みんなの外あそび | No.152
平穏な日常に感謝!

だから冒険はやめられない

森山沙織/編集者

大学の卒業旅行で行ったイギリスが、人生初の海外、しかも一人旅。道中の高揚感はかつて経験したことのない素晴らしいもので、帰国した私は「これから一年に一度は、まだ行ったことのない国を旅しよう」と決意したんです。以来、40か国くらいを旅したでしょうか? 各国を訪れるなかで感じるのが、世界がどんどんアメリカ化していっていること。住んでいる人には便利になっているんでしょうが、旅する人には〝その土地ならでは〟が見つけにくくなり、物足りなくなっているような気もしますね。

そんな世の中にあって、私を惹き付けてやまないのが、メキシコ南部とグアテマラ北部です。英語もほとんど通じないし、想定外のことばかり起こるし、旅はまさに冒険そのもの。しかもアメリカに比較的近いエリアなのに、食べ物も服も家も何から何まで自分たちの文化を頑なに守っているのも興味深い。

なかでも一番印象に残っているのが、グアテマラとの国境にあるメキシコの先住民の町、サン・クリストバル・デ・ラス・カサスです。空港からは乗り合いバスで、長時間の悪路を経て町にたどり着いたときは、とてつもない達成感と、途方もない後悔の両方を感じました。「ここまで来ちゃったけど、無事に日本まで帰れるんだろうか」と(笑)。

とはいえ、何だかんだ毎日ワクワク過ごしていたときに、その予感(!?)は的中。近くの沿岸をマグニチュード8・2の地震が襲ったのです。時刻は夜の0時近く。トランポリンのように揺れるベッド、暗闇の中に響く自分の分からない言葉で泣き叫ぶ人々の声。状況が分からない恐怖のなか一晩を過ごし、朝になって外出すると瓦礫の山。もし万が一、日中で外を歩いていたときに地震があったら......と思ったらゾッとしました。それからいろいろな問題をクリアして無事日本に帰国したときには、思わず涙ぐんでしまいました。

その後も懲りることなく辺境各地を旅していますが、旅先で時々この地震の一夜を思い出しては、「冒険旅行が楽しめるのは、日常が平穏無事なおかげなんだよな」と、感謝の気持ちが湧いてくるようになりましたね。冒険がサバイバルになったことで、人生の大きな気づきを与えられた、忘れられない旅になりました。

もりやまさおり|1977年新潟県生まれ。外資系出版社勤務。女性誌の編集を経て、現在は男性誌で旅や食などカルチャーページの編集を務める。取材や旅行で、月1ぺースで海外を飛び回る日々を送る。特技はどこでも寝られて、何でも食べられること。

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