研究テーマ

救急車の呼び方

病気や怪我で「たいへんだ!」となったとき、頼れるものは救急車。「119番」に電話をすれば、最寄りの消防署から駆けつけてきてくれます。でも、そんなとき、意外に難しいのが「救急車を呼ぶべきかどうか」の判断。どのような症状なら救急車を呼ぶべきか、または自力で病院へ行くべきか。今回は救急車の呼び方について考えてみました。

増えつづける出動件数

最近、こんな話をよく耳にします。「救急車が現場に到着する時間が遅くなっているらしいよ」と。総務省消防庁の調べでもそれは裏付けられていて、救急車が現場に着くまでに要する時間は、平成16年に全国平均で「6.4分」だったのが、10年後の平成26年には「8.6分」と2分以上も伸びています※1。それも年々遅くなる傾向にあるのだとか。救急搬送は一刻を争うものだけに深刻な問題でしょう。
その遅れの原因として挙げられているのが、救急車の出動件数の増加です。といっても、昔に比べて重篤な患者さんが増えたという話ではありません。軽症の患者さん、つまり、救急車を呼ぶほどでもない人の119番通報が増えているらしいのです。平成27年度の「消防白書」によると、平成26年中に救急搬送された人の症状の割合は、軽症(入院治療を必要としないもの)が49.4%、中等症(重症・軽症以外のもの)が40.2%、重症(3週間の入院治療を必要とするもの)は8.7%でした。搬送された人のうちの約半数が軽症で、なかには救急車を呼ぶ必要のなかったものも含まれているとか。比較的症状の軽い患者さんの救急要請が増えたぶん、救急車の到着時間に遅れが生じているということのようです。とはいえ、救急車の要請をためらううちに、症状が悪化することも考えられます。こと人命にかかわることだけに、救急車を呼ぶべきか否かの判断は難しいのです。

救急車を呼ぶ目安

救急車を呼ぶかどうか迷ったときに、判断の目安となるものがあります。総務省消防庁が発行している「救急車利用マニュアル※2」です。この冊子には「ためらわずに救急車を呼んでほしい症状」が大人と小児(15歳未満)に分けて紹介されています。たとえば大人だと「顔半分が動きにくい、あるいはしびれる」「突然の激しい頭痛」「胸の中央が締め付けられるような、または圧迫されるような痛みが2~3分続く」など。小児の場合も「くちびるの色が紫色で、呼吸が弱い」「手足が硬直している」「激しい下痢や嘔吐で水分が取れず、食欲がなく意識がはっきりしない」など、表現はかなり具体的です。
でも、残念ながらこれを見てもまだ判断に迷うこともあるでしょう。「突然の激しい頭痛」といっても、どのくらいからが「激しい」のか、程度がわからないからです。そんなときに頼りになるのが、各都道府県や市町村に設置されている「救急相談窓口」。迷ったらこちらに電話をかけてみるといいかもしれません。

救急相談窓口の活用

東京都の場合は「♯7119」という短縮番号があり、ここに電話すると「救急相談センター」にダイレクトにつながります。電話の向こうには24時間、医療知識を持ったスタッフが常駐。指示に従って症状を話せば、向こうで救急車を呼ぶべきかどうかの判断を下してくれます。ちなみに「♯7119」は「シャープな119」と覚えておくと、いざというとき役に立つかもしれません※3。
この「♯7119」という番号、便利なのですが、いまのところ使える自治体が限られています。平成28年1月時点で「♯7119」を採用しているのは、東京都のほか、大阪府、奈良県、和歌山県の田辺市、北海道の札幌市、横浜市に留まっています※4。上記以外の地域に住んでいる方は、各地方自治体が設けている「救急相談窓口」に直接電話するしかありません。電話番号や受付の時間帯は地域によって違うので、あらかじめ地元の消防署や役所に問い合わせて、「救急相談窓口」の電話番号と受付時間を教えてもらっておくといいかもしれませんね。
また、夜中に子どもが熱を出したり、ぐったりした場合も、やはり救急車を呼ぶかどうかの判断になると思います。こちらの場合は厚生労働省が設けている「小児救急でんわ相談」があります。休日・夜間の病院が閉まっている時間帯に「♯8000」にかけると、お住まいの自治体の相談窓口に電話が自動転送され、医師や看護師のアドバイスが受けられます※3。「♯8000」は全国どこからでもかけられるので、お子さんがいらっしゃる方は、ぜひ覚えておくと便利でしょう。

聞くところによると最近は「日焼けしてひりひりする」「酒を飲みすぎてしんどい」「車の鍵をなくして自分で病院に行けない」といった程度のことで、救急車を呼ぶ人も増えているとか。こういうケースは論外ですが、でも、発熱や腹痛なども症状によっては緊急性のない場合もあります。救急車を呼ぶかどうか迷ったら、119番の前にまず「救急相談窓口」に電話してみてはいかがでしょうか。
病気や事故は、ある日突然やってきて、平穏な私たちの暮らしを脅かします。そんなとき、電話一本でかけつけてくれる救急車は、命をつなぐ大切な存在。それだけに乱用を避け、みんなで適切に利用していきたいものですね。

※1総務省消防庁「平成 27年版 救急・救助の現況 P27 傷病程度別の搬送人員」より

※2総務省消防庁「救急車利用マニュアル」
[関連サイト]
救急車利用マニュアル A guide for ambulance services :: 総務省消防庁

※3「♯7119」「♯8000」の短縮番号はダイヤル回線、IP電話、ひかり電話等からは利用できません。その場合は各自治体の救急相談窓口の電話番号に直接おかけください。

※4総務省消防庁「平成27年度 救急業務のあり方に関する検討会報告書」より

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