に生活の中のいろいろなモノが存在していて、それが壁と体のどちらかに寄っていく現象がおきています。
昔は大きな塊だったテレビは必然的に壁に寄っていきました。かたや、手の中に入ってしまうテレビも、もちろんあります。電話などは体に近寄るという必然があります。オーディオは体に近寄り耳の中に入ってくる一方、壁自体がバイブレーションしたり、壁に納まったりするスピーカーなども製品化されています。エアコンも壁に埋め込まれ、照明も建築化照明というものが出てくるというトレンドがあります。キッチン家電の中でもキャビネットの中に納まって壁化されているモノもあります。
このように壁と体の間にあった塊としての家電は必然的に消えていくと予測できます。しかし、技術の進歩で姿が見えなくなっただけで、機能は残っているのです。このような製品によって、生活は整然としてきます。
無印良品は生活を整然とさせることを応援しています。これが、「無印良品が家電を考えたらどうなるのか」ということにつながりました。人と壁の間の塊が消えていったとしても、テーブルや椅子といった家具のように長い間残ってきたモノもあります。無印良品が販売する生活雑貨は、ずっと昔から残ってきたモノであり、これからも残っていくと考えられます。これらのモノは、生活という枠組みの中でそれぞれにテクノロジーが注入され、インテリジェント化しています。その見えないテクノロジーをどうつなげていくか、インタラクティブ化していくかというデザインが誕生してくと考えられます。
例えば、パンを1枚焼くとか、ご飯を一杯食べることに対して考えれば、家電の中でも非常に単機能で単純なものは、壁と人間の間に存在し続けるとも考えられます。

矢野:それは道具としての家電ということですか?

深澤:そうです。家電というくくりではなく、お皿とかフォークやナイフと同じように存在し続ける「道具としての家電」が存在すると想像されます。
壁と人間の間にあるモノをダイヤグラム化すると、おもしろいことがわかります。壁は人工物の極みなので四角とすると、人間に近づくにつれて丸くなっていると感じます。つまり、そのモノがどの位置にあるものかと考えればおのずと形が決まってくるのです。
今回発売するキッチン家電でいうと、冷蔵庫は壁に近いところにあるので四角くなります。そうなると既存の電気冷蔵庫になぜ湾曲したデザインが存在するのかが気になってきました。湾曲したデザインで差別化するというのがその理由ですが、無印良品にはそのようなことは必要ありません。無印良品らしい四角く、シンプルなデザインでいながら、ギスギスしたハイテクな製品ではないものになります。

矢野:人間に近づいていくほど、丸くなるのでしょうか。

深澤:寄り添うという抽象的な概念でいうと、人間の体に近づくにつれ、やさしい形のほうがなじみやすいだろうなといえます。私たちの仕事というのはモノに形を与えるのではなく、ポジションをきめていくというか、生活の中でこれは壁に充当されるものなのか人間の手によって使われるものなのかを考えることが重要なのです。

深澤:個々の商品を四角い壁に近いものから紹介します。

電気冷蔵庫
これは6年ぶりに復帰するデザインなのですが、一度販売を終了したところ、お客様からお問い合わせが多く、今回復刻したという経緯があります。生活空間の中で邪魔にならないシンプルなハンドルとフラットな鋼板が特徴です。ハンドルにはタオルをかけたりできるのですが、鋼板は非常に薄いものなので、十分な強度でハンドルを固定するには非常に高い技術が必要です。シンプルにするというのは実は大変なことなのです。 6月にはステンレス製の冷蔵庫も発売されます。

赤外線センサーオーブンレンジ、オーブンレンジ、電子レンジ
窓とインターフェイスの部分を横長にして、少し人間味を持たせました。良く見ると窓の角に丸みを持たせています。これも先ほどの丸、四角の概念から考えたものです。ウィンドウ自体、結局はインターフェイスなので、コーナーを丸くしているのです。
そして、アナログ式のダイヤルを採用し、簡単にメニューや時間を設定できます。

オーブントースター
縦型のオーブントースターは壁に近い存在ではありますが、よりテーブルに近いところに位置しているものです。こちらもアナログ式のダイヤルを採用しています。

しゃもじ置き付き炊飯器
しゃもじ置きを思いついたのは、12年前になります。左手にまずご飯茶碗を持つ、右手にしゃもじを持ちフタをあけ、ご飯をよそった後に、このしゃもじをどこに置くかを考えると行為が止まります。その後の行為をいろいろな人に尋ねたところ、流し台の端においたり、フタに置いたりしていました。しかし、ほとんどの炊飯器の蓋というのは平らでは無く、また上にスイッチがあるので安定しないというのです。そこでインターフェイスを前面にし、蓋を平らにし、しゃもじ置きをつけました。12年前の製品とは異なり、かなり小さくなり、四角丸になりました。

ポップアップトースター
トースターもかなり角が取れていますが、炊飯器よりも四角い形です。これには理由があります。中はしっとり、外はカリッと焼くためヒーターとパンとの距離が必要になります。その距離を狭めてしまうと、早く焼けるのですが、もっちりとした食感がなくなってしまいます。また、外側にある程度の厚みがないとトースターの外側が熱くなってしまうので、安全性も考慮した最適な形になっています。
スイッチは単純なダイヤル式ですが、冷凍パンを焼くための機能がついています。

電気ケトル
家庭では長い間、電気ジャーポットというものが主流でしたが省エネへの意識から、すぐにお湯がわかせ、電源が切れる電気ケトルが台頭してきました。無印良品の電気ケトルは家電よりも、陶器や鍋、器と同様に見えるように、水差しのような形をしています。これは余談ですが、杭州の美術館で5000年前の水差しが同じ形をしていて感激しました。

ジューサーミキサー
こちらは、優しいくびれのついたデザインです。上部を取り替えるとフードプロセッサーにもなります。

深澤:家電は家電の世界に閉じこもるのではなく、今後は生活雑貨を扱っているブランドが展開すべきと考えます。「家電は無印良品で買う」といってもおかしくない時代がくると思います。

矢野:無印良品も今までは家電売場という展開をしていましたが、今回のキッチン家電の開発をきっかけに、キッチンツールの1つとして販売します。

深澤:今回のキッチン家電は自然の成り行きの中にはまるということを意識しています。
無印良品はそんな時代を「待っていました!」という状況の中にいるのです。

矢野:最初の家電を開発してから12年経って、何か変わってきたことはありますか。

深澤:変わったのは、無印良品では無く、社会です。無印良品が求められ成長してきたころ、社会はもっと混沌としていました。皆が整った状態が良いということに気づき始めたので、無印良品はそんなに目立たなくなってきました。この状況の中で、単に家電を白くしたり、四角くしたりするだけではいけないと感じました。親しみのある魅力が必要だと。機能的で無機質なものづくりから、人間の気持ちにやさしいという魅力を持たせたいと思ったのです。

矢野:無印良品は昨年、中国に100店舗目をオープンし、今後、海外への進出が加速しています。この商品は最初に日本で発売しますが、今後、海外でも販売する予定です。グローバル展開の中で、無印良品のモノづくりのメンバーが気をつけていかなくてはならないことは何でしょうか?

深澤:3年間で中国に100店舗を出店できたのは、無印良品ががんばったというより、中国の皆さんに求められていた必然だと感じます。既存の産業に代わって、日本のインフラ技術が輸出されている中、それとともにライフスタイルも輸出されているということは非常に意味があります。多くのアジアの国々は、何が本当に豊かな生活なのかをまだまだ模索中です。その意味で指標となっているのが、無印良品なのではないかと思います。
使う人々はカルチャーが違っていたとしても、人間の身体という意味では同じです。人々が触れ、使う商品がインターフェイスになるということを考える必要があります。

矢野:家電を世界に向けて売っていくということは本当にチャレンジだと思います。世界も含めてみんなが家電に求めているのは何なのでしょうか?

深澤:家電業は産業を牽引する重要なものでしたが、競争が激化するゆえに、新製品が発売し続けられ、消費者も疲れてきたと思います。非常に機能的なものがある一方で、「最低限の機能でいい」と思っている人もいます。家電という概念ではなく、ひとつのスマートな生活用品としての家電が求められていると感じます。
無印良品は、将来的に変わらずに残っていく機能を大切にし、商品化しています。競争に巻き込まれるような機能ではなく、これは絶対に残るだろうという機能を見極めていくのが無印良品の役割です。

矢野:「残っていく」というのは、変わらない「真理」ということでしょうか。

深澤:食パンのサイズ、人間のサイズが変わらないように、残る機能というのは変わらないのではないかと思います。
もう1つ変わらないものが価格についての考え方です。キッチン家電は、これだけ考えられてつくられているのですが、価格は良心的です。無印良品が誕生のときから守り続けている「わけあって、安い。」という概念は死守しなくてはならないことです。
無印良品は厳しいブランドです。無印良品は、そこで働いている人々がつくり上げているのではなく、お客様を含め、その概念を共有している全ての人によってつくられています。だから、間違えてしまうと批判をすぐに浴びてしまいます。これはものすごく力強いバックアップなのです。ですから、モノをつくる上での考え方(アウトライン)は、きちんとつくらなければなりません。ただ、商品に関しては、若干ゆるくなければならないと思います。あまりきちんとしすぎると何か疲れてしまうということころがあるので、そのあたりの按配には気をつけていかなくてはならないと思います。無印良品の家電に求められているのは、親しみやすさだと思います。人にあげたくなる家電、ギフトにしたくなるような家電と思っていただければ、幸いです。