みんなの外あそび | No.008
身近な場所で耳を澄ませば分かるのです。

足音とそのリズムで感じる自然

中西哲楼/ドラマー

東京で愛犬と暮らしはじめてかれこれ5年になる。オスのウェルシュ・コーギー。キツネのようにピンと立った耳と、少年のようなつぶらな瞳がチャームポイントだ。
朝晩の散歩は彼にとっても、そして僕自身にとっても毎日の楽しみのひとつ。
自宅から歩いて数分の所にある井の頭恩賜公園。ここが僕たちの散歩スポット。テレビドラマの撮影にもよく使われているこの公園。敷地はかなり広く、その面積は東京ドーム約8個分もある。
都会の公園にはお決まりのスワンボートが浮かぶ池もあれば、ちょっとはずれに行くと、ソロ、ナラ、クヌギなどが生い茂る雑木林が広がっている。いわゆる武蔵野と呼ばれる地域。初夏には青々とした新緑がうっそうと生い茂り、サンサンと太陽の照りつける夏を越え、秋には大量の落葉となる。
冬のこの時期、1人と1匹は自然の営みが生んだ落葉の上を散歩をする。僕はノッシ、ノッシ歩く。胴長短足の愛犬はカサコソ歩く。ノッシ、ノッシ。カサコソ。ノッシ、カサコソ。
とびきり寒い朝には霜柱が立つ。その上を今度はサクッ、サクッと踏みしめる。サクッ、サクッ。カサコソ。サクッ、カサコソ。お互いの足音が混じり合い、その日だけの特別なリズムを刻む。
そして僕たちの踏みしめたものは春に向かって、少しづつ土へと帰っていく。僕と愛犬の散歩も自然のサイクルの一部を担っている。
朝の散歩を終えてから中央線に乗ろうと吉祥寺まで出かけた。ふと振り返ると僕の足跡が駅ビルの床の上にずらーっと並んでいる。靴の裏に付いた泥のせいだ。掃除のおばさん、ごめんなさい。街には街のルールがある。きちんと守らないとな。そうだ、今から散歩用の靴を選びに行こう。新しい靴はどんな音がするだろうか。今晩の散歩が、がぜん楽しみになってきたぞ。

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中西哲楼|1971年名古屋生まれ。蟹座。O型。インディーズロックバンド「ザ・ガールハント」のドラマー。愛犬、楽太郎とは一緒に遊んだり、ケンカしたりと兄弟のような関係。
オフィシャルウェブサイトにてエッセイ「せやから☆中チン」を連載中。

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