研究テーマ

「良品計画社員と学ぶNGO・NPOの活動」第48回 森は海の恋人×良品計画 山・川・海、そして人の心に樹を植える

社会貢献活動を行う団体の活動を、良品計画の社員との対談を通してお知らせします。第48回は、環境教育・森づくり・自然環境保全という領域で活動を続けている、NPO法人森は海の恋人さんにお話をお聞きしました。

人間とはどのような存在か、自然と人との繋がりから考える。

様々な環境問題が深刻化するなか、自然環境を改善するためには、そこに生活する人々の意識が大切になってきます。人間たちの活動も含めた大きな流れの中で、地球の環境はつくられていきます。日常生活ではなかなか感じることが少なくなってしまった「自然と人との繋がり」について、今一度考えを巡らせてみませんか。

プロフィール

森は海の恋人

気仙沼出身の歌人の句「森は海を 海は森を恋いながら 悠久よりの愛を紡ぎゆく」より名づけられた「森は海の恋人」をキャッチフレーズに、自然の循環・繋がりに焦点を当てた活動を展開しています。子供たちへの体験型環境教育は小・中・高校の教科書にも紹介されており、気仙沼を拠点として国内外で幅広い活動を行っています。

森は海の恋人について詳しくはこちら

  • 畠山重篤さん

    NPO法人 森は海の恋人
    理事長

    1943年中国上海生まれ。県立気仙沼水産高校を卒業後、家業の牡蠣養殖業を継ぐ。海の環境を守るには海に注ぐ川、さらにその上流の森を守ることの大切さに気付き、漁師仲間と共に「牡蠣の森を慕う会」を結成(2009年、NPO法人森は海の恋人を設立)。1989年より気仙沼湾に注ぐ大川上流部で、漁民による広葉樹の植林活動「森は海の恋人運動」を行っている。東日本大震災で牡蠣養施設等の全て失うが、震災後の自然環境を活かした地域づくりを展開している。

  • 山崎伸也

    良品計画
    店舗開発部 開発Ⅰ課

    1998年にアルバイトスタッフとして無印良品での勤務をスタート。大阪の複数の店舗で勤務の後、無印良品つかしん店に店長として着任。2006年に本社員となり、無印良品八尾西武に店長として配属。大阪、山梨、東京で店長として勤務、静岡でブロック店長として勤務をし、2014年2月より現職。現在は、主に国内の新規出店業務を担当。

  • 籔内佑子

    良品計画
    食品部 菓子MD担当

    2005年入社。近畿地区での店舗勤務を経て、2007年に京都市内の店長に着任。その後、都内2店舗の店長業務を経験し、2012年食品部に配属。DB数値担当を経て現職。現在は主にチョコレートやスナックなどの商品開発や企画、品揃えを担当。美味しいご飯が何よりの充電。今年は「自家製○○」のレパートリーを増やすことが目標。

凝縮された自然を体感できる、気仙沼湾という場所

森、里、海がコンパクトにまとまっている
三陸リアス式海岸

山崎:まず、活動の中心とされている気仙沼湾がどういった場所なのかを教えてください。

畠山さん:人と自然との関わりを凝縮させたような場所ですね。特に河川と海の関係が肝要な場所です。日本において河川が何本ほど流れているかご存知ですか。

山崎:見当もつかないですが、尋常ではない本数になりますよね。

畠山さん:二級河川まで含めると、およそ3万5千本にのぼります。

薮内:そんなにもあるのですか!では、日本で河川と関わりがない地域というのは、ほとんどないんですね。

畠山さん:加えて、日本の国土は約7割が森林です。そこから川が海まで流れているため、日本の国土の周囲はほとんどが淡水と海水が混在した「汽水域」という水域にあたります。汽水域は水質が保てれば、生物多様性を保つことができる水域です。

山崎:多くの生き物が繁殖できる土壌がある水域なんですね。そして、牡蠣の養殖を行っている気仙沼湾は現在、その理想的な食物連鎖が成り立っている。

畠山さん:はい。河川から流れ込む水が生態系に大きく影響するため、河川の流域に暮らす人々の生活も深い関係があります。コンパクトな空間ですが、気仙沼湾は自然と人が互いに与えあう影響をすべて体験できる場所です。気仙沼湾を見ることは、日本を見ることと言っても過言ではありません。

漁師たちの自然への想いをきっかけに

薮内:牡蠣の養殖業をされているとお伺いしました。森に目を向けた活動を始められたきっかけは、なんだったのでしょうか。

畠山さん:高度経済成長のときの赤潮がきっかけです。当時、気仙沼湾の赤潮被害は凄まじいものでした。何せ、ほとんどの牡蠣が真っ赤になってしまいました。

薮内:赤潮というと、プランクトンの大量発生で海が真っ赤に染まる現象ですよね。赤潮被害というものは、なぜ起こってしまうのですか。

畠山さん:主な原因としては、大気や森林への汚染が挙げられます。そもそも、あらゆる生き物は食事を確保できないと繁殖ができません。貝や魚といった海の生き物たちも同様です。魚介類は植物性プランクトンを食べて成長しますが、植物性プランクトンたちが成長していくには、樹木や河川の成分が必要になります。森と海の生態系というのは、非常に深い関係性があるんです。

山崎:では、逆に森や海が汚れていくと、生態系に互いに悪影響を及ぼし合うことになってしまうのでしょうか。

畠山さん:ええ。大気汚染や森林の伐採が原因で起こる代表的な現象が赤潮です。赤潮プランクトンを食べてしまった牡蠣は、血のように真っ赤な色になってしまいます。見た目が悪いだけではなく、人体に影響を及ぼす毒素を取り込んでしまっている可能性も高いです。

薮内:豊かな海の牡蠣が、真っ赤に・・・。見たときのショックは、計り知れなさそうです・・・。

畠山さん:厳しい状況でした。けれども「もう一度豊かな海を取り戻したい」という想いが強かったので、自分たちに出来ることを模索していくことになりました。そうして漁師の仲間たちとともに、植林を中心とした活動が始まっていったんです。

山崎:では、自然への想いから活動が動き始めたのですね。

畠山さん:はい。今年で活動を始めて27年目ですが「豊かな自然を守りたい」という気持ちは変わりません。その想いはスタート地点ですし、私たちの活動の根源的な使命でもあります。

多くの分野を飛び越えた活動

薮内:非常に息の長い活動ですが、それだけ活動の広がりには時間が必要だったのですか。

畠山さん:私たちは山や川、森や海などの自然の要素を繋がったひとつのものとして捉えますが、そういった考え方は活動当初、非常に新しいものでした。そのため受け入れられるのには少々時間が必要となりました。

山崎:関わっている分野や人も多いので、どの分野の人にどうアプローチしていけばいいかという方法を考える時点でとても大変そうです。

畠山さん:ただ、実際に生活を営んでいる住民同士では割とスムーズに考え方が浸透していきましたね。漁や養殖に木々を使うことはもちろんありますし、古い時代ではロープの代わりに山葡萄のツルを使っていました。林業や農家などの山の人々と、我々海で生きる漁師というのは関係性が深いんですよ。

薮内:「森と海」と聞くと、真逆の暮らしぶりをイメージしてしまうので、意外でした。たくさんの知識が必要になると思いますが、学問的には分野をまたいで研究されているのですか。

畠山さん:おっしゃる通り林学や水産学など、専門となる学問が分かれてしまっているんです。これは活動を広げていくうちに段々わかってきたことでした。しかし現在では京都大学の協力も得て、基盤になる新たな学問分野が出来ています。「森里海連環学」と言います。

山崎:学問が新たに創設されたのですか。そういった動きが生じるほど、画期的な考えだったということですね。

畠山さん:それまでなかったことが不思議なくらい、人の暮らしと自然との関わり方について総合的に見ていくという視点は、自然と関わるうえでなくてはならないものです。だからこそ私たちの活動に注目をしてくださる方がいて、分野にこだわらない形でも少しずつ広がりが見えてきているのだと思います。