無印良品 キャンプ場

特集 | 2019 SUMMER
ひと足延ばして、冒険しよう

半島から、半島へ

あそんだ人◯佐伯英範、飯山光波、相馬脩平

土曜日の朝。自転車を抱えて電車で郊外の街へ。
サイクリングしながら観光......と思いきや、
僕らは街を飛び出し、半島をひとまたぎ。
海の交通を見守る灯台からは、
湾の向こうにある半島の影が見える。
目指すのは、あの半島の先っぽにある灯台だ。
いつも椅子に座りっぱなしの身体を
自転車に乗せて、ペダルをこぐ。
山を越え、街を抜け、海を渡って、
半島から半島へ、自転車で巡る週末旅。

1泊2日の自転車旅。輪行してきた小径車を駅前で組み立てる3人組。仕事仲間である佐伯さん(左)、飯山さん(中)、相馬さん(右)の3人が目指すのは、湾を囲むふたつの半島を自転車で走ること。まず1日目は、海に近いこの街から半島を横切って、湾を渡るフェリーの港を目指す。
平坦な海沿いから半島を横切るアップダウンの激しいエリアに入る。初夏の緑が気持ち良いけれどそれを楽しむ余裕もなくなる。励ましあいながら必死でペダルを踏み込めば、「坂を越えるたびに、絆が強くなった気がします!」(相馬さん)
緑濃い半島の中央部を越えて坂を下ると、視野も広々、道も広々、街に出た。地元の人たちに人気のパン屋さんに立ち寄る。「あら、自転車でどこまで?」「フェリーに乗って湾の向こうまで!」「まあ、がんばって!」というやりとりも楽しい。
あっちに寄ったりこっちに寄ったりしながら、陽も傾き始めた頃、ようやく港へ、フェリーに乗り込む。「あらためて地図を見てみると、こんなに走ってきたのか! とびっくりしました。走っている間は景色も刻々と変わるので、感覚的にはあっという間でした」(飯山さん)
湾の向こうの半島に上陸して、来し方を眺める。「同じ海なのに、あちらとこちらで表情が全然ちがうんです。フェリーを降りた時は、ゲームで言うところの、ひとつのステージが終わって次のステージが始まる、みたいな気分になりました。2日目もがんばります」(佐伯さん)
2日目、曇り。風もやや強い。街から街に自転車を走らせた昨日とは一変、のどかな漁港の町や田んぼの中を抜けていく。地元の人に地域の歴史を教えてもらったり、びわ園に立ち寄ったりしながら、のんびり進む。
いよいよ旅も終盤戦。岬への長く緩やかな坂道をひたすら登る......いつまで続くんだ......と、遠くに灯台が見えてきた。あそこがゴールだ。「想像していたよりも、冒険でした。自転車でこんなわくわくを味わえるとは!」(相馬さん)

みんなで「その先」を
眺めるために

あそんだ人、代表/佐伯英範

自転車で二日間、旅をした。やってみようと思いついたものの、最初、地図で確認したその距離にビビってしまったのは、悲しいかな大人になってしまったからだろうか。

子どものころは、自転車に乗ればどこまででも行けると思っていた。五歳の頃には友達と補助輪付きの自転車で隣町まで行って、親に心配をかけたこともあったっけ。小学生や中学生の頃は、自転車で海まで通っていた。片道十五キロくらいの道のりが当たり前だった。

ビビってる場合ではないぞ、と気持ちを奮い立たせ、スタートの駅で待ち合わせた旅の友二人と一緒に、持ってきた自転車を輪行バックから取り出して組み立てた (実は、この時点では二人も相当不安だったらしい、ということを旅が終わってから知った) 。そして、「ゴールまで行けなかったら、それはそれでいいじゃないか!」と、大人の余裕ってやつを引っ張り出して、三人でペダルをこぎ始めた。

今回のルートは、海にほど近い駅から海沿いを走り、半島を横切って反対側の海に至り、さらに海岸沿いを走って港からフェリーに乗り、湾の向こうの半島へたどり着く一日目と、二日目は向こうの半島を南下し、先端の灯台を目指す、というものだ。

走り出すと、実にさまざまな情報が飛び込んでくることに驚いた。目に映る景色の変化はもちろんのこと、海が近づけばまだその姿が見えなくても磯の匂いがしてくるし、農道を走ればどこからか家畜の匂いが鼻をかすめる。波の音や鳥の鳴き声もいいBGMだったな。山道に入ると街より気温が下がったのが感じられたし、日差しが強く暑い午後でも、日陰に入るだけでぐっと涼しさを感じられるのには感動した。ただ自転車をこいでいるだけなのに、常に周囲がリズミカルに語りかけてくるから、気分はどんどん上がっていった。

知らない街を走って、知らない人と出会う。それだけで大冒険だ。

並んでしゃべりながら歩くのとは違って、自転車は走っているときは基本一人なのだけど、時折声をかけあう仲間がいるのはやっぱりうれしい。半島を横切るアップダウンの多いエリアでは、「坂だー! がんばるぞー!」「よーし、イーチニー! イーチニー!」と、部活のように三人で声を出した。道端にユニークな看板を見つければ、「あれ、見て!」と誰かが声をあげ、笑って疲れも吹き飛んだ。僕たちは、ペダルをこげばこぐほどに無邪気になっていって、出発時に抱いていた不安は、いつの間にかどこかへ消え去ってしまったように思う。

思い返せば、走ってきたのはなんてことのない道ばかりだったけれど、住宅街でも商店街でも農道でも海沿いでも、初めて走る道だからいつもわくわくしていた。曲がったら何があるのか、トンネルを抜けたらどんな景色が広がっているのか、〝その先を知らない道〟を進んで行く、というのがたまらなく面白かった。事前に細かく調べていなかったのもよかったのだろう。知らない街を走って、知らない人と出会って言葉を交わす。それだけで気分は大冒険だ。「どこから来たの?」「半島の向こう側から、海の向こうの半島から、自転車で来ました」「ええっ! 本当!」というやりとりを何度したかなあ......!

そして二日目の昼過ぎに、僕らは無事、目標の灯台にゴールした。三人揃って「ゴール!」と灯台の敷地に立ち、ぐるり自分たちを囲む海を眺めていると、果てまで来たなぁという思いと共に、ものすごい達成感に包まれた。それは、二日間走りきった達成感でも、目的地に辿り着いた達成感でもなく、この旅を三人で思い切り満喫した! という達成感。体力は完全に奪われ、くたくたに疲れたけれど、どこか満たされた感覚があった。それは、一緒に旅した二人も同じはず。そういえば、子どもの頃に友達と自転車で遠くに出かけて帰ってきた時も、こんな気分だったっけ。

あの頃の僕に今改めて伝えたくなった。「自転車があればどこまでもいけるってその考え、あながち間違ってないぞ!」ってね。

外あそびした自転車はこちら

さえきひでのり(中)|1977年熊本県生まれ。アートディレクター。広告制作会社を経て独立、サーフィンをしながら面白そうなことには何でも取り組む。自転車で遠くに行くのは子どもの時ぶり。旅の友は仕事仲間の飯山光波(左)と相馬脩平(右)。2人とも自転車でこんなに長距離を走るのは初めて。

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