研究テーマ

もう一つのアートを見る

画像:ポコラート宣言 2014 会場風景

どこかでお聞きになった言葉ではないでしょうか。
アール・ブリュット、アウトサイダー・アート。
そして障がいのある人たちの表現活動とそれを支える
アーティストや周りの人たちの加わった、ポコラート。

画像:ポコラート全国公募展 vol.3 福住廉賞受賞作品

東京のアーツ千代田3331では2010年から障がい者アート支援事業としてポコラート全国公募展を実施しています。今までに5000点近い作品が寄せられ、入選作品発表の会場はいつも熱い空気にみちています。それは作品をつくる人たちが専門の美術教育を受けたわけではなく、またアーティストになるという目的意識をもって始めたのでもないことと関係があるのかもしれません。
ここでは、「障がい者美術」というようなくくりでは捉えきれない最近の表現者たちの動きを追ってみたいと思います。

生(なま)のアート、アウトサイダー

画像:ポコラート全国公募展 vol.2 中村政人賞受賞作品

ブリュットはフランス語で生。つくるひとの中から生まれ出ているまさに生な感覚。既成の価値観、美術の技法などによらず自由につくられたものたち。
フランスの画家、ジャン・デュビュッフェが専門的な美術教育を受けていない人たちや精神病患者などの作品に価値を認めて"アール・ブリュット"と呼んだことに始まります。彼は膨大なコレクションをつくるまでに「生」の作品を追い求め蒐集したことで知られます。このコレクションはスイスの美術館に収蔵され、アール・ブリュットの言葉とともに世界に広く知られるようになりました。20世紀半ばのことでした。
アウトサイダーアートはイギリスの動きと呼称で、知的障がい者が施設内で描いたものを指すこともあり、また障がい者という狭い範囲ではなく、伝統的美術教育のアウトサイドであるさまざまなジャンルの制作物を含めて呼ぶこともあります。音楽、ファッションなども美術のアウトサイドに置かれる場合は、この区分けが使われます。
日本ではかつて精神科医の式場隆三郎さんが作品を推薦した山下清さんの例(1930年代後半~)が広く知られています。また、欧米が美術作品として評価するなどの専門的見地を持つのに対して、日本では福祉施設などでの教育活動が盛んに行われ現在に至っています。

パラトリエンナーレ、ポコラート

画像:ポコラート全国公募展 vol.4 会場風景

オリンピックがある時には併せてパラリンピックが行われることは誰でも知っていることですが、アートのオリンピックと言われる各国・各都市のトリエンナーレ。3年に一度開かれる国際美術展で、今年は横浜でも開催中ですがここにパラトリエンナーレの企画が入りました。紹介文にはこうあります。
「鋭い知覚や能力のある障害者と、高い技術をもつ多様な分野のプロフェッショナルが、出会い、共鳴し、試行錯誤の末に新しい芸術表現を生み出す場」。
ここでは展覧会だけでなく、踊ったり、衣装をつくるなどの参加型のプログラムも組まれています。
「ポコラート宣言2014」として、全国公募展の中から選ばれた作品群は東京のアーツ千代田3331からまず東北へ、そして四国の高知へと巡回します。
この動きは現在の日本の社会で大切にしていきたい"共生共存"の願いの現れとして注目したいものです。20世紀の欧米から学んだアールブリュット、アウトサイダーアートの流れが呼称や領域、障がいの有無や年令、経験の差などをこえて顕在化しようとしているのです。従来の福祉や美術教育の続けてきた方法や考え方とは異なる方向も見えてくることでしょう。
ちなみにポコラートとは、Place of"Core + Relation ART", 障がいのある人・ない人・アーティストが核心の部分で相互に影響しあう場、を意味しています。
ポコラートの制作者、3331ディレクターの中村政人さんの言葉があります。
━障がい者のアート作品は多くの場合、厚生労働省では福祉の視点、文部科学省では美術の文脈で語られます。残念ながら、その縦割りを超えて発表・評価されることはまだ一般的とはいえません。つまり「福祉」には「表現」という個性が欠けており、制度化された「美術」には「魂」の叫びが欠けているのです。━ 中村さんは、そのための表現の場がもっと開かれ、なにより人々のアートへの固定観念が変わることを願っています。

芸術の秋、今回は"もうひとつのアート"とも言える領域に目を向けました。
あなたはどのようにアートに触れていらっしゃいますか。

[関連サイト]
ヨコハマ・パラトリエンナーレ
3331 Arts Chiyoda:アーツ千代田
3331 Arts Chiyoda:アーツ千代田 > ポコラート全国公募 vol.5

研究テーマ
生活雑貨

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