研究テーマ

盆踊り・盆ダンス

お寺や神社の境内、公園、学校の校庭、時には商業ビルの屋上…いろいろな場所で盆踊りが催される季節になりました。ゆかた姿の人々が集まり輪になって踊る姿は、まさに"日本の夏"。だれでも一度は体験したことのある夏の行事ですが、その由来などを訊かれると、はっきり答えられる人は少ないかもしれません。今回は、そんな盆踊りについてのあれこれをご紹介しましょう。

「おかえりなさい」の踊り

盆踊りとは、読んで字のごとく、お盆の時期(旧暦の7月13日から15日)を中心に、みんなで集まってする踊りです。音頭あり、太鼓あり、歌あり、おまけに屋台までありで、現代人としては楽しい気分が先立ちますが、本来は先祖の霊を慰めるための行事。あの世から家族のもとへ帰ってくる先祖の霊を迎え入れ、共に過ごした後、ふたたび死者の世界へ送り返すという意味で踊るのが盆踊りでした。かつては夜を通して踊られていたというのも、また、新盆(にいぼん:人が亡くなって初めて迎える盆)の家々を回って踊る風習が今でも各地に残っているのも、そうした理由からなのでしょう。

夏を楽しむお祭り行事

盆踊りにはもうひとつ、豊年祈願の踊りという側面もありました。夏の娯楽として行うことの多い現代の盆踊りは、こちらの流れ。同じ場所で顔を合わせ一緒に踊ることで、地域の人の交流の場となり、帰省した人々の再会の場や家族の思い出づくりの場ともなって、人と人とを結びつけているのです。
「吉事盆(きちじぼん)」「生盆(いきぼん、しょうぼん)」などという言葉があるように、生きている人が集える幸せを喜び合う日でもある「お盆」。そう考えると、これはこれでお盆本来の意味をとどめているといえるでしょう。

月あかりの下の盆踊り

月の満ち欠けを基本にした旧暦(太陽太陰暦)では、盆踊りの行われる7月15日の夜は十五夜で、翌16日は「十六夜(いざよい)」。つまり、いずれかの夜は月が満ちて満月となり、照明のない時代でも月あかりがその場を照らしてくれたことでしょう。さらに月の引力のせいか人の気分も高揚するため、盆踊りには最適だったといわれます。そして、会場に灯される提灯も、そもそもは先祖の霊があの世へ戻っていく道を照らすためのもの。こうして見てみると、かつての盆踊りは、うらやましいほどの舞台装置のなかで行われていたんですね。

盆踊りの型

おわら風の盆

盆踊りというと、櫓(やぐら)を囲んで輪になって踊る「輪踊り」が一般的で、今ではほとんどのものがこのスタイルです。
それに対して、列を組んで大通りなどを踊り流すのは、「群行(ぐんこう)型」と呼ばれるもの。その代表的なものが、徳島の阿波踊りです。「踊る阿保に見る阿保…」という有名な歌詞は、幕末のころ大阪の祭礼で歌われた「踊る阿保に見る阿保、同じ阿保なら踊らぬは損じゃ」と同じものだとか。大阪ではすたれたものの徳島で定着し、今や一大観光行事として県外各地にまで輸出されています。
そんな阿波踊りを群行型の「動」の代表とすれば、「静」の代表といえるのが富山県八尾市の「おわら風の盆」。哀調を帯びた独特のおわら節にのせて、風を鎮めることを祈る静かで洗練された踊りは、多くの人を魅了し、期間中の来場者数は25万人ともいわれます。

ハワイの盆踊り

「盆踊り=日本の夏」というイメージがありますが、実は太平洋の楽園・ハワイも盆踊り王国として知られます。19世紀末、サトウキビ・プランテーションの労働者としてハワイに渡った日系移民の人たちによって始められ、その子孫たちのコミュニティが主な担い手となって定着し、広まっていったもの。日本と同様「お盆」の時期が中心ですが、6月から9月初旬までの足かけ4ヵ月間、毎週末どこかで開催され、その数は80ヵ所にも及ぶとか。毎年5月には、ハワイ全体の開催スケジュールが『ハワイ・ヘラルド』紙上に掲載され、ファンはカレンダーを見ながら参加する日を選ぶといいますから、驚きですね。

盆踊りから盆ダンス(bon dance)へ

不慣れな生活の寂しさや労働の辛さをやわらげるために、出身地を懐かしんでそれぞれのプランテーションから始まったハワイの盆踊り。やがて寺院で開催され出身地の異なる人々が交ざって踊るようになると、県人意識から日本人意識に基づく行事へ。さらには、日系以外の人にも楽しめるオープンな多民族・多文化行事となり、「盆踊り」は「bon dance」へと変容していきました。寺の庭という安全な環境で、コミュニティのさまざまな人々が交わり、互いを知りあう場を提供するbon dance。そうした社会的貢献の一方で、開催日程にあわせて新盆供養の行事が行われたり、灯篭流しをする会場もあったりで、盆踊り本来の祖霊供養の意味は今でも生き続けているようです。

顔も知らないご先祖を含め、多くの人とのつながりのなかで生かされていることを感じる「お盆」。関連する行事のなかでも、特に盆踊りは、幸せ感を与えてくれるものですね。
この夏、みなさんは、どこでどのような盆踊りを楽しまれますか?

参考図書:
『日本年中行事辞典』(鈴木棠三/角川書店)
『ハワイ盆踊りにみられる伝統文化の継承』(島田法子/海外移住資料館 研究紀要第 9 号)

研究テーマ
生活雑貨

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